二話 報償
アダルの発した言葉にヴィリスはただだまるしか出来なかった。それは驚きすぎて声を発する事が出来なかったから。まさか本当に彼が自分と同じような事をしでかしてしまったとは夢にも思わなかった。いきさつはどう有れ、彼はヴィリスと同じ罪を犯した。そのことが急に彼への親近感へと変わっていく。それと同時に納得してしまったこともあった。何故かアダルはヴィリスに否定するような言葉を浴びせなかったのか。それは何故か。自分にはそれをとがめるような事が出来なかったからなのでは無いか。彼女が初めて彼に罪をいったのはこの世界で会ってすぐのこと。普通なら罪を責めるか慰めるだろう。アダルが取ったのは後者であったが、そう言うことがあったのかとただただ受け止めた。それしか彼には選択肢が無かったのだ。それが嬉しかった彼女は又アダルに心を開いたのだったが、今思えば悪い事をしてしまったんじゃ無いかと思えてきた。何故なら自分が許されたい一心で伝えた過去でアダルの心の傷を抉ってしまったんじゃ無いか。そう想い始めてしまった。
「これはまあ。俺が悪いことだからな。幾ら唆された連中を返り討ちにしたって、命を奪うのは駄目だ。それが如何に不可抗力であっても。手加減が出来なかっただの。言い訳は出来ない紛れもない罪。俺はそれを犯してしまった」
そこまで言いきるとアダルは一息つく。その隙を狙ってヴィリスが口を動かす。
「・・・・・どうしてそれを私に伝えたの。隠しておけたはずなのに・・・・」
それなのに彼はこの事実を伝えた。それを今。どうしてなのか分からなかった。
「勇気を貰ったんだよお前に。過去を受け入れたヴィリスにな」
口にしながら彼はヴィリスの方を見た。
「お前にはいずれ言わないといけないとは思っていたんだ。だがそれを伝える事が俺には如何しても出来なかった。多分お前と同じだな。俺はヴィリス。お前に嫌われたくなかったんだよ。・・・・だがお前は過去の事を乗り越えた。なら俺も勇気を出して言うべきだと判断した。だから俺が過去に犯した事を伝えたんだ」
アダルとしてはこの事を既に受け止めていた。過去に犯した罪。その全てを彼はきちんと乗り越えている。だからこそ彼女には言わないと行けないと思っていたのだ。
「・・・・・・そうなんだ。・・・・・っ! だからミリヴァ姉様は明鳥君のことを警戒していたんだね・・」
そこまで言われて姉が何故アダルの事を毛嫌いするのか理解出来た。
「警戒か。残念ながら俺は嫌われているのは間違い無いな。あの人にとって俺は弟妹を殺した存在でしかないんだから。・・・・・まあそれは甘んじて受け入れているよ」
空笑いをしながら軽い様子で受け答えする。それでも目までは笑っていなかった。その目からは本気が見て伝わった。
「・・・・・・さて。ここまで話したが・・・・。どぷだ? 俺の事を嫌いになったか?」
突然の問い掛けにヴィリスは息を飲んだ。だけど、答えは決まっている。
「過去にどんなことがあっても。私が明鳥くんのことを嫌いになるなんてあり得ないよ」
「・・・・ふっ。そうか。安心した。・・・・・まあなんだ。俺もまだ言えないことはあるが、その内お前には俺の過去の事を話そうと思う。・・・・・重い話しを共有指せてしまうが。それでもいいか?」
アダルの言葉に虚を突かれた様な顔をしたヴィリスだが、次の瞬間には嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「どんな重い話しだって聞いてあげるから安心して。私そう言う物に対して少しは耐性つけたんだから」
「そうなのか。なら良かった。正直俺でも言っていいのか分からない話があったんだ。まずはそれから聞かせてやろう」
「す、少しは加減してね? 何事にも順序って言う物があるし・・・」
そこからアダルは愉快そうに笑った。それに釣られてヴィリスも笑い出す。だが何時までもそんな時間が続くわけでは無く、二人は早々にそれを止めた。
「・・・・・・俺の様子を見に来ただけじゃ無いんだろ?」
しばらくの沈黙の後。本題はアダルが切り出した。
「うん。・・・・実はね。この階層を私が引き受ける事になったの」
「そうなのか。・・・・・それはおめでとう。と言った方が良いか?」
その問いにヴィリスは微妙な表情を浮かべた。この階層を引き受けていたのは言わずもがなヴァールだった。しかし彼は裏切り、剰え魔王種の依り代に成りこの城から去ってしまった。空白になったこの階層の支配者の座。本来なら他の竜達が己の支配域拡張のため堀がル者。だがそうはならなかった。理由は裏切り者が支配していた階層だったから。そんな階層で暮らしていたらどんな恐怖する目に遭うのか分かったものじゃない。だから誰もほしがらなかった。実際今現在アダルが暮らしているためそんな事にはならないことは大母竜を始め上層部も分かっている。裏切り直後にこの階層全体を調査して危険な品物はみつからなかった。だが誰もほしがらない。安全だと分かっていても曰く付きのものを欲しいとは思わない。ある意味では正常な感性だと言える。そんな空白地帯となりそうな階層の新たな支配者として選ばれたのが今回の英雄として担ぎ込まれたヴィリスであった。元々彼女も階層主たる資格は有していた。だが外にいたために実際に与えられることは無かったのだ。つまりこの階層は巨人討伐の報償であり、殻割り記念として送られたものであったのだ。曰く付きを報償代わりにする上層部はどうかとも思わなくもない。しかし安全である事が保証されているこの階層は物件としては良い条件の物とも言えるのだ。何せ裏切ったとは言え竜の幹部が納めていた階層である事には変わりないのだから。
「報償にしたってさすがにここだけだったら文句がでるぞ。俺だったら言うし、外聞も悪いだろ」
客観的ない意見を口にするアダル。だが彼の意見はまさにその通りとも言える。今回の襲来に際して彼女の働きは正しく英雄として担ぎ出せる位の物だった。そんな彼女に対して裏切った者が納めていた階層だけ与えるという事に意外と批判的な意見は大樹城内でも多いのだ。
「それは母様も姉様も分かっていたんだ。だからきちんとした報償もちゃんと貰ったんだ」
言葉にした後彼女は自分の目の前に空間の裂け目を作り、そこに手を突っ込んで何かを取り出した。
「これを貰ったんだけど・・・・・・。どう使おう」
困った様にしている彼女が取り出した物。それは彼女と同じくらいの高さのある大鎌だった。刃の部分は彼女の翼と同じ紫の毒々しい色となっていた。これを贈り物として送られた事にヴィリスも困惑している。アダルも報償にしてもこれは無いだろうとは一瞬思ったが、すぐに考えを改めた。
「案外良いんじゃ無いか? 殻割り後の武器に出来そうだし。先生からの贈り物だ。大きさも変えられるような機能はついているだろうしな」
アダルの言葉にヴィリスは「そうかな?」と納得がいかなそうに首を傾げた。
「それをやった事には必ず理由があると思うぞ。例えば毒を無闇に使わなくて良いようにとか。毒を制御為るためとかな。俺も前回の戦いを見たが。・・・・・あれはさすがに俺でもやり過ぎだと思ったぞ」
森ごろ巨人を溶かした彼女の毒。あれを見たら、彼女に毒だけを扱わせるのは危険だと言う事は誰でも思うことだったりするだろう。だからこそ大母竜は彼女に武器を与えた。アダルはそう思うしか無い。
「・・・・・・・。確かにあれは私でもやり過ぎたかなって、少し後悔してるんだ。だからこれからはこれを主武器似するような戦い方をしないとね」
彼の口にした事で彼女は無理やりだが、納得して見せた。未だ武器を怒られたことには少し不満がある様子だが・・・・。




