三十七話 原因の少女
宣言すると狼は体の重心を下げていつでも突撃出来る体勢を取った。
「あまり焦る出ない、狼。まだ此奴等に説明しないといけない事が有るのでは無いか?」
牛の怪物は少し呆れた様子でそれを口にする。
「・・・・・ですが・・・・・・・・・そうでしたね。なぜか少しだけ感情的になってしまいました。・・・・・この状況を作り出した巨人達に怒りを覚えてしまったのかも知れませんね。全くもって申し訳ない」
狼はそう言うと体から力を抜き、巨人から離れるように後退する。
「・・・・気付いていますか? 貴方達。もう世界樹を切り倒すことは不可能だと言う事に」
なにを馬鹿な事を言っているのか。四体の巨人は思った。彼らは自分たちのことをよく分かっている。その巨体の優位性に。他の生物とは大きさを比較することすらした事が無いくらいの巨体。それが武器にならないわけが無い。そう彼らの優位性は巨体にあるのだ。一切光属性の効かないのは最初の一体だけ。後は皮膚が異常に硬い人型生物である。そしてその優位性は彼らと同じ大きさの種族が現れただけで呆気無く崩れ去る砂上の城でも有るのだ。
「気付いてないんですか? もう貴方達を恐れる理由はありません。だってもう貴方達は巨人と呼ばれるほど大きくないんですから」
『ん? それはどういう意味だべ・・・』
『んなああああああ』
一体が返答した次の瞬間。残り三体の内の一体が突如として発狂したような声を上げた。残り三体がそちらの方を見ると彼は絶望した表情を浮かべていた。
『どうしたん・・・・』
『・・・縮んでる。おら達、縮んでるべ』
そのいったい葉気付いてしまったのだ。先程まで自分たちより少し大きいくらいだった世界樹が今は明らかに自分たちが見上げるほど大きくなっていることを。そしてなぜか幹の大きさも巨大になっている。世界樹が突然大きくなったわけじゃ無い。そんな事はあり得ない。だとしたら今自分たちに起っていることは甲としか説明が出来ない。
『な、なんて事だべ・・・・・。おら達本当に縮んじまっただ』
『そんなわけないだべ。おら達を縮ませる術なんて無いだべ』
『オラ達が知らなかっただけだべ。・・・・・そういえば変な声が聞こえたべ。そして軟化知らん目ん玉が現れたときも軟化おかしいと思ったべ。あれを切った直後にこいつらが現れたんだべ』
一体の巨人がそのことを思い出すと狼は正解だと言いたげにくすりとわらった。
「そうですよ。貴方達は縮んだのです。先程聞こえた声で。・・・・・正確にはその声を発した存在の力によって貴方達は縮みました。僕たちと同じくらいね」
ネタばらしは勿体ぶらずに口にした。種を明かしたとしても問題が無いからだ。
『そ、そんな馬鹿な力が存在するはずがねえべ』
「貴方達には言われたくないですよ。僕たちだって最近まで巨人という種族がいると言うのは知りませんでしたから。・・・・まあ、この世界にはまだ貴方達や僕たちのような不思議な存在がまだ見つかっていないと言うだけで存在していると言う事ですよ」
言い終わると狼は警戒に笑った。そんな彼の言葉に巨人達は当然の如く納得をしていない。
「まあ、信じようが信じまいが、それは貴方次第ですよ。・・・・ただ今起きている現象を認めないと前に進めない。足下を掬われてしまいますよ?」
不敵な笑みよ浮かべる様に狼は目を細めた。
「・・・・・・・そろそろ良いですか? これ以上時間を使ったらさすがに文句を言われる気がするんですけど・・・」
「・・・・・・・。しらん。我に聞く出ないわ。・・・・・・・まあ良いのでは無いか? 面倒だった種明かしは済んだのだ。後は好きにしても良かろう。・・・・・それに時間についてだが我はそんな事は気にしておらんが。・・・・・だが文句を言われるのも嫌であるからな。・・・・・そろそろ始めても良いんだろうが・・・」
「あたし達をのけ者にしないでよ!」
そんな小さな声も巨人達に歯聞こえた。どこに居るのか分からないが兎に角その姿は小さいのであろうと言う事は声の大きさで分かった。
「・・・・・なんでその姿のままなんですか?」
声の主がどこに居るのか見つけた狼はその方向。つまりは自分の肩に目を向けて呆れた様子だ。巨人の内の一体も彼の肩に目を向けた。そこには二人の少女が居るのを見つけた。
「だってあっちの姿全然可愛くないんだもん!」
「リンちゃん。・・・・・元の体。・・・・きらい」
二人の主張に狼は困ったそうにため息を吐く。
「そうは言いますが。人間の姿のままだとけがしますよ?」
「あたしは別にこのままでも力を使えるし!」
「・・・・・リンちゃん。・・・・仕事した・・・・・。もう・・休む」
そう言うと人形を持っている方の少女は睡魔に耐えるように打つら打つらと首を傾け始めた。そんな彼女を見て狼は慌てた様に彼女に向けて手を向ける。
「それは良いですけど、さすがにそこで寝ないでください。僕が戦えませんから。ほら、寝るなら城に戻っていてください」
「うん・・・。そうすっ! おあ!」
手を動かして転移の魔法を自分に掛けようとした瞬間。怪物が少女をつまみ上げた。
「我の前でサボろうとするでない。・・・・・・・お前。巨人を縮めただけで仕事をしたと申すのか?」
瞬間巨人達は人形をもった少女に目を向けた。この少女が自分たちを縮めたと言う言葉を聞いてしまっては彼女に視線が向くのは仕方が無い事なのだが・・・。
「むう・・。リンちゃん。・・・・仕事・・した」
「それだけがお前の仕事では無いだろう? 相手は四人居るのだ。ここでお前が抜けたら誰が二体担当するというのだ?」
彼ら四体で巨人を一体ずつ倒すと言う事になっている。彼女が抜けたら必然的に一体あぶれて残り三体のうち二体受け持たない個体が存在する事になるのだ。
「あたしがやる!」
「黙ってろ。お前は食い過ぎなのだ。少しは自嘲しろ。・・・それにここでこいつに戦わせないと何時までも寄生するのだ。甘やかすわけにはいかないだろ」
「・・・そうですね・・・。僕も二体受け持つのはさすがに厳しい。ですから貴方にも戦って欲しいものです」
狼からもそういわれたリンちゃんは不服そうに頬を膨らませるが、二体にはそれは効かない。
次の瞬間巨人の内、比較的頭が回る個体が狼の肩にいる少女に向けて剣を振り下ろす。だが当然の如くその攻撃は狼によって防がれる。振り下ろされた剣をなんと片手で受け取ったのだ。その動きは毒あたり前で普通の事だった。何せ狙われたのは少女だとしても被害を受けるのは当然ながら狼なのだから。自分に攻撃されたのと同じ事。この巨人が少女を切れるとは思っていない。だから防ぐ。
「先に手を出してしましたね。これで僕たちの専守防衛と言う事になりますよね。いやぁ、これで僕にも貴方達を倒さなければならない理由が出来ました。ありがとうございます」
笑うように目を細める狼。それを見て巨人は戦慄する。
『ね、狙い通りって訳だべ?』
巨人の問い掛けに狼は目を細めたまま首を傾げる。その仕草がなんとも胡散臭く見えた。
『・・・・性格が悪いべ』
「それはこの一日で何回か言われましたが。僕としては自覚が無いんですよ。ですがまあ・・・・」
彼は次の言葉を紡ぎ出すまでの間に攻撃態勢に入った。剣を受け止めているのとは反対の手の爪を伸ばしていた。
「おそらくそうなんでしょうね。たった一日で何回も言われるとなると、それはもう否定しようがありませんから」
軽やかで明るい口調で語りながら彼はその爪を巨人に突き刺した。




