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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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二十三話 訓練後

 訓練場に夜七時を知らせるベルが鳴り響く。このベルは事前にアダルがセットしておいた物だ。

「もうこの時間か」

 アダルは呟くと、そっと戦闘の構えを解いた。その瞬間、今まで格闘していた、〈激昂〉状態の霊鬼種が怒ッたようにアダルの方に駆けてくる。

「ギャアアアア!」

 まるでまだ終わってないと言いたげに叫ぶ霊鬼種。そんな霊鬼種を一瞥するアダルは徐ろに溜息を吐いた。

「今日はもう終わりで良いだろ? ガンキ」

 振りかざされた霊鬼種の両腕がアダル目がめて降ろされる。それを彼は軽やかにジャンプすることでその攻撃を躱す。両腕は地面に叩き付けられる。轟音と共に土煙が舞った。しばらくすると土煙は落ち着きを見せその場の全貌が明らかになる。今繰り出された攻撃によって、クレーターできていた。

「もうちょっとは加減してくれても良いと想うんだが」

 愚痴るアダルは霊鬼種の腕の上に着地していた。

「こっちも少しやるぞ?」

 そう脅しめいた事を口にするアダルは瞬時に肩まで移動すると、腕を振り上げる。

「ギャア!」

 彼の攻撃に危機感を覚えた霊鬼種は反対の腕でアダルに向け拳を放つ。

「遅いぞ」

 しかしその攻撃はアダルがジャンプすることで外れた。

「さすが疲れたから、今日はここまで」

 口にしながらアダルは霊鬼種の頭目がけて拳を振り下ろす。霊鬼種はこの拳を避けることもできずにそのまま食らってしまう。

「ッと!」

 拳を食らわすと、アダルは近くの地面に着地し、霊鬼種に目をやる。彼は少しふらつき、その場で膝を着いた。霊鬼種その後何か言いたげな目をアダルに向ける。

「何か言いたそうだな?」

 アダルは少し顔を歪める。すると、霊鬼種は口を開いた。

「おレ二、イウわリに。おマエは、テかゲンをしナいんダな!」

 辿々しい言葉使いながら霊鬼種ははっきりとそう言った。

「言ったろ? お前がやる気なら俺も少しはやるぞって。それをしたまでだが?」

 彼の言い分に霊鬼種は鼻を鳴らす。

「こザカしイ。そノようナこトバで、オれヲいイクるめラレるトおモウなヨ」

「どう想おうとお前の勝手だがな。そろそろ時間のようだぞ?」

 アダルの言葉が言い終わると霊鬼種の身体が段々と薄くなっていった。

「そノようダナ。つギコそ、キさマのクビ。モらイうけル」

「はいはい。じゃあ、またな」

 段々と薄くなっていく霊鬼種に右手を向ける。すると、霊鬼種の体が光りの粒子となりアダルの右手に向け吸い込まれていく。

「さて、腹が減ったな」

 そう呟くアダルは人の姿に戻っていく。人の姿に戻り切ると彼は一度背の武うぃしてから扉の方に向け足を進める。

「にしても派手にやったもんだ」

 一度振り返って、訓練場に目を向ける。そこには数々のクレーターが彼方此方に見受けられた。それを目にしたアダルは息を吐いた。

「後でどうにかするか」

 彼は呟きながら向き直り、その場を後にした。






 アダルは訓練場を出たその足で食事の間に向った。本来の姿で訓練をしていたため、衣装の汚れは見当たらない。だが、先程の訓練によって多少の汗を掻いていた。最初に風呂に行くことも検討したが、アダルの腹はどうにも限界が近かったのか、先程から鳴りっぱなし。

「さすがに何か物を入れないとな」

 彼は呟きながら食事の間の扉を開く。

「おお! 随分と派手にやったようだね?」

 扉を開くなり、食事の間の主。ユリハが元気の良い声で問いかける。アダルはその声に少し鬱陶しげに頷く。

「そうかい。で、夕飯は何にしてく?」

 彼女はその調子のまま、夕飯の献立を聞いてくる。その声を聞いてアダルは疲れた声で彼女に答えた。

「がっつりした丼物をくれ。それ以外は何でもいい」

「随分とざっくりだね。だが、あいよ! 適当な席に座ってな!」

 彼女はそのま厨房に姿を消した。アダルは彼女言葉に従うように適当な所に座って注文した物が来るのを待つ。

 しばらく呆けていると、扉が開く音が聞えてくる。誰が入ってきたか気になり、アダルはその方向に目を向ける。そこにいたのは相変わらず疲れた顔をしたフラウドと、嬉しそうな笑みを浮かべ続けるヴィリスの姿があった。フラウドはアダルに気付くなり、溜息をして彼に近づいてきた。ヴィリスもアダルの姿を見るなり、急いで駆けていく。

「お前、こいつに何を言ったんだよ!」

 フラウドはアダルの耳元に顔を近づけ、小さな声でそう言った。アダルは少し首を傾げたが、会った事を全て話した。

「別に何も無かったが?」

 その言葉を聞いたフラウドは米神に手を添えた。

「明鳥くん。さっきの言葉本当だよね!」

 フラウドの次はヴィリスがそう問いかけてくる。

「俺は嘘を言わない主義だからな!」

「やった!」

 彼女はキャッキャと嬉しそうに頬に手を当てる。

「やっぱり何か言ったんじゃねえか!」

 呆れた声でフラウドはそう呟く。彼は観念して、アダルを問い詰める。

「で、こいつに何を言ったんだ? 仕事を手伝って貰っている最中、ずっとこの様子で正直参っているんだが?」

 本当に参っているのか彼はヴィリスに親指を向けながら、項垂れなていた。

「だから何も言ってない。この件が終わったら、ヴィリスの行きたい所に着いていく事くらいだ」

 そこ言葉を聞き、ヴィリスは嬉しそうにフラウドに話しかける。

「そうなんですよ! 王来くん。明鳥くんが私の行きたいところに連れてってくれんですよ!」

 話しかけられたフラウドはそのッ声を聞いて余計疲れたようにテーブルに突っ伏した。

「勘弁してくれよ。俺は疲れているんだぞ? そんな時にこんな甘ったるい話を耳にさせないでくれ。っていうかなにがあったらこういう話になるんだよ!」

 疲れ切った声で彼は二人に訴える。その言葉にアダルは答えた。

「実はな?」

 アダルは先程会った事をフラウドにだけ聞えるように口にした。訓練場に行こうとしたらヴィリスがTルいてきたこと。自分一人だけで行いたいとヴィリスに伝えたら渋られて、彼女が泣きそうになった事。アダルは咄嗟に先程の事を口にしたこと。そしたら彼女が嬉しそうにそれを了承して、アダルから離れていったことを。

「って事があったんだが・・・。悪かったな。お前に苦労かけて」

 アダルは反省したように口にする。するとフラウドは何回目かの溜息を吐いた。

「事情は分かった。つまりはお前も被害者だったんだな?」

 彼の言葉が理解出来なかったアダルは少しだけ首を傾げが、すぐに頷いた。

「所でさ、なんでヴィリスはあんなに喜んでいるんだ? 今の様子を見ているに、此方の声も聞えていない様子なんだが」

 若干引き気味の声でヴィリスの今の状態を見ながらそれを聞いた。今のヴィリスは両手で頬を抑えて、どこを見ているか分からない目を浮かべていた。口元も緩みきっている。

「それはだな・・・・・。自分で考えろよ!」

 呆れた様子でフラウドはそう口にする猪、彼は厨房の方に向け足を進めていった。途中未だ夢の世界を漂っているであろうヴィリスの襟を掴んで引きずりながら。どうやら彼らもこれから夕食のようだ。厨房から出て来たユリハに注文をするフラウド。しかしユリハは、彼の言う食事を一切出さない事はここ数日で分かっている。厨房前にて毎回言い争いになるのは最早見慣れた光景だった。どうにかてゅらうどが注文を終えると、ユリハは此方に向け手招きをしてくる。どうやらアダルが要求した者が完成したようだ。彼は減りきった腹に手を置きながら注文した物を取るために腰を上げ、ゆっくりとした歩調で厨房に向け足を進めた。どんな物を作ってくれたかを期待しながら。

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