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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
五章 顕現 堕天の青 快楽の赤 
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四話 旅行の提案

 その日も平和な日だった。巨人達の襲撃があった日からかれこれ一月以上経っている。その間に大陸内で巨獣による襲撃が有ったという報告は成されていなかった。そのことを喜ぶ者は勿論いた。平和が戻ってきたと浮かれている者も。しかしアダルは楽観視する事が出来ない。何故なら本格的に魔王種が動き出したことを知っているからだ。ヴァールの体を依り代にした一体を始め、人形とは言えそれを依り代に地上に出てこれる者も知っている。ならば他の魔王種達も自分の体を求めて、地上で動き出しているのは明らかなのだ。それなのに動けないで居ることをどうにももどかしく思っていた。

「・・・・・・・くそ」

 それが思わず声に出てしまい、立ち上がって外に目を向けた。動けないのは理由がある。身体的な理由では無いが、かなり重要なことではあった。

「明鳥くん落ち着いて。相手は魔王種なんだよ。そう簡単に情報は集まらないよ」

 そう。此方には魔王種に冠する情報というものが一切存在していないのだ。だから動くに動けない。情報はフラウドが集めてくれて居るのだが、如何せん芳しくない様子だった。本当だったら自分が世界中を飛び回るという選択肢もあるのだが、それはあまり取りたくない。何せかつてそれを行って空振りした記憶があるのだ。その経験があるが故、あまり無計画で飛び出すと言う事をそれ以降は控えるようにしている。

「・・・・・・それもそうだが。・・・・まあ、焦っても仕方が無いのはもう分かっているんだ。だがな。それでも思ってしまう。こういう平和な期間に俺たちでは取り返しの付かない事への準備がされているんだろうなってな。そう考えるとどうにも落ち着けないんだよ」

 確かに彼の考え方は一理ある。いや、納得しか無い。アダルが焦った様に情報を求めている理由がヴィリスにも分かってしまった。しかしだからといってずっと緊張感を張り詰めて言い訳ではないと言う者彼女は理解していた。

「・・・・・ずっと緊張した状態じゃあいざというとき全力は引き出されないよ? だからさ。今は少しでも休む時間。そう思ってさ。休んじゃお?」

 優しく諭すように彼女はテーブルに紅茶を置いた。彼女の慈しみの満ちた目を見たアダルは少し居心地の悪そうにしながらも再び先程座っていた椅子に腰を掛けて彼女が出した紅茶に口をつける。

「・・・・・上手いな。そういえばこっちで紅茶は初めて飲んだかも知れない」

 前世でも本格的な者は口にしていなく、精々ペットボトルに入ったものを飲んでいた。だから彼からしてみれば二百十七年の中で初めて本格的なものを飲んだことになる。そして飲んでみると不思議と心も収まってきた。

「へぇ。随分と効くもんだな。不思議だな。今まで不安で心が高ぶっていたというのに。ここまで効くとは思わなかったよ」

 素直に紅茶の効能に関心してるとヴィリスは少し笑った。

「まあね。紅茶には沈静作用があるから。高ぶっている人に吞ませると良いんだ。あと、寝る前に飲むとよく寝れるよ?」

 そうなのかと感心する彼が面白くてヴィリスはここで一つのうんちくを披露した。

「ねえ知ってる? 紅茶と緑茶。そしてウーロン茶ってさ。全部同じ葉っぱを使うんだよ?」

「・・・・・まあ。それは知っているんだ」

 高らかに披露したというに既にその知識を彼は持っていた。そして今までの自分の態度が急に恥ずかしくなってしまった。

「ま、まあ知ってるよね! 明鳥くんだし。そのくらい知っていても可笑しく無いよね。はははは」

 誤魔化すように笑った彼女は手元に残っていた紅茶の中身を勢いよく全部飲み干した。正直まだ熱かったがそれは恥ずかしさが勝ったが為感じなかったようだ。そして話を逸らすことにした。

「ねえ。折角だからさ。どっかに旅行に行かない?」

 彼女に発言にアダルは明らかに訝しげに目を向けた。

「今のこの状況で・・・か?」

「非常識なのは理解してるの。だけどね。私はこの世界でもっと明鳥くんとの思い出を増やしたいんだ。それに明鳥くんもずっと連戦ばかりで体を壊しがちだし、少しは休息の期間を設けた方が良いと思うの・・・・」

 彼女の言い分にアダルは言い返せなかった。何故ならほとんど事実だったから。アダルはこの戦いが始まってから体を壊していた。それは光神兵器使用の副作用であったから。

星の意思の言葉ではあれを使い続けると命が無かった。一回使う度に体を壊すような技だ。アダルとしては折角出来た必殺技であったが、早々に使うのは控えるべき物だった。そしてあんな雑魚に使うものじゃなかったと反省した。それを彼女に説明する事は出来る。だが、教えるわけにはいかない。・理由は二つ。余計な心配を欠けないためと情報の漏洩を防ぐため。前者は言わずもがなであるが、後者に関しては別にヴィリスを信じていないわけでは無い。だがどこからこの情報が漏れて光神兵器の対策をされるか分かったもんじゃ無い。あの技を作り出すのにアダルは結構苦労したのだ。勿論対策されたらそれ以上の物を生み出せば良いだけなのかも知れない。だがアダルとしてはあれ以上の威力を持つ技を作りたくは無かった。理由としてはこれ以上規模の大きい技を作ってしまったら環境にも影響が出てしまうと考えたためである。光神兵器でさえ巨獣を一撃で屠る事が出来る威力だ。それが環境に影響しないわけが無い。実際に少しは影響が出てしまっているのだ。そんな理由があるから作りたくは無かった。別に作るのが面倒臭いから問い理由では無い。

 話は逸れてしまったが、アダルはそれも良いかも知れないなと揺らいでいた。

「・・・・確かに。・・・思えば俺はあまり休みを取っていなかったからな。ここいらで纏まった休みを取るのは良いかもしれない」

 休みはあった。しかしそこで彼は休んでいなかっただけ。アダルはほぼ毎日結界を使い、仮想敵を作り出してそれと戦う訓練をほぼ毎日行っている。ほぼというのは戦闘後に倒れたときは勿論のこと移動で時間を食うときは出来なかった時以外の場合はそれを行っているのだ。

「そうだよ。それにずっと同じ環境にいてもあんまり体が休まらないと思うの。だからね? 一緒に行こ?」

 彼女の懇願するめがアダルを射貫く。ここまでされてはさすがに否定しずらい。というか元々少し揺らいでいたのもあって否定が出来ない状況になっている。

「・・・・・はあ。・・・・そうだな・・・・。いくか。旅行」

 最終的にはヴィリスの意見に自分の願望も乗せる形で彼は負けた。

「え?・・・・・・本当?」

「嘘を言ってどうするんだよ。本当だよ」

 アダルは渋々といった仕方が無いような雰囲気を出す。勿論その態度は演技だ。彼としても自分の体調を考えてくれるヴィリスの提案を無為にすることにはためらいがある。それに彼女の願いはなるべく叶えてあげたいという想いもあるのだ。だから押しに負けた。何ら勘や自分に甘いなと思いながらアダルは頭を掻いた。

「それで? どこか良いところはあるのか? 出来れば俺、湯治をしたいんだが・・・」

「・・・・・・うん!  有るよ。とっておきの場所がね!」

 そう言うとヴィリスは嬉々とした様子でテーブルに資料を出した。

「場所は遠くないよ。馬車で行ったら十日は掛かるけど。飛んでいったら結構近くのところなんだ」

「馬車で十日って。本当に近くなのか?」

 疑うような目を向けてアダルはその資料を手にとって中身を見た。

「なになに? ここは・・・・。ああグランクリムゾンの火山地帯か。あそこは確か観光業で盛んな場所だったな」

「うん。ここなら明鳥くんの要望である温泉もあるし、ゆっくり出来ると思うんだ!」


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