一話 過去の罪 同じ罪
大樹城の一室。ヴァールが管理していた階層の屋敷の客間でアダルは一人外の景色を見ながら一人考えにふけっていた。前回の襲撃時にどこかに飛ばされてしまった彼だがヴィリスが新手を倒したことによって五体無事に帰ってきた。損母語検査名脅したが、身体的にも心情的にもダメージと呼べる者は確認されなかった。しかし記憶の方ではその間の事だけ欠如していた。いってしまえば彼はどこに飛ばされたのかを覚えていなかったのだ。気がついたら巨人が倒された後だった。その間どこに居たのか。疑問が残る。それにアダルはどうにもこういうことが気になって仕方が無いたちなのだ。だが何時までもコ記憶が無いことだけに思考を費やすのは出来ない。彼には他に考えたいことがあったのだ。それはヴァールのことだったり。と言う事では無く単純に魔王種の事で疑問に思った事が出て来たからだった。だからこそここからは完全にそっちに切替えた。
魔王種。それは悪魔種達の願いによって生れた存在。星の意思はそう言っていた。しかしそれが全てでは無かった。彼らも又異世界より魂が呼び出された存在。つまりは神獣種と同等の者達であった。そのような行為は星の意思しか出来ないと思われていた。しかし魔王種及び悪魔種達の王である全魔皇帝はそれを行えた。前回魔王種の一体と遭遇したときに奴は口を滑らせた。『お前も転生者か』と。その事実に大母竜も驚いていた。そして星の意思も全魔皇帝が自分と同じ事が出来るとは思って居ない。と言っていた。しかしそれは本当にそうだろうか。アダルは考えてしまう。
「あいつが知らない事なんてあるのか?」
口に出した疑問。外に出た途端、それはさらに深みを増していく。星の意思と言うくらいだ。ならばこの星の中で起きていることくらい分かっていても良いはずだ。なにせ封印されて情報がないと言いつつも、魔王種の存在と生れた経緯を知っていた。ならば全魔皇帝が異世界の魂を呼び寄せることも可能だと言う事を知っていてもおかしくは無いはずなのだ。しかしその情報はおそらく隠している。理由は今の段階じゃ判断が出来ない。無い情報から推察したらそれは妄想でしか無いのだ。
「何か考え事でもしてたの?」
不意に聞き慣れた声が背後から聞えてくる。それに驚くことも無く無言で居ると足音が近付く。
「なあ、ヴィリス。俺は何を考えていたと思う?」
声だけでヴィリスだと判断して乱暴な問いを投げてみる。
「・・・・・・・」
ヴィリスも無言を返してきた。それも深刻そうな顔をして。
「・・・・・・。ヴァール兄様のことについて。・・・・かな・・」
少し寂しそうな表情を浮かべた彼女に少し悪い気がした。
「・・・・それなりに親交はあったのか?」
「それはね。あんまり無いんだ。ミリヴァ姉様のところに行ったときに数回顔を合わせただけ。兄様は面白いものを見るような目で私の事を見てたんだけどね。私はそれが如何しても気味が悪くて近付かないようにしてたの。だけど悪い方では無いのはすぐに分かったから少し話す程度の関係にはなったんだけどね。・・・・・・その後から合っていなかったの」
その後にあの事件が起きたというわけだ。
「そうか。・・・・・まあ、そこまで邪険に為る奴では無かったのは確かだ。気味が悪いと思うのも仕方が無いか。・・・・・俺も同じ感想だったからな・・」
彼もまた昔を懐かしむように目を細めた。
「明鳥くんはどこでヴァール兄様に出会ったの?」
当然の如く聞かれるであろう質問。
「・・・・・・。旅をしているときにおれはストーカーに会っていたんだ。そのストーカーがヴァールだった。あいつの性格上。俺に興味を持つことは必定だった。そのとき俺はまだ人化の術を有していなかった。・・・・・・・・いや、慣れなかったんだ。名前が無かったからな。この姿になったのだってお前と会う数日前にユギルに名前を貰ってからだしな・・・」
この世界では知能の高い上位の魔獣が人化の術を有すことが出来る。その例の一つが竜達の人化であろう。魔獣よりも高位の存在である神獣種も当然ながらそれは可能なのである。しかしそれには条件が付く。自分固有の名称を持つことが必要なのだ。それが無ければ幾ら知能が高かろうが、人の姿になることは出来ない。その名称にもルールがあり、人から命名されなければ同じように人の姿には成れないのだ。アダルが鳥人やら天輝鳥やら呼ばれていても人の姿になれなかったのはこれが理由である。だがそれは魔十に限った話し・神獣種は当てはまる。しかし純粋な竜達である大母竜の子供達にはこれには当てはまらない。なにせ大母竜というのはこの世界で特別な役割を持った個体なのだ。その者の名付けというのは力を持っており、行うだけで子供達は人の姿になれてしまう当然それにも制約がある。それは直接血を引いていなければならないと言う事。だからアダルを鳥人と呼んでも彼は人にはならなかった。
「どの種族にも属していない存在が一体だけで大陸中を歩き回っている。それはまあ興味は引かれるだろうな。・・・・・・・ストーカーになるっていうのもあいつらしい」
その時の事を思い出して懐かしくなると同時に、やはりヴァールは頭がおかしかったのだと再認識した。
「そんな事があったんだ。・・・・・それって私が生れる前の話?」
「そうだ。今思えば懐かしいことだと。思いたいが、この話。実は後味がクソほど悪い」
その後アダルは目に見えて苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。
「なんやかんやあって俺とあいつは仲良くなった。それでな俺はここに招待されたわけだよ」
アダルの事場にヴィリスは驚いた様に目を見開く。
「前にも一度来たことがあったんだ。・・・・・だけどそんな事いってなかったよね」
「俺からしても苦い思い出だからな。それにな・・・・。俺もお前にむやみやたらに嫌われたくない。だから意図して話さなかったんだよ。・・・・お前が大母竜の事だって聞いたあの時から・・」
話すつもりは無かった。しかし彼女は過去を受け入れた。ならば自分も過去に起こした罪の一つを話すときが来たのだと思ってしまった。
「昔。ヴィリスが産まれてくる前の話だな。大樹城内で抗争が起こった。聞いた事があるんじゃ無いか?」
アダルの問い掛けにヴィリスは不思議そうにしながらも頷いた。
「うん。姉様から聞いた事があるよ。たしか弟妹の一人が外部から招いた者が他の兄姉と抗争になったって。そのせいで数名の弟妹の命が失われたことも。それが何か関係あるの?」
「その外部から招かれた存在っていうのが俺だ」
彼の言葉にヴィリスは「え」としか反応出来なくなった。
「・・・・・俺がある程度。あいつと仲が良くなったときに招かれたんだ。その時始めて大母竜とあわせてもらってな。不思議と俺の事が気に入ったらしく、いろいろ教えて貰う関係になった。まあ、教師と生徒みたいなもんだな。だから俺は大母竜の事を先生って呼んでいるんだ。まあ、二人だけの時だけだが・・・・」
アダルの言葉にヴィリスは困惑した。まさかアダルが自分の母と独自で繋がりを持っていたとは思わなかったのだ。だがしかしそうでなければ納得のいかない事もあった。何故アダルが竜の生態について詳しかったのか。おかしいと思った事もあった。しかしそのような事情があるのならば納得せざるおえない。
「この城で数日過ごした頃だった。俺は先生にいろいろと教えて貰った帰りに、数体の竜達に襲われた。まだ殻割りを行えない若い竜達だ。其奴らは俺と大母竜が親交を持つことを嫌がっていた連中のようでな。入城したときからずっと邪魔で仕方が無かったようだ。」
邪魔だから消そうというのはあまりにも強者の発想だろう。何せ負けを知らない。それにその意識は自分が竜の純血だからと言う事も含めてさらに高くなっていく。だが襲った彼らは知らなかったのだ。アダルという個体は大母竜の子供達とは比べものにならないくらいの実力があったと言う事を。そして悲劇名事に強襲した竜達も又アダルとの実力差に気付いていなかった。
「まあ、簡単に返り討ちにはしたよ。・・・・だがな俺はそのときに力の加減を間違えた。そのせいでおれはその竜達を殺してしまったんだよ」




