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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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閑話 計画する影

 どことも知れぬ、暗闇の中。いくつもの色を持つ影がうごめいていた。影達は澱んだ金色の球体を前にそれを囲むように並んでいる。

『未だ、余の目的は達成されぬか』

 厳かな声がその場に響く。その口調はどこか悲しんでいるように感じさせる。

『今はまだ、準備の段階です。焦りは禁物ですよ、我らが主君』

 長身の青の影が金色の球体に向け、そう口にする。

『それもそうだな、青』

 金色の球体は青と呼ばれる影の言葉に納得する。

『しかし、頭! 青は少し慎重過ぎると想いますがね!』

 そこにがたいの良い緑の影が不満げに苦言を呈してくる。青の影は緑の影を睨むよう顔を向ける。

『それは我も感じていた。少々青は臆病だ』

 だが、緑の影に賛同する者が現われた。彼の隣にいる細身の藍の影だ。藍は同意を求めるように小柄な黄の影に目配せする。黄の影はそれに驚いた様であわあわと青の影と藍の影に見比べている。

『あ、私は。私は!』

 黄の影は怯えた様な声で必死に自分の言葉を伝えようとする。しかし黄の影がそれを言う前に長い髪を靡かせる赤の影が黄の影の前に出た。

『こんなかわいい子。いじめるんじゃありません。この子は私の小悪魔ちゃんなんだから』

 そう言うと、赤い影は黄の影の背後に回り、抱きしめるような体勢を取った。

『あ、あわわっ!』

 赤の行動に驚いた黄の影は素っ頓狂な声を上げた。

『その行動は止せ。主君の御前だぞ!』

『ふふふっ! はーい、青!』

 青の影は赤の影を窘めると、赤の影は含み笑いをしながら黄の影から離れた。

『あ、私は青の行動には賛成だな? だってこの件は虫たちにバレちゃいけない訳だから』

 離れ際に赤はそんな事を口にする。赤の言葉に青は複雑な息を吐き、言葉を続ける。

『お前に是非など求めていない。気分で勝手に行動する奴など聞いても無駄だ』

『ひっどーい! 折角青に賛成してあげたのに!』

 青は赤の言葉を切って捨てる。その行動に赤は拗ねたような口調で言い返した。それを見ていた緑は愉快そうに笑った。

『日頃の行いだな。残念だな、赤?』

 緑はからかうように口にする。それを耳にした赤はべぇーっと嫌味に舌を出す。

『赤の事はほっといて。会合を始めるとしよう。なあ、青』

 藍は一度赤に目を向けたあと、青に話を進めるように促す。

『ああ、そうだな。始めるとしよう』

 青は藍の指示に従い、会合を始めようと話を始める。

『まずは、

『あれ? 黒と白はどうしたの、青?』

 しかし赤の言葉によって阻まれた。その行動には青も頭に来て、赤に鋭い視線を浴びせる。それを浴びせられた赤は不意に口角を上げ、獰猛な笑みを浮かべる。

『えっ! 何? やっちゃう? 殺し合っちゃう?』

 赤は嬉々とした声を上げる。それと同時に赤の体から衝撃が放たれる。

『ちっ!』

『あわわっ!』

 緑、黄の二つの影はその衝撃波をその場で必死に堪える。しかし青はその衝撃波をうけても微動だにしない。藍も同じように面白いものを見るように二つの影を見ている。

『止めぬか。余の前で殺し合いなど認めぬぞ』

 見かねて金色の球体が赤と青を仲裁する。青は自分のしたことを理解したように金色の球体に向け頭を下げる。

『申し訳ありません、主君。自分としたことが、思わず取り乱してしまいました』

 自らの行いを恥じる様に青は謝罪をする。そんな青を見て、赤は口を窄める。

『止めないでよ、皇帝様! 折角、青と戦えるチャンスだったのに~』

 赤は子供のように駄々こねる。すると、金色の球体はフッと笑い声を出した。

『赤の構ってちゃんは未だ直らぬか・・・』

『ああ! そういう言い方しちゃんだ! ふん!』

 赤はそういうと、顔を背ける。そんな赤を伺って金色の球体は息を吐いた。

『黒と白は余の命でこの会合に参加せぬ。伝えるのが遅くなって済まぬのう、青』

 金色の球体は青に労り言葉を贈る。

『ちょっと、皇帝様! 何で青に言うの! 聞いたのは私なのに!』

 赤は突っかかるように声を上げた。

『赤はこのような事、すぐに忘れてしまうではないか』

『ぐっ! それは、そう・・・だけど』

 図星をつかれた赤は気まずそうな表情をする。

『分かりました、主君。それでは今度こそ会合を始めるとします』

『うむ、頼むぞ』






『それでは今回、駆除する虫の巣を定めるといたしましょう』

 青がそう言うと、大陸の地図が移し出された。

『今回駆除するのは、大陸北部の海岸に面する巣と、極西の海岸に面する巣です。担当するのは北部の巣は黄の軍下の者。極西の巣は緑の軍下の者とする。異論は無いな?』

 青の声に影達はそれぞれ頷く。

『よし来た! おい、黄。どちらが多く駆除できるか競おうぜ!』

『え、ええ! む、無理だよ、そんなの』

 黄は自信がなさそうに首を振る。為ると緑は軽く首を傾げた。

『何だ? 自信が無いのか?』

 緑の言葉に黄は首を大きく横に振った。

『じゃあ、何でだ?』

 緑は強く言い寄った。黄は言いにくそうに顔を背けたが、緑の圧力に負けて想い口を開いた。

『だって、緑は毎回巣を壊す事だけしか考えてないじゃん』

 その言葉が緑を硬直させた。

『それ私も想ってた!』

 赤はきゃははと声を上げながら笑う。

『確かにな・・・』

 藍は何故か考え込んでしまう。

『緑。なんとか言ってみたらどうだ?』

 金色の球体が緑を問い詰める様な声を出す。その声を聞いて、緑はやっと、硬直から解放された。

『お、俺にも考えがあってやった事だ!』

 緑は声を荒げてそう述べる。為ると青が追求した。

『考えとは?』

『聞いて、驚け!』

 緑は自慢げに胸を張る。

『実はな、態と巣を壊しているんだよ!』

『態と、だと?』

 青は怪訝そうな顔になる。

『ああ、そうだ。その方が絶望強いやすいからな』

 なおも自慢げに語る緑。

『奴等は自身達の巣を壊されて落ち込むだろ。だが、まだ希望を持てる。未だ、命があるからな!』

『しかし、それだと絶望しないではないか?』

 藍が首を傾げる。為ると、緑は指を数回揺らす。

『虫は巣を壊されると、他の巣に行く。すると、その巣に俺たちの力が伝わる』

 緑は地図の極西の半島を指し、言葉を続ける。

『それがここ全体に蔓延した時。その時が虫たちが絶望に吞まれて駆除されるときだ』

 緑は誇ったような顔つきに成り、青に意見を聞く。

『どうだ? 青。この作戦、割と良いだろ?』

 訪ねられた青。彼は少し考え込む余蘊あ仕草をして、その返答を為る。

『確かに良いかもしれないな。しかし、このとき得られる絶望はどのくらいだ? 話は知れからだ』

 青の言葉に緑は少し間を開け口に出す。

『想定している絶望の量は計画の四分の一を賄えると部下から報告されている』

 その言葉を聞いて、影達の顔を色が変わった。青と黄は驚きの表情をする。赤は獰猛な笑みを浮かべる。藍は関心したような顔つきになった。そんな影達の表情を伺い、愉快になった緑は笑い声を上げる。

『もう下準備はできてるぜ! 後はいつ行うかだ!』

 彼は金色の球体に向け、そう述べる。

『そうか。なら、決行の日取りは我が決めるとしようか』

 金色の球体は決心したような声音で言葉にした。

『さすがは、頭だ! ぎゃははははは!』

 その場に緑の笑い声が響く。

『で、どうする。黄! 俺と競うか?』

 勝ち誇ったように声を出す緑を黄は涙ぐんだ瞳で見つめる。

『最初から僕じゃ勝てないじゃないですか、その競争!』

『それもそうか! ぎゃはははははは!』

 愉快そうに笑い続ける緑。それを目にして、青は目を凄めた。

『主君。緑の発案したこの作戦。案外いけるかもしれません。ですが、油断をなさらないでください。我らには天敵たる存在がおります故に。その者達にこの作戦が露見してしまえば、この計画は破綻してしまいます』

『ふむ、分かっておる』

『それは何よりでございます』

 青はそう言うと、手を胸に当て、軽く頭を下げた。

『我らの望みは、主君にこの星の主権を手にしていただくこと』

 青に続くように影達は頭を下げる。

『我らが望むのは頭である貴方様が作る世界を見ること』

 先程の豪快な笑い声とは違い、粛々と声を述べる緑。

『我らが望むのは、我らの種が生態系の頂点に立つ事』

 恐々としていなく、はっきりとした口調で喋る黄。

『我らが望むのは、耐えることのない永遠の娯楽』

 今の状況が相当不満の様子の藍は願いを口にする。

『我らの望むのは、誰にも縛られることのない自由』

 少し戯けたような口ぶりで赤は笑みを溢す。

『さあ、始めるとしよう。我らの力でを大陸に蔓延る全種族(害虫)を徹底的に駆除しよう。死して、全ての絶望を糧に余は星冠を手にし、我が種族。魔王種(デモニスター)の繁栄させようぞ!』

 今この瞬間。全ての元凶が動き出す。

『緑、黄。早速駆除を開始せい!』

 地上に住む全種族にとって無慈悲な命令が下される。

 

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