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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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二十話 悪夢

 アダルはふと気付くと真っ暗と、暗闇が広がる食うかを眺めていた。その景色を目にして、彼は首を捻る。

『ここは・・・・。』

 どこか既視感のある空間をどうにか思い出そうと、頭を巡らせる。しかし、どうしても出て来なかった。その事実に、アダルは苦そうな表情を浮かべ、悔しそうに肩を落とす。

『・・・・。・・・・!』

 ふと、何かが耳にひり、アダルはその方向に目をやる。しかし暗闇が広がっているため、よく見えない。

『・・・・。言ってみるか』

 そう思い立ってすぐに行動を興し、彼は何かが聞こえ聞こえた方向に足を進めた。

『・・・・』

 自身の足音が妙にその場に響く。それが少し不気味に感じながらもアダルは恐怖に怯える事無く、足を止めることはなかった。

『・・・・。・・・・・! ・・さ・!』

 小さくだが、アダルはその音を拾うと、彼は足を止めた。何かを伝えようとしているらしく、その音は何か聞きめいた物を思い起こさせた。アダルは怪訝そうな顔をしつつ、再び足を進めた。

『・・・・・!』

『・・・・・・』

『・・・・・、・・・』

 進んでいくと、その音が段々と増えていく。アダルはその音がどういう物か、耳に入れようと必死で感覚を研ぎ澄ましている。

『た・・・t』

 その音が聞こえた瞬間。アダルは進めていた足の回転を自身が上げられるトップまで上げた。そうせざる負えなかった。何故なら、先程から聞こえる音の正体が分かったからであったから。

『くそ、鈍感過ぎるだろ』

 おとの正体が分かってから、アダルの表情が強ばっていた。傍から見たら怖がられそうな顔つき。しかしそれは見ようによっては祈りを抱いている様な顔にも見える。アダルはどこか神に祈るように小さく呟いた。

『間に合ってくれよ。頼むから』

 その後しばらくアダルは全速力で駆けた。その音がした方向に。しかし一向に着かない。それ所か人一人合わない。しかしそんな事にアダルは気付かない。アダルは目指した場所に向って唯々必死に祈るような面持ちで走る続けた。

『早く、早く着いてくれ。このままじゃ・・・』

 駆けながら呟いたその言葉は虚しく響く。それでもアダルは不安を逐いさり、駆ける。そして遂に仄かに明るい空間に辿りついた。その場に着いたとき、アダルは少し抱け希望が持てたよう内気がした。

『誰か! 誰か、いないか! おーい!』

 走ったときの息を整えるように深呼吸をすると、周りを見渡しながら叫ぶ。

『助けに来てやったぞ! 誰かいるか!』

 アダルはそう良いと、声の主を探すように少しあたりを歩く。すると、仄かに明るい場所から少し離れた所に人影が見えた。

『おい! ここら辺で声が助けを呼ぶ声がしたんだが、何か知らないか?』

 アダルはその人影に近づき、それを聞いた。人影は男か、女か分からなかったが影絵の様に詳細な事は分からない。しかし、アダルの問いには頷いてくれた。

『それは、本当か!』

 思わず笑みを浮かべながら、徐ろに近づく。影は再び、頷き徐ろに自身の腹に指を指した。それが何を意味するか。一瞬彼は分からなく、困惑した。影はそれを悟らせるために大きく口を開ける。するとそこには顔の半分を無くした既視感のある十代前半くらいの少女が正気のない目を此方に向けていた。

『助けを呼んだのに。助けてくれないんだね。巨鳥さま。私はあんなに頑張ったのに』

 少女は失望の言葉をアダルに向ける。そのことに彼は目を見開き、その少女を眺める。しかしそれはできなかった。すぐに影が口を閉じたからだ。

『汝は何も守れない。過去の柵は決して抜け出せない』

 影がアダルを知っているような口調で喋った。その時影に異変が起きた。影の形が段々と膨張していく。人の形は段々と崩れていき、四本足の巨大な獣の姿に変わっていく。気がつくと、影の足下に沢山の人の死骸がある。それを目にしてアダルは顔を歪める。

『汝は逃れられない。儂の怨嗟からは』

 重々しい声がアダルの耳に入っている。その声を聞いたアダルはある事を思い出した様に口を開けた。

『おまえは・・・・・』

 声の主の名前を言おうとしたら、影が此方に殺意のある目をを向けてきた。それが衝撃を産む。どうにか持ちこたえようとしたが、どうにも力が出せずに衝撃によって飛ばされた。しかし彼ははっきりと見た。あの影が向けてきた、獰猛な血の色の瞳を。

『汝は苦しむであろう。この星が生み出した闇の獣によって。そして、その闇はいずれ汝の光りさえ吞み込むだろう』

 衝撃に吹き飛ばされている最中。その怨嗟まみれの声が聞こえた。その言葉はどこか警告しているような感覚をアダルに与えた。彼は為す術もなく彼方へと飛んでいく。

『精々星より受け取ったその光りをもって足掻くが良い』

 最後に聞こえたのは勝ち誇ったかの様な笑い声だった。






 離宮の構造は地上六階。地下一階である。その中で客を泊める為に宛がわれるのは二階か三階である。その階にはそれぞれ部屋が三個あり、一部屋の広さは三十メートル四方。快適に過ごせるように設備もされている。アダルに宛がわれたのは三階の東側の部屋であった。

「はあ!」

 アダルは飛び上がるように部屋の中央に鎮座されてある豪華な作りの寝台から起き上がった。

「はあ。はあ。はあ」

 息は荒く、身体は汗まみれ。しかし彼はそのことにしばらく気づけずにいた。

「はあ。クソ!」

 彼は一度頭を抑え、その手で寝台を殴りつける。幸い、それほど力を込めた物ではなかったらしく少し音が響いた程度で済んだ。アダルは響いた音を耳に入れると頭を抱えた。

「なんであいつの夢なんか見るんだ。」

 その声は普段からは考えられないような弱々しい物だった。彼の身体はいつの間にやら震えている。それを押さえる様に自身の手で肩を掴み、強制的に震えを止めさせる。

「情けねえな、俺は」

 今度は呆れた様子えっで自身を自虐して、そんな情けない自分を鼻で笑った。

「悪夢にうなされて飛び起きたなんて知られたら、あいつらに笑われるな」

 頭に浮かぶのはフラウドとヴィリス。二人は各々違う反応を見せるような気がする。フラウドハ豪快に笑うだろう。ヴィリスは真摯に心配アダルを心配するだろう。どっちにしてもこのことは喋れない内容だと彼は想い、二人には黙っておこうと決めた。

「・・・・・。にしても。なんで今なんだ? 随分と久しぶりだった気がするが」

 アダルは不意にあの悪夢が気になった。彼自身、これまでこういう悪夢に悩まされた経験が無いわけでは無い。いや、結構な数、悪夢によってうなされる経験をしていた。その時見る悪夢というのは決まって夢の中に影が出て来た。アダルはこの影の正体の検討はついている。

「やっぱり・・・・・。あいつだよな」

 アダルは悔しそうに表情をして再び頭を抑える。アダルが言うあいつ。その正体というのは・・・・。

「止めよう。これ以上、あいつを思い出したら」

 アダルは頭を上げて天井に目をやる。そこには一つのシャンデリアが光りを灯さずに飾ってある。それはそうだ。今の時間は誰もが寝静まる真夜中。

「いや、もう朝方か」

 徐ろに窓を見ると、外はうっすらと明るくなってきていた。アダルは不意に窓に近づき、窓を開ける。

「っ!」

 少し冷たい風が彼の身体を通り過ぎて部屋に入り込む。その風によって彼の頭は完全に起きた。

「そうだよな」

 何かを納得したようにアダルは自己完結な呟きをする。

「俺は星の光りの化身なんだよな」

 何を言っているか分からない彼が見据えているのは、地平線から僅かに零れている太陽の光だった。

「永遠の夜なんて訪れない。俺が生きている限りな」

 彼は勇猛な声を出す。それはあの悪夢に出て来た影を嘲笑うかのように。彼は決意を声に出した。

「俺はお前には負けねえぞ!」

 その心強い声が部屋に響いたのだった。

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