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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
四章 集合、神獣種 宣戦布告、魔王種
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五十四話 時間操作

『時間を操る?』

「そうですよ。僕は時間操作が出来ます。驚きましたか?」

 オウム返しを肯定された。それを聞いても巨人は呆然としている。いきなり時間操作が可能と言われてもその証拠が無い。それにそんな能力があるのかと関心してしまった自分も存在した。

「・・・・その様子ですと驚いていただけたようですね」

『・・・・・ああ驚いたベ。そんな事が出来るやつがいるんだべな。・・・・・オラは聞いた事が無いベ』

 まあそれはそうだろうなとハティスも想った。自分の力の異常性は明らかだから。時間というのは平等では有るが、同じでは無い。それはアインシュタインが証明している。それを操るというのは最早星という範疇を超えているのだ。何せ時間を前にしたら星など本当に小さい微生物程度の物になりはてるのだから。それくらいの代物だ。だがハティスの行なっている事は正しくそれなのだ。そうとしか言い様がない。

「あっ! 言っておきますが時間支配ではありませんよ? そこまでは出来ませんから」

 操作と支配。狼はさすがにそれは否定した。支配なんて出来ないと言ったような物だ。しかしそれでも脅威である事には変わりない。なにいせ巨人は現在進行形で寿命を奪われているのだから。

「さて。・・・・・これで僕を倒すしか無くなったですね」

『・・・・・・・・。あんた倒して。おらが助かる事を確証してくれるのなら戦うだ』

 操作しているのか自立しているのか。自律してしまっていたら最早狼を殺したところで死ぬ未来は変わらない。巨人はこの時点で既に自分の命を諦めている。だからこそここまで冷静で居られてしまうのだ。今さら足掻いたところで失ってしまった寿命を取り戻せるわけでは無い。それにだ。

『これ以上寿命を無くさないようにする方法なんて一つしか無いだ』

 そう言うと巨人は先程爪を埋められたところを躊躇無く引き裂いた。狼の爪は上下に十本埋められている。つまり二本の線を画くように己の武器で肉を裂いた事になる。痛みは感じ無い事をこれほど感謝したことか。だが引き裂いたところで簡単に出る物では無い。巨人は上の引き裂いた皮膚の中に手を突っ込み、一本引き抜いて見せた。

「驚きです。まさかそんな痛そうな方法で無理やり引き抜くとは想ってませんでした」

 狼は心底驚いた様子で目を見開いていた。

『確かに痛いべ。だけんどもこれが一番確実だべ』

 痛みを自覚した今。この行動は相当の痛みを伴う。だけどもやるしか無かった。

「たしかに。それが一番確実ですね。ですがそのような事をしたのは貴方が初めてですよ」

 二本目を取り終えた時の言葉。確かにそうだろうとなと巨人は想った。どのような生物も二度も痛い目なんか見たくは無いだろう。それも自分の意思でなど出来る物の方が少ないであろう。

「ですが良いんですか? 貴方が悠長に一々一本ずつ僕の爪を取っている間。貴方は隙だらけになってしまいますけど・・・・」

『襲いたければ襲えば良い』

「・・・・まあ。そうなんですけどね・・・」

 隙だらけだからと言ってこの様な場面で襲うのは違うと感じていた。普通ならここを攻撃するはずなのにである。

『余裕なんだべな』

「まさか。此方もいっぱいいっぱいですよ」

 嘘にしか聞えない言葉だった。それくらい狼の言葉は軽かった。どのような挑発をしてもおそらく狼には響かない。

「胡散臭いですか?」

『信用出来ない類いの言い回しだべ』

 つまりは肯定していた。今日だけで何回言われただろうと考えたがすぐにそれを止めた。おそらく数えたら虚しくなると確信したから。

「まあ、敵ですから。信用されなくても問題無いですよ。それにこうして話している間は僕の相手をしてくれますからね。気付いてますか? 僕の相手をしているとき。自分の手が止まっていることに」

 気付いて巨人は再び手を進めた。

「といっても。もう遅いみたいですね・・・」

『・・・なにがだべ』

 狼の不穏な言葉に巨人は問いただす。狼は「ふふん」と鼻を鳴らすだけの反応しか見せなかった。

「あなた。動きが鈍くなっていますよ? つまりは反応が遅れるくらい年を取ったと言う事ですね」

 狼からの返答を聞き、巨人は急いで十分の手を見た。それは先程まで見ていた物より乾いており、皺が出来ている。脂肪も落ちたかのような皮だけのしわくちゃの手がそこにはあった。

『い、いつの間に。こんなに進行していたんだべ・・・』

「言ってませんでしたっけ? 僕は時間操作ができるって。つまりは老化する速度も此方で決めることも可能なんですよ?」

 今まではゆっくりやっていただけでこのくらい早めることも可能。つまりはすぐに殺せたくせにあえてそれを行わずに今まではじゃれ合っていたと言う事。

『舐めきっているんだべな』

「そうかも知れませんね。僕はただ貴方達の生態がどのような物なのか知りたかっただけです。だから時間を与えたんですよ?」

 ハティスからしてみればそれは自分のためにやっていたこと。それが舐めていると感じられても仕方が無いなと内心で呟いていた。

「ですが良い勉強をさせて貰いましたよ? 貴方達巨人も。老化には適わない事も知れましたしね・・」

 言葉にしながらハティスは立ち上がって首をならした。

「さて。・・・・・貴方はどのような死に方を希望しますか? このまま老衰で死ぬのも僕はありだと想いますけど・・・」

 確かにそのような穏やかな死に方も魅力的ではある。どうせ死ぬのなら優しい方が良いだろう。そう想うのは生きることを諦めているからだろう。

『そうだべな。・・・・それも魅力的だべ。・・・・だけんど。そのような死に方をしたらば巨人種の恥さらしになるだべからな。・・・・だから』

 己の武器。剣の切っ先をハティスに向ける。つまりは戦う事にしたのだ。勝てないことは理解している。それでも尚、勝つために。生き残る為に闘う事を決めたのだ。

「そうですか。・・・・・安心しましたよ? もしあのまま穏やかに死のうとしていたら。僕が直接殺してしまうところでしたから」

 どっちを選んだとしてもハティスが手に掛けることは違いが無かった。しかし被害が違っていた可能性がある。よりじゃん逆な方法で命を取っていたと言っている様な物だろう。

「残り時間。存分に楽しみましょうよ。せめて息を引き取るときの後悔が無いように」

『・・・・・そうだべな。オラも後悔しながら死にたくはねえべ。せめて、あんたくらいは道連れにしていきたいべな』

 目標は高くとはいったものだが、言ったからには実行したなと巨人は想ってしまう。

「楽しみですね。言ったからには実現して欲しいですよ」

 ハティスは巨人の発言に愉快げに帰した。どのような意味合いでこの言葉が出たのかは巨人には分からない。だがそこからは本当に愉快そうな事だけは伝わった。それに対して怒りも別に湧いてこない。ハティスの言葉からは馬鹿にしたような雰囲気を感じなかったから。それに不思議と笑みも零れてしまう。

『オラは全力で行くべ。だからせめて。俺に見せてくれ。オラに見せるまでも無いかも知れないべが。それでも知りたいんだべ! あんたの全力を!』

 巨人の言葉にハティスは驚いた様に見開く。しかし次の瞬間には不敵に喉が鳴っていた。

「・・・・・。良いですよ? ですが・・・・・・。果たして僕の全力を貴方の目は終えるでしょうか?」

『挑発はいいからオラに見せて見ると良いべ。その故でオラはあんたを道連れにするべからな!』

 次の瞬間ハティスと巨人は同時に動いた。


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