十話 青髪の正体
外に出てしばらく経った。アダルの悪い予感というものは何故か当ってしまうのか外はホテルよりも喧噪となっていた。
「なあ、ほとんどの温泉で百度を超えたらしいぞ」
「ええ聞いたわ」
「何でも火傷した奴もいたらしい」
「その中には子供もいたそうよ・・・」
「可哀想に・・・」
「・・・・だけど何で急にこんなことが起こったんだ?」
「・・・・・まさかもうすぐ噴火する山でもあるのかしら?」
「それはわからないけど・・・・」
「・・・・・兎に角ブラッド家が調査しているらしいからその結果を待つしか無いな・・・」
アダルが聞くまでも無くこの混乱の中では勝手に情報が耳に入ってくる。なんて優しい世界な事でと内心で呆れながらアダルは歩みを続けながらさらに耳を澄ませた。
「・・・・・にしてもよ。過去何回か噴火することはあってもこんな事は無かったよな?」
「・・・・それもそうね・・・・。なんで今回だけこんな前兆が出たのかしら・・・」
「別に噴火したって私達に被害は無いんでしょ? ここには何せ自然の結界があるンだから・・・・」
楽観的な意見も耳に入る。確かに過去噴火してもこの町には被害が無かったと言う。
「だけどその考え方は危険だろ・・・・」
独り言ちる声は当然自分にしか聞えない。そのくらい小さな声で言ったのだから。
「僕もその意見には賛成だな」
突然の賛同の声にアダルは背筋が伸びた。そして声のする方に目を向けると三度あの青髪の青年が立っていた。青年はアダルと目が合うと微笑み浮かべ、軽く手をフリながら此方へと寄ってくる。
「またあった。これは奇跡的な偶然だな・・・」
邂逅一番にはなった言葉にアダルは違和感を覚える。
「・・・・・・・2回だけならまだしも。3回目となれば必然だろ」
明確に警戒した素振りを見せたアダル。なにせ見た目は好青年でもアダルが気配を読めない人物である。警戒するのは当然であろう。
「・・・・・・警戒されますか・・・」
「気配を消して何回も近付いてきたんだぞ? 当然だろ・・・」
青年は少し残念そうに言葉にするがアダルは其れをばっさり切った。
「・・・・・何の用事で俺に近付いてきた?」
ただまっすぐにアダルは彼の目を見て、問うた。
「そう警戒するな。君の悩みを解決してやっただろ?」
「ああ。其れは感謝為る。だがそれだけの縁で近付いてきたわけじゃ無いんだろ」
如何に混乱した状況であろうと。2回目の邂逅。数えるくらいしか言葉を交わらせていない相手に話かけるとは思えない。
「そもそもあの悩みは解決していない。後に回しただけで今もその問題は残っているんだ。其れで恩を売ったつもりなら勘違いも甚だしいと思うが・・・・」
アダルの言葉に青年はきょとんとして記憶をさかのぼった。
「どうやら思い違いがあったようだ」
「記憶力がバグっているな。名探偵じゃあり得ないミスだぞ」
ここぞとばかりにアダルは煽るような言葉を浴びせる。それに対して青年は苦笑いを浮かべた。
「・・・・・まあどんなに優れた人だってミスはする。完璧な人間はいないって事がこれで証明されたわけだ」
とってつけたようにどこかで聞いた事があるような言葉をすらすらと口にしていく。
「話を戻す。・・・・なんで俺に近付いてきた」
「君に興味があったんだ。少年を救った英雄君」
顔には出さなかったがアダルは内心では舌打ちを鳴らした。
「何に興味があるんだ? 俺なんてどこにでもいる悩める男だと思うが・・・」
「子供が岩場に取り残されていた時点で温泉の温度は既に百度は超えていた。触っただけで火傷するような温度だ。その上でさらに温度も上げって行く事は分かっていたんだろ? その中でも勇敢に入っていったのが君さ。聞いた話じゃ下半身全体が浸かって居たって言うのに火傷の一つも無かった。興味深い話しじゃないか・・・」
他人の目から見たことだったなら正しく興味をそそる対象であるだろう。アダルももしそのような人物がいたのなら興味をそそられる。彼の言っている事には共感するところもあった。
「其れで話かけてきたって言うのか。こんな混乱した状況で・・・・」
このタイミングで話駆けてくるのはおかしいだろと内心で溢す。其れはどうやら顔にも出ていたようで青年に伝わってしまった。
「まあ、言いたい事は分からないでもない。実際君に興味があるのは勿論その通りだが、今はそれ以上に興味深いことが起こっているのだから」
「じゃあ何で俺に話かけてきたんだ?」
警戒心剥き出しで口にすると青年はノータイムで返答した。
「君もこの事態の情報を知りたいんじゃ無いかって思って近付いたんだよ」
「・・・・・・口ぶりからするとお前は持っているって言うのか? その情報を」
そしてきっと彼は此方の情報も持っているのだろうと言うのが今の言葉で分かった。
「持っているよ。・・・・・僕は何でも持っているし分かってしまうんだ」
「俺の素性もか?」
あえて挑発気味に強く言うと青年は微笑んで頷く。
「そうか。・・・・・道理で」
反応を見てアダルはなんとなく納得した。そしてこの間星の意思から教えられたことを踏まえて口にした。
「お前は誰だ」
遅すぎる疑問であった。何故ならアダルからしたら一回会っただけの存在。そんな彼に名前を問う事なんて無いと思っていた。だがここまで情報が掴まされているのだとしたら話は変わってくる。その正体はなんとなく察しは付いているがアダルはあえて聞いた。
「僕が誰か。なんて野暮なことを聞くな」
「お前から話かけてきたんだ。まずは自分の事を話すのが礼儀だと思うが?」
確かにそうかと思ったような素振りを見せた青年であったが、悪い子とを思いツタ異様な笑みを浮かべた。
「じゃあ君の推理を聞かせてくれ。僕は一体誰なのか」
「魔王種の一体」
アダルは間髪入れずに即答する。
「俺の入っている情報を纏めるとお前は必然とそうなる」
「その情報って?」
青年はアダルが持っている情報に興味を持った様子だった。別に彼が本当に魔王種だった場合開示しても良いものだったから彼は堪えた。
「魔王種は俺たちと同じ転生者。其れも全魔皇帝によって呼ばれた存在だと言う事。そしてそのほとんどが前世の記憶を持っている。俺たちとは違ってな」
「はは。そういう推理をしたのか。」
肩を竦める青年は呆れた様子だった。
「なんだ? 違うのか?」
「ええ。違いますよ。・・・・というかたった数日合わなかっただけでもう顔を忘れたんですか?」
「・・・・・は?」
やれやれと言った様子で指を鳴らす。為ると彼の体躯は少し縮んだ。顔も幼くなり、十代後半の少年に見える。青髪は長くなったその顔には明らかに見覚えがあった。
まったく。アダル君は薄情ですね。折角貴方の代わりに巨人を倒したって言うのに・・・・」
「・・・・・なんでお前がここにいるんだよ・・・」
苦虫を噛んだような表情を浮かべたアダルはその少年。ハティスに文句を言った。
「当然ながら君に吐いていたら何か起こるのでは無いかと思い、密かに吐いてきたんです。温泉で接触したときに気付くと思ったんですけどね」
悪びれもせずに顎に手を置きながらそう口にする。それを聞いたアダルは一気に疲労感が増したのだった。
「お前。演技力高すぎるだろ・・・・」
「ははは。興味深いことも聞けましたし、意外な特技がわたしにも有ったようですね」
ほどほどにしろよと言葉にしつつ居心地の悪そうにしているハティスが言葉を紡いだ。
「ですが本当の事もありますよ。先程私が口にした事は本当ですから」
「どこまでがだ?」
「何でも持っているのと何でも分かってしまうと言うところですね・・・」




