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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
四章 集合、神獣種 宣戦布告、魔王種
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五十八話 竜の姿

 絶叫を上げて蹲った巨人にヴィリスは冷淡な目を向ける。この巨人を倒せばアダルは帰ってくる可能性があるのだ。だからこそ彼女はわざとらしく戦いを伸ばすような真似はしない。帰ってくる保証が無いため、時間を掛けたくないのだ。

「卵化」

 だからこそ本気を出すために竜の姿になることに決めた。自分の毒が巨人にも有効だと分かった。なら戦闘に時間も掛けずに毒の威力を上げる為に竜の姿になることも厭わなかった。

 彼女の体の周りに粒子のような物が纏われていく。全身を覆うとそれは卵形を形成していった。そしてそれは徐々に肥大化していった。それはもう急速に。しかしある程度の大きさまで行くと突如としてそれはぴたりと止まり、今度はひびが割れたのだった。ひびが入ると、それは卵全体にまであっという間に拡がっていき、遂に卵その物が耐えられなくなって、一気にはじけるように粉々に割れてしまった。割れた卵は煙か霧のようになって、卵内にいた存在をなかなか見せてはくれなかった。数秒もするとそれは薄れたのだが、それでも大体のシルエットしか確認できなかった。だがそのシルエットのお陰で大きさは教えてくれたのだ。大きさは他の神獣種達と同じか、それよりも少し大きいくらい。そしてシルエットが教えてくれた物がもう一つあった。

「・・・・・・・・・。思ったより変わってない?」

 それはシルエットが人型に近いという物だった。他の竜のように首が長くなったり、顔の形が変わったりという物は無い。それはヴィリス本人も理解しており、そう独り言ちたのだ。しかしそれは所詮シルエットを見る限りである。徐々に殻の粉塵は腫れていき、彼女の全貌が見えてきた。確かに人型ではある。だが竜の箇所が無いわけではなかった。頭部には竜の頭を模したような兜が被られていた。目元は見えず、顔の下部が露になっている程度。その顔の下部から体の外側を覆うように紫色の鱗が生えていってた。胴体は鱗がビキニアーマーのように覆われており、その上から肩出しの修道服のような物が羽織っている。腕から手は完全に竜の物と同じであるが、指は五本と人の形になっていた。しして問題の下半身。これは最早人の物とはかけ離れていた。何せ足が無く、下半身全体が龍の尾のような形態に変化していたからだ。そして翼であるが、これは殻割り以前と変わりなく毒々しい色を放つ天使の翼であった。そしてよく見ると分かるのだが腰や耳。そして両手首なども翼のような物が生えていた。龍だけでは無く、天使の特徴も捉えていた。だがどちらでもない様にも見える存在。新たな種族と言ってもいいのかも知れないような見た目は正しく神獣種としての特徴であろう。

「・・・・・やっぱまだ駄目なんだ。・・・・・・早くなれないと行けないよね・・・・・」

 体の感触や、手や翼の感覚は未だ違和感を覚えていた。初めての殻割り直後だからか未だにそれに慣れずに元の大きさの時との違和感が激しい。そのために体の自由が効かない状態だった。

『ギュウ・・・・がッ!』

 そのタイミングでいた澪に慣れた巨人が息を絶え絶えにしながらも立ち上がった。さすがの巨体だ。殻割りしたとしてもその大きさはあまり変わらなく、見上げることにはなった。

「やっぱり大きい・・・・」

 正直な感想が零れた。だがそれだけだった。今の状態ではこの巨人に殺されるとは思えなかった。喩え殺されたとしてもそれは相打ちになるだろう。何故なら相手も此方に触ってしまったら終わりだから。巨人の攻撃手段など基本的に打撃しかない。つまりは遠くから攻撃する術などないと言う事だ。触ってさえしまえば毒の効力が一気に全身を回る。それは巨人も理解した様子だった。

『ギュガアアアアアアアア!!!!!!』

 雄叫びを上げた巨人はそのまま少し後退した。触ったら終わり。それを理解してしまえば巨人は取るべき方法を取るしかない。世界樹を倒すのは別に直接では無くていいのだ。他の物達が直接狙っただけだから。己から出る物では遠距離攻撃などできない。だが別に投げるだけなら巨人でも出来た。巨人手は当然ながらデカいその手に収まる物を投げたら当然の如く世界樹もただでは済まないのだ。ある距離まで後退すると巨人は屈んで地面を抉った。その手に持たれた土塊は低いが山と変わらないくらい大きい物であった。それを両手に持っている。この巨人は他の個体と違い、嫌な事をさせたら一番かも知れない。

「その方法を考えつけるんだ」

 ヴィリスも考えていた事ではあった。ハティスも思いついていた方法だ。ただ他の個体がそれを思いつかなかっただけ。

「だけどやらせないよ」

 彼女が今どこに居るのか。先程の場所には姿は無い。彼女は巨人に付いて行ってたのだ。巨人に見えない角度を保ちながら。当然ながら巨人は彼女から目を離さずに後退していた。それでも気付かなかったのだ。理由はヴィリスが囮を作り、それを自分に見せかけたため。

「残念だけど。私は時間を掛けるつもりは無いんだ」

 時間を掛けたところで意味が無い。だって実力を見せる必要は無いのだから。

「だからね、すぐに終わらせるから」

 その声はきっと巨人には聞えていない。何故なら巨人は未だに囮の方に目が行っている。それ故にすぐ近くに居る事なんて分かっていないのだ。それを良いことにヴィリスは今下を向いている巨人の右手の甲に触れた。

「・・・・・・・ジャッジ・ギフト」

 声にすると彼女の手から毒が回っていく。瞬時に巨人の手がヴィリスの翼の色と同じに成り、次の瞬間には爛れる。最終的には溶けるように肉塊が落ちていった。

『ギュガアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』

 巨人の絶叫が空気を揺らす。それは空震と呼べる威力を誇っていた。だが残念ながらこれは巨人の技などでは無く、敗北の叫びなのだ。右手が完全に溶け、骨が剥き出しになっていく。当然ながら筋肉も溶けるため土塊が骨の間から零れていき、最終的には両手のそれを落としてしまった。巨人の硬い皮膚を解かすほどの劇毒。だがその猛威はまだ終わっていなかった。少し時間が経つにつれて彼女の毒は硬い皮膚だけでは無く、それらを支えていた骨までも溶かしていった。徐々に骨もボロボロになっていく。しかもその効果は付随するところにまで浸食していく。つまりは手から腕に。そしていずれ全身を蝕んでいき、最終的には何も残さないほど溶かしていくのだ。

『ギュアアアアアアアア!!!!!!!!!!』

 時間が掛かれば掛かるほど取り返しが付かなくなる。巨人はそんな事とは分からずに叫んでいたのだが、咄嗟に自分の腕を引きちぎった。考えての行動では無い。体が勝手に反応して腕をもぎ取ったのだ。それを目にしたヴィリスは苦々しい顔つきをする。

「・・・・・・そのまま反応しなければ良かったのに・・・」

 そうすればすぐに死ぬことが出来たのだから。それも最後は何も考えられず感じられず。苦しむ事も無かったであろう。だけどこの巨人はそれを拒否した。

「・・・・・・・なら仕方が無いよね」

 そう言うと彼女はより残酷な方法を取ろうとした。彼女自身も性格が残酷で冷血になってしまっている事は理解している。だがそれを止める事は出来なかった。直ぐさまにこの巨人倒さなければならないから。そして今まで甘かった自分から脱却するために。むしろこの様に思考が変わってしまった今は好機だとも思っていた位なのである。


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