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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
四章 集合、神獣種 宣戦布告、魔王種
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四十一話 捕食対象

「いっただきまーす!」

 突如巨人達にも聞こえる程の声がその場に響いた。不思議と聞こえるその声に警戒する巨人二体。だが辺りばかり目を向けていた。辺りには警戒するべき物は見当たらない。

『空耳だべか?』

『どうなんだべか。だが、彼奴らのことだべ。ただの空耳というのはあり得ないベ』

『・・・・そうだべな。・・・・・ん?』

 そこでようやく一体は違和感に気付いた。つま先が妙に痒いことに気付いた。最初は気のせいだと思ったのだが、その痒みは徐々に拡がっていくばかり。一向に収まる気配が無い。気になって試しに足を上げてみるとつま先を中心に何か無数の黒い軍隊が群がっているのが分かった。

『ん? 何だべこれ?』

『分からないべ・・・・・ン! あああああ!』

 突如として足に何かが群がっている個体が悲鳴を上げた。

『どうしたんだべ!』

 心配して近寄ろうとするもう一体の巨人。

『い、・・・・・痛いべ! 痛いのが拡がっていくべ! あああああああ』

 その言葉で足に群がっている軍隊が何かをしているのは明らか。もう一体の個体がその軍隊を散らすよう剣で払いのけようとする。しかしそれではその何かは散らなかった。むしろ徐々に剣が短くなっていった。それもボロボロになっている。それはまるで何かに囓られているような無くなり方をしているのだった。

『これで払えないとなると厄介だべ。・・・・それにこの剣を見るにこの軍隊はおそらく』

 この巨人の足を食べている。そう見たほうがいい。

『・・・・仕方が無いべ』

 正直言って巨人達は特殊な能力を持っているわけでは無い。ただ単にその巨体で蹂躙すれば良いだけなのだから。アダルが前に戦った個体が魔王種によって能力を付与されていたに過ぎない。だからこういうときに何か特殊な方法を取ることは出来ないのだ。だから自分の体について居るものでどうにかするしか無い。

『なあ、背中の翼でこいつら吹っ飛ばすべ。オラも手伝ういか!』

『あ、ああ! それならなんとかなるべ!』

 二体の巨人は徐ろに翼を広げて数回思いっきり羽ばたかせた。その風は巨人の足に全て向けられる。何か分からない軍隊はその強力な風の前に何もする事が出来ずにあっという間に吹き飛ばされていった。

『これで大丈夫のはずだべ・・・』

『そうだべな。・・・・だけど痛いままだベ』

『まあ、そうだべな・・・』

 見ると巨人の足先は指がすべて喰われてしまった状態だった。

『やっぱり喰われてるべな。もしかしたらとは思っておったんだべが・・・』

 そう言いながら巨人は自分の腰布の一部を破って喰われた足先に巻いた。

『痛いとおもうだべが、慣れればどうという事無いべ』

『そ、そういうもんだべか・・・』

 喰われた先からは今も絶え間なく血がどばどばと出続けている。そのため足先に巻いた布もすぐに真っ赤に染まっていった。

『これって血。止まるんだべか?』

『・・・・分からないべ。だけど今はそれしか出来ないべ』

 本来足先を無くすような怪我をしたら足の根元をきつく縛って止血しなければならない。だがそんな知識巨人達が持ち合わせているわけが無く。雑な手当てをしてしまっている。

「ちょっと! ひどいよ! 急にあんな突風浴びせなくてもいいでしょ!」

 もう一度二体の耳に声が響く。その声は先程聞いたものと同じだったため二体は尚のこと今度は油断が無いように警戒した。

『どこだべ!』

『姿を現すべ! 卑怯者!』

 巨人二体が叫ぶ。すると二体目の言葉に反応したかのように笑う出した。

「なはははははは! ひ、卑怯者って! 今それを言う?」

 言葉にしな等が彼女は丁寧に巨人達の前に姿を現した。最初は巨人達も見えなかった。しかし徐々に何かが何かを中心に集まっていき、人型に形成していった。

「卑怯なんて可笑しな事をいうんだね? そっちだって卑怯な奇襲で襲ってきたでしょ? 

卑怯なんていう資格無いよ?」

 現れたのは人型の虫というほかに表せないような容姿をした女だった。その姿を目にした巨人達二人の顔は青くなっている。正しく生理的に受け付けないような見た目なのだろう。

『な、なんだべ! こいつ。気持が悪いべ!』

『そうだべな! こんな奴さっさと駆除為るのが一番だべ。さあ、虫は駆除されるべ!』

 駆除。彼女を倒す言葉であるならこれ以上無いほど適切な言葉であろう。

「ねえ? 折角さっきの言葉に返答したんだからさ。反応してくれても良いじゃん! 何で無視するのさ」

 対するベルティアは少し悲しそうに訴える。しかしそれすらも巨人達には届かなかった。届く前に二体ともベルティアに襲いかかったから。

『いやぁぁあ!!!!』

『おりゃぁぁああ!!』

 二体とも己の武器を彼女に叩き付けようとしている。しかしそれは無駄に終った。なぜなら今の彼女は個では無く軍であるため。二体の攻撃は当たりはしたのだろう。しかし綺麗に通り抜けた。それはまるで幻影を切っているのでは無いかと想わせるほど不思議な出来事であり、二体が混乱を招くには十分だった。

「無理無理。アタシにはそれ当んないよ」

 巨人達を嘲笑うが如く嘲笑しながら放たれる言葉によって困惑は加速する。当らないのは分かった。しかしなぜ当らないのかが理解出来なかった。体はあるはずなのに通り抜ける。攻撃したのに無傷。ありえない事ばかりのことで頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。

『な、なんなんだべ。こいつは・・・・』

「あたし? あたしは・・・・・そうだな・・・・。虫かな」

 それは見れば分かることだ。しかしよく考えればおかしいが分かる。

『ただの虫がおら達と同じくらいの巨体を持てるわけ無いべ!』

「そうだよね? まああたしはただの虫じゃ無いんだけどね?」

 そう。ただの虫じゃ無い。それは彼女だって生を受けてから今までそれなりの経験をしている。その中でも早々に自分は他の個体とは違う事に気付いた。いや気付かざる終えなかった。他の個体は虫その物の容姿だというのに自分だけ人に似た様な姿をしていた。他に自分と同じ様な個体を見つけることは叶わなかった。この時点で他の個体と違う事は嫌でも分からされた。それによって他の虫からの迫害を受ける結果になった。まあ彼女の性格的にこれはあまり気にするような事では無かった。迫害した相手は否応なしに彼女の腹の足しになっていった。生れたときから続く空腹感。これも自分だけが持っているという事もなんとなく理解していた。何故か分かっているのだ。

「ちょっとだけ特別なんだ。あたし」

 優しく微笑むながら口にした言葉にはその確信があった。その笑みを見て巨人達の体に悪寒が走った。自分たちは得体の知れない存在と戦っているという自覚がようやく持てたのだ。勿論彼らも分かってはいた。しかし自覚するとそれは一気に恐怖心へと変わっていく。先程相対した狼や牛の化け物も得体の知れ無かった。しかし目の前の存在は群を抜いている。何せ二体いると言うのに目の前の存在に勝利する姿を想像することが出来なかったのだから。そもそも攻撃が当らないのにどうやって倒せというのだろうか。

「さーて。今度はどこを食べてやろうかな?」

 楚々居て何よりも恐ろしいのは目の前の存在が自分たちの事を捕食対象としか見ていないことだった。この世は弱肉強食とは言ったものだが、常に強者側であった巨人達は初めての弱者で捕食される側である現実に恐怖するしか無かった。

「さあ、食べられたくなかったらさ。足掻いてみてよ」

 笑みを浮かべる眼前の強者に巨人達も腹を決めるしか無くなった。


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