五話 観光地
グランクリムゾン。そこは吸血種の国がある場所であると同時に世界でも屈指の火山地帯として有名で十個の火山に囲まれた谷のなかにある有る集落である。普通ならこんな危険な場所に人は住まない。だが集落所か今は観光都市としてここの経済は潤っている。何故ここに集落があるのかというと昔ここに吸血種が逃げてきたことから始まるのである。彼らは他種族の血を奪うことから迫害されていた。一時期は本気で根絶しようとする輩も現れたくらいだ。彼らは逃げる場所が無くてここに来た。本当の事を言うのなら彼らだってここには来たくなかった。十個の火山に囲まれた土地だ。噴火した際に逃げる場所が無いのだ。しかしそんな贅沢を言っている暇も無くなってしまった。いよいよ吸血種の王は民のことを考えてここに移住してきた。勿論反対もあった。しかし王自らが民一人一人に説得を行った。それに負けて民達は王についてここに移住してきた。最初は達達も恐怖した。しかし順応性が高い者達でもあるためすぐにそこでの生活になれていった。だがそんな時に火山の一つが噴火した。民達は慌てふためいた。そしてやはりここに来るべきでは無かったと後悔した。だが奇跡な事にその被害は谷の中に何も無かったノだ。こんなに火山が近いというのに噴石も噴煙も溶岩も有毒ガスも。土石流や火砕流だって谷の中には一切流れ混まなかった。もちろん噴火の際の地震による被害はあった。だがそれだけなのだ。不思議に思って吸血種の王家はそのことを調査した。為ると分かった事があった。なんとこの谷の中には過去一切噴火による被害が確認されなかったのだ。理由もその後の調査で解明された。この十個の加算の谷側の麓には特殊な鉱石が埋まっており、それが火山の力で結界のような物が偶然形成されていたのだ。その結界は生物は通れるのだが、意思やら毒やらは一切と通さないような仕組みになっていた。この事がわかった吸血種達は歓喜して、何時しかここを理想郷だと時ぶんったいで言い始めた。そしてここに移住することを決めた王も大変尊敬を集めていった。その件から数百年。いまこの地は観光の国として栄えていた。この地は火山の被害が無い事と地下から温泉が湧くことが売りである。それが観光業として売り出したら爆発的に人気を博したのであった。ただ周りを火山によって囲まれていることもあって馬車でここまで来るのには結構な時間を要することになる。それでもこの土地の人気に陰りを見せることは無かった。
「へえ。初めて来たが、賑わっているな・・・」
大樹城から飛んで半日。二人の飛翔スピードで掛かった時間は経ったそれだけ。それも途中で休憩を入れてもそのくらいに時間で彼らはこの地に降り立った。アダルは周りから吹き上がる湯気と観光客で賑わうその土地を観察し、そして思わずそのような言葉が零れた。
「初めて来たんだ。なんだか以外だね。明鳥くんなら前にも来たことあったのかと思ってた」
「そうなんだよな。俺も何度か来ようとは思っていたんだが。・・・・・まあ色言う炉重なって来れずにあの洞窟に閉じこもってたんだよ・・・」
過去を思い出し少し苦い表情を浮かべたアダルだが、すぐに顔を元に戻して観察を再開させる。
「俺が旅をしていたときからここは有名だったな。そう考えるとずっと観光業が盛んなんだな。・・・・・凄い努力だ」
アダルが旅をしていたのは二百年前から百五十年前まで。その時から有名な観光地として名をはせていた場所に今のタイミングでいた。少なくとも百五十年は有名なことになる。それは勿論簡単な事ではない。何せ廃らせる事は簡単な観光業だ。それをずっと続けると言う事はずっとニーズに応え続けたという事なのだ。
「それで? 今日はどこに泊ろうとしていたんだ?」
「うん。今日というか一週間くらいあそこのホテルで宿泊する予定だよ。もちろん予約はとってあるから大丈夫」
通信技術がここ数十年で発達したおかげで予約もしやすくなって良かったよと口にしながらヴィリスはある店の前で止まった。
「ねえ、これたべない?」
その呼びかけにアダルは彼女が刺した物に目をやった。
「へえ。蒸気を利用していろんな物を蒸しているのか」
何が蒸されているのかとおもい品物を見ると、じゃが芋とサツマイモに似たものやまんじゅう。そして肉まんに似た形状の物やその他にも野菜などが見受けられた。
「それで何がたべたいんだ?」
「う・・・・んと。やっぱりここはじゃが芋かな? バターをのせてもらえるみたいだしそれもついかで」
「そうか。おれは・・・・・この肉まんに似た奴にするかな? これはなんて名前なんだ?」
商品名は無いかと探してみるとすぐにそれを見つけることが出来た。
「ミートラップか。すいません。ミートラップとじゃが芋にバターをのせたのをください」
「はいよ! 五百エダルね。毎度! 今熱々なのを出してやるからちょいと待ってな!」
店主をしてくれている吸血種が快活に受け答え、そのまま流れるように熱い二つの食べ物を紙に包んで此方に渡してくる。
「はいお待ち! 熱いから火傷しないようにしなよ!」
「ありがとよ。・・・・ほら」
アダルは店主から渡された二つの内のじゃが芋のほうを渡した。
「うん。ありがと・・・って熱い!」
受け取った彼女はじゃが芋があまりにも高熱だったため思わず叫ぶ寸前までの大きな声を出してしまった。
「おっと。危なかった。・・・・・・・・よくこれを平気な顔で持てるね」
終いには落としそうに成り慌ててバランスを保つが、未だに手は火傷しそうなくらい熱いままなのは変わりない。仕方なく少し時間を空けて冷めるのを待つことにした。
「まあ、これくらいだったら全然大丈夫だ。俺は体を高熱にすることも出来るからな」
そう言いながら彼は熱々のミートラップにかぶりつく。
「へえ。初めて食べたが、ミートソースの肉まんって感じか。チーズは無いがピザまんっぽいな」
感想を述べながらもう一口食べるとその紙の包みをヴィリスの方に突き出した。
「少し喰ってみろよ。その間俺がその熱いじゃがバタを持っていてやるから」
「えっ! いいの?」
アダルはただ頷くと無理やりじゃがバタと取ってミートラップと押しつけた。
「じゃあ。・・・・・・いただきます」
促されるままにヴィリスはミートラップを口にした。
「あ。美味しい」
そして今気付いたが、このミートラップからはそれ程熱さを感じなかった。冷めているというわけでは無い。適温な状態なのだ。先程のじゃがバタよりも。そのお陰で美味しく食べられているのだと感じられた。
「そうか、なら良かった。・・・・・・・ほら適温にしてやったからこっちも口つけろ」
口にしながらアダルはじゃがバタを彼女の口に近づけた。正直未だに湯気が立っていたがここまで近付いてもそれ程熱さは感じることが出来なかった事からヴィリスはそれにかぶりつく。
「うん。やっぱり美味しいな。じゃがバタは。この芋のほくほくさと甘みがバターの塩気と濃厚さが合わさって」
感想を言いながら彼女はアダルからそれを奪い取って二口三口と続けて食べ進めていった。
「ありがとう明鳥くん。わざわざ余計な熱を取ってくれたんだ」
確証が有ったわけでは無いがアダルが適温にしたのだと思ったから彼女は感謝の言葉を贈った。それに対してアダルは曖昧に笑った。
「お礼を言われるような事をした覚えは無いぞ。ただ食べづらそうだなって思ったからそうしただけだからな。それに俺が最初から熱を取っておけば良かったんだ。気が利かなくて悪いな・・」
罰が悪そうに謝罪するアダルに今度はヴィリススガ彼の口元にじゃがバタを運んだ。
「じゃあお礼に一口上げるね」
彼女の笑みに促されるままにアダルはじゃがバタを口にした。




