四十七話 怪異種
この世界には怪異種という種族が存在する。この世界において人と交流できるとされる知能を持った種族である。彼らの見た目は人と変わらない。しかしその特性は人とはかけ離れている者たち。存在するというのが確認されているだけの謎の種族。彼らには分からないことが多い。その尤もたるがどのように誕生した存在なのかと言う点だろう。この世界は星の意志によって作られた。ほとんどの種族がその存在に作られている。しかしその者が全く関与しないで作られた種族が二つ存在する。一つは悪魔種。彼らはその世界に住む者達の悪意が結集して生れた存在だ。そしてもう一つが怪異種だ。これの誕生は星の意志さえも分からない。しかし臆測は立てられる。怪異種とはおそらく作り話から生れた種族である。地上において沢山の生物が存在する。その中には当然のごとく沢山の知能有る種族が生れていった。当然話せる彼らは交流ツールとしてそれを用いた。何時しか話す事だけではなく文字も作られるようになった。文字を作ると言う事はそれは物に掻くことが出来るようになっていく。いつしかそれによって記録が作られるようになった。しかし地上の種族達はこれだけでは飽き足らずだった。いつしか自分達の想像することを書き始めたのだ。それは物語となった。それは複数。いや、数え切れないほど生れていき、大陸中に広まるケースもある。認識されると何時しかそれを想像とは想わなくなる者達も居る。地球でも同じような事がある。幻獣や妖怪など。想像の産物であるはずがそれを見たという者達が数多く存在していた。だからこういうことがこの世界で怒るのも不思議では無い事ではあった。しかしそれが何時しか現実とほとんどの者達が見たことが問題だった。この世界は地球よりもそういう思い込みが形になって表れやすい。現に悪魔種の例があり、魔王種もそれによって生れた。物語の中の存在だった者達や現象はいつしかその思い込みによってかの地上に形有る存在として無から生れてきた。生れてきた者達の形はほとんどが人に近い存在だった。しかし有している力は最早魔法とかそう言うレベルを超えている。現象と言うべきものだったのだ。これが星の意志が推察した怪異種の発生した理由である。当然いきなりそんな存在が生れてきたことに恐怖した者達もいた。それによって怪異種を迫害する事もあった。しかし迫害をする度に彼らは重いしっぺ返しをされてきた。だからいつしか迫害することを止めた。それからというもの怪異種は地上の民として受け入れられていった。と言うのが星の意志の見解であった。実際は違うのかも知れないが、こうとしか考えられなかったのだ。
そんな怪異種と妖精種の混血であるリンちゃんは幼いときから常に一人だった。友達は怪異種の父親から貰った人形だけ。それに母親がお守りの妖精を宿らせていた。この妖精は死なない様に母親から祝福を受けている。いや、呪われてしまったと言った方が良いのだろう。それはリンちゃんを決して一人にしないために。しかしそれだけ娘のことを大事に想っている両親であるがリンちゃんの近くには居なかった。どうしてもいれない理由があったから。結局は言い訳にしかならな事ばかり。しかし二人ともきちんと娘を愛する気持には変わりが無かった。
さて。彼女が今使って居る能力である空間に穴を開ける能力であるが。それはどちらが由来の力であるのか。答えはどちらからでもあり、どちらからでも無い。彼女は生れたときから特異な存在だった。妖精種の血を引きながらも彼女の容姿は妖精種のそれとは行かなかった。怪異種の力を受け継いだはずなのに一切その力を発現させることが出来なかった。それによって彼女は両種族にもなじめなかった。だからこそ一人で過ごしていた。しかし実際は発現できなかったのでは無く制御出来なかったのだ。彼女の能力はあまりにも危険であった。そのため制御が出来るまでリンちゃんは一人で過ごすしか無かった。彼女の近くには当然ながら両親は居ない。近くに居れない理由があるから。
まあ、だからなんだという話しである。そんな事情は彼女には関係が無いことだった。
『これは・・・・・』
巨人は全く抜けない腕を見て絶句した。
「ぬ・・・・け・・・ない・・・で・・・しょ」
彼女はそういうとおもむろに手を振り降ろす。すると巨人が手を突っ込んでいた穴が徐々に小さくなっていく。
『ぬっ! これは浴びないベ!』
この先の展開が見えてしまった巨人は急いで手を抜こうとする。しかしなかなか抜くことが出来なかった。それはそうだろう。なにせリンちゃんがそうなるように仕組んだのだから。だがそれでもかんぺきではなかったようで・・・・。
「・・・そ・・・んな・・・・」
力を込めた巨人は少しずつではあるが穴から腕を引き抜く。
『どうにか間に合わせるベ!』
「・・・・・そう・・・・・は・・・・さ・・せ・・・・な・・・い」
巨人の目論みを阻むべくリンちゃんは穴を閉じるスピードを速めた。ここで何故これ以上早めないのか疑問が起きる。僅かに頭の回る巨人もそこに頭がいってしまった。おそらく閉じるスピードは今野より速いだろう。早いはずなのだ。理由は先程見た穴の開閉は一瞬で行われていた。それこそ気がついたら出来ていた程度のスピードなのだ。だと言うのにこの穴は閉じるのがとても遅い。開いたときは一瞬だったのにだ。これはおかしいのでは無いかと巨人すら想った。しかしだからといって何時までもこのままではいけない。だからまずはこの穴から腕を引き抜かないとなにも出来ないのだ。
『いくべ・・・・・・おらぁぁぁぁぁ!!!!!』
かけ声と共に巨人は一気に穴から腕を引き抜いた。間一髪。穴は腕がギリギリ通れる大きさまで来ていたタイミングで抜けた。これ以上時間を掛けていたら本当に抜けなくなっており、切断されていた可能性もあったのだ。
『あ、危なかったベ・・・・』
「そ・・・・んな・・・・」
まさか抜かれるとは想っていなかったリンちゃんは明らかにショックを受けたようでぬいぐるみに顔を当てて俯いてしまった。僅かに時間が経つと彼女から鳴き声のような物が聞こえてきた。
『・・・・泣かれても同と言う事は無いベ・・・ん?』
今まで腕が突っ込まれていた穴が一瞬にして閉じた。これまで時間をかけてゆっくりと閉じていたはずなのにそれが嘘だったかのように一瞬にして。ということは今まではわざとおそく閉じていたと言う事だ。一体何故。と言う事だけは巨人も
考えられた。しかしそれより先は一切考えが及ばない。どのような事を仕掛けてくるのかなど想像も付かないことなのだ。それに加えて巨人は勝手にリンちゃんの見た目からして自分からは反撃してこないだろうと高をくくっている。何せ彼女から仕掛けてきたことなんて一度も無いのだから。反撃にしたってリンちゃんが穴同士をつなげただけ。それを喰らってしまっただけのだ。そう言うこともあって巨人はリンちゃんのことを完全に侮っていた。だからこそ知らないのだ。普段大人しい者ほど、内心に鬱憤などをため込んでいると言う事を。そしてそれを解放するとき。その者達はどのような手段を労してくるのかと言う事を。世間ではよく言われることである。大人しい者ほど。怒らせたら怖いと。
「し・・・・か・・け・・は。・・・か・・ん・・ぺ・・き」
これからが本当の意味でのリンちゃんの反撃タイムである。




