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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
四章 集合、神獣種 宣戦布告、魔王種
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四十三話 虫の女王

 戦場で行われている戦闘は全てが拮抗している。いや拮抗させているといった方が良いだろう。それは巨人達が強力すぎるから。・・・・ではない。確かに巨人達は脅威である。しかしそれ以上の力を神獣種たちは有しているのだ。彼らが戦況を拮抗させているのは力具合を確かめているのだ。アストラ以外は今回の戦闘が初めての悪魔種の先兵との戦いである。これまで生きてきた中で数え切れないほどの戦ってきた。それでも自分と同じくらいの大きさ。または自身より大きい存在との戦闘は初めてだった。それ故にどのくらいの力を出したら良いのか分からないのだ。巨人達が強いことは重々理解している為手は抜けない。しかし本気を出してしまうとこの場所の地形を変えてしまう。それ程の力を有しているのだ。それでも苦戦はしていない。ただ拮抗させていると言うだけだ。しかしその状況のまま闘い続けるというのは案外辛いものである。そのためか簡単に終らせたいと考える者も存在してくる。

「もうやだ! いい加減お腹が空いてきたしこのまま食べちゃうし!」

 一見堪え性の無い彼女であったが、一応周りの環境を配慮して巨人と向き合ってきた。しかしそれも限界の様子で次第に思い通り力を振るえないもどかしさと怒りを覚えてきた。

「・・・・もういいや。知らないもんね! 面倒臭くなっちゃったし」

 そう言うと彼女は巨人を見据える。

「・・・・・・。っていうかなんで食欲を我慢する必要なんかあるんだろ? この決した浸されない空腹感。貴方を食べれば満たされるかな?」

 ベルティアは凶悪な笑みで笑う。その笑みだけで巨人は動きを鈍らせた。ただでさえ足を負傷しているため上手く動けないと言うのに。

「じゃあ、いっただっきまーす!」

 それは明らかな隙だった。足を負傷しながらもなんとか彼女の操る虫の軍隊にどうにか他所していた。その結果それ以上体を喰われることは無かった。しかし今この瞬間。隙を見せた巨人を見逃すほどベルティアは優しくなかった。最早空腹感は限界に達しており、自分を焦らさせた怒りをぶつけるが如くの勢いだった。

 彼女が起こした行動はただ一つ。ただ口を開いただけ。すると彼女の口からは数え切れないほどの虫の軍隊が放たれる。まるで一つの黒い生物のように統制された動きで軍隊虫たちは動きが鈍くなった巨人を包み込んだ。

『な、や、止めるベ! がああああああああああ。何だべ!何だべ! これは。止めるべ。・・・・・・止めるべ!!!!!!!!』

 確かなに叫び声は微かに聞こえる。しかしそれ以上に軍隊虫の羽音や咀嚼音の方が大きく、それによって巨人の悲鳴はほぼかき消されている。

『た、たすけて。・・・・助けるべ!!!!!』

 全身を食い荒らされている巨人は助けを求めた。確かに先程までここにはもう一体の巨人が居た。しかし今はその姿を見ない。それは何故か。・・・・・別に先にベルティアに食べられたからと言うわけでは無い。その一体は体が縮んだ原因であるリンちゃんを探しに行ったのだ。まあ、探すと言ってもりんちゃんは近くいたのだが。そして案の定すぐに見つかった。しかし今はどうにか逃げている状況だった。

「その状態で助けにきたって無駄だと想うけどなあ! それに助けを求めたってその声は届いてないと想うよ? だって・・・・ほら」

 彼女の目線の先には木々を踏み倒しながらリンちゃんを追いかける巨人の姿があった。その表情からは必死さが伺え、まるで此方のことなど認識している様子は無かった。

「ね? 無駄だったでしょ?」

 彼女は普通に笑った。そう。普通に笑っただけ。しかしそれが余計に巨人の恐怖心を煽った。最早普通の笑みですら巨人にとってはトラウマ級な代物となってしまったのだ。だからといって巨人はなにも出来なかった。

「ねえ、動かないと本当にアタシに喰われちゃうよ? それでもいいの?」

『い、嫌だべ!』

「じゃあ精々足掻きなよ」

 煽られて初めて足掻くことを思い出した巨人は皮脂委に軍隊虫を払う様に動き回った。それは周りから見れば滑稽に映る。下手したら遊んでいるように見えるかも知れない。それはリンちゃんを追っている方の巨人にも言えることだが。しかし巨人がどう足掻いたところで軍隊虫から逃れることは出来ないで居た。むしろ足掻くまでに時間を費やし過ぎた結果体力も喰われていた。

『な、なんだべ・・・・・。きゅ、急に。・・・疲れ・・が・・・』

「まあ、そうだよね。うん知ってた。というかなんでそう簡単に的の言葉を信じるかな? 普通信じないでしょ。ああ。そうだよね。極限状態になったら判断が付かないからか。じゃあごめん。あたしのせいだわ。でもありがとね。あたしの言葉を信じてくれたお陰でさ。十分満足できちゃった」

 彼女が発する言葉は一切なにを言っているのか巨人は理解出来なかった。唯一理解出来たこと。それは自分がこの虫に騙されていたことぐらい。

『だ、騙したべか・・・・』

「無闇に敵の言葉を信じちゃいけない。勉強になったね?」

 短絡的で無計画。そう見えた彼女であっても知能においては巨人よりも上なのだ。自分の行動と言動ですっかりか巨人を思惑通りに動かした。

「言っておくけど、こういうまどろっこしくて時間の掛かること。普段はやらないから。今は周りの目を気にしているからこういう風にしているけどさ。普段は問答無用で食べに行くんだよ。だって時間を掛けるとこっちの空腹の方が我慢できなくなっちゃうし」

『そ、それを態々やるっていうのはどういうことだ・・・・べ』

 最早痛みになれてしまったのか。その口ぶりは通常時と変わらない。しかしそれでも痛みが強いのか、偶に言葉が詰まっている様子だ。

「さあ? あたしもわかんない。・・・・・ただの苦戦演出かな? それともあたしの実力を見て貰うための時間とか? まあそう言うのかな? あたしも正直わかんないんだ」

 なんとパッとしない答えが返ってきて巨人も困惑する。

「だけどさ。そのお陰かな? あたしの実力は分かって貰えたともうよ。君にも。君の後ろにいる存在にも」

 ベルティアは巨人の背後に目をやるような細める。実際に居るわけじゃない。ただの比喩表現だ。だがきちんと的を射た言葉である。彼女の言う通り、彼女の実力は示せた。巨人達にも。背後にいる悪魔種や魔王種にも。そして何より味方陣営であるはずの大竜種や神獣種にもである。今までの軟派な態度で舐められやすいベルティアだが。これで彼女を侮る者はいなくなったであろう。大竜種の中でもッ神獣種達は侮られていることには違いが無い。理由としては始祖の力を受け継いでいる自分たちこそが地上で尤も尊い存在であると言うことを信じて疑わないからだ。力にしたって自分たちこそ地上の覇者だと思っている者もいる。しかし今日一日でその考えとはおさらばしている竜達がほとんどであろう。なにせ自分たちよりも優れた能力を持って明らかに自分たちじゃ叶わない存在と対等以上に渡り合っている。式典にて感じた彼らの覇気は本物だったという証明がされようとしているのだ。

「じゃあもう飽きちゃったからいい加減終らせるね」

 そう言うと彼女は指を鳴らすそれによって軍隊虫たちの捕食スピードが上がった。巨人の周りにはただ羽音しか聞こえなくなり最早悲鳴すら聞こえない。しかし巨人もそこで意地を見せたのだった。

『あ、あり得ないベ! こんなこと。たかが虫ごときに! おら達が・・・・おらが! 食べられるなんて!ありえないべ!!!!!』

 それが断末魔となりそれ以降巨人の声は聞こえなくなった。次第に虫たちは役割を終えたが如く、ベルティアの口の中に戻っていった。巨人の存在したところには一切なにも残さずに。

「ひどいな。たかが虫だなんて。これでも虫の女王様なのに」

 これはあくまで自称ではあるが間違っては居ない。彼女は大罪女王蟲(サタンベルゼ)。アダルの考察通り七つの大罪をモデルに作られた虫の女王であった。


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