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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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二話 死因の記憶

展開は早めです。

 二人は洞窟を抜け、森の中を歩いていた。

「あの、先程の話は、本当なのですか?」

 歩きながらユギルは疑問に思っていた事を口にした。彼は疑問に思っていたのだ。何故、自分にそんな重要な事を教えたのか。そしてそれを明かす相手が何故自分だったのかそれが気になって仕方ないのだ。

「本当だよ。俺は異世界から転生してきた前世持ちだ。そうじゃなかったら説明がつかない事があるだろう」

 そういえばそうなのだ。彼はなぜ、人の言葉を喋れるのだろう。そもそもこの世界に彼の種族である天輝鳥などは存在しない。ましてやあれほどの巨体を持ち、なおかつ人とコミュニケーションを取れるなど不思議な事がある。それに加え、彼はあまり人と接していないはずだ。それなのに人語を理解出来ると言うことはその基礎が必ずあると言うことになるのだ。

「それをなぜ、私に教えたのですか」

「言わないと、俺が出した条件を納得してもらえないだろ?」

 彼の神妙な横顔を見てそれほどまでアダルは真剣なのだと悟った。しかし彼にはまだ一つ疑問が残っていた。

「そもそも転生とはどうすれば出来るのですか」


「決まっているだろ? 死んだら出来るんだよ」

 アダルは言葉に彼は不意に立ち止まる。止まるな口にしようと振り返ると、アダルはその光景を見て

思わず絶句した。そこには首を傾げたユギルの姿があったのだ。そこでアダル悟った。この世界には前世やら転生という概念が存在しないと言うことを。その証拠に彼はその言葉を初めて聴いていたとき首を傾げていた。その事実を思い出し、参ったような表情を浮かべた。彼はため息を吐き、ユギルに顔を向けた。

「俺のいた前世の宗教にはこういう考え方があった。人の魂は肉体が死ぬと魂は他の肉体に移るという考え方だ。」

 アダルは少し困った様に転生について語り始めた。

「それは変わった考え方の宗教なのですね? アダル様が信仰している前世宗教というのは。私の信仰している宗教では死後魂は創造主たる主神の元に帰るいうのもですから」

 少し驚いたような表情を向けるユギルにアダルはため息を吐いた。

「勘違いするなよ。俺はその宗教の教徒ではあったが別に信仰していた訳ではないぞ」

 何を言っているのか分からず混乱しているユギルは首を捻る。

「分からないって顔だな。まあ、そういうことが許されるのが俺の前世の世界だって事だけ覚えておけ」

 まだどこか腑に落ちていないのかユギル返事するこえが小さかった。それを聞いていたのかは知らないが、アダルは再び森林を抜ける為歩き始めた。






「あの、もう一つだけ聞きたい事があるのですが、いいですか?」

 先程より少し早歩きの状態で彼はまた質問する。アダルはそれに対して頷きで返答返した。

「貴方様が前世持ちというのは分かりました。それで転生する為には死ぬ必要があることも理解しました。それ故の質問です。貴方様はどの様な死因でなくなったのですか?」

 唐突に言われた前世での自身の死に方。それには彼も思わず足を緩めた。

「気になるのか? つまらないと思うぞ。そんなことを聞いたって」

「それは私が判断することですので」

 彼のその言葉に少しだけ眉を顰める。その声は少しだけ笑っていたのだ。

「はあ、分かったぞ。お前は俺の弱みを見つけようとしている。違うか?」

 振り返り、ユギルの顔を伺うと、困った様な笑みを見せていた。どうやら図星だったようだ。

「まあいいさ。最初から話す予定だったからな」

 そういうと徐ろに空を見上げた。





『前世最期の記憶。それは異世界の乗り物であるバスに乗っていた所だ。俺たちはその当時まだ成人してはいなく、教育施設に通っていた。そのバスに乗っていたのは教育施設の方針で地方の都市に現地研修に向うためだった。そんな中それは起こった。毎年梅雨時に行われるそれは例年に漏れずそれは行われた。しかしそれが駄目だったのだ。その日はバケツをひっくり返したような猛雨だった。バスの運転手はそれに気をつけながらも安全に運転していたと思う。同乗していたクラスメイトには何故か大雨でテンションが上がる者が現れた。どこにでもいるお調子者だったが。そいつのおかげで車内は和んでいた。俺もそれなりにその雰囲気を楽しんでいた。しかし無情にもその時は訪れた。脅威が何も雨だけとは限らなかったからだ。対向車線から大型車両が車線を越えて衝突してきた。崖側だったバスはそのまま崖から落下した。しかしそこからが本当の地獄だった。落下した車両の中で奇跡的に全員が生きていた。だが、動けるのは数人しかいなかった。それほどまで皆重傷だったんだ。奇跡的に軽傷だった人は救援を呼びに潰れた車両から出て行った。しかしそれは結果的に間に合わなかったんだ。軽傷だった人が出て行ってから約十分後。車両が突然爆発し、俺たちはその短い人生に幕を下ろした。






「そして次に目が覚めたらこの世界だったって事だ」

 アダルから聞いた死因の真実。それを聞いてユギルは自分が恥ずかしくなった。そもそも前世に死因を聞くことが人として駄目なことなのだ。それなのに自分はアダルの弱みを見いだそうとしてそれを聞いた。本来なら怒号を浴びせられても文句は言えない。それなのに彼は話してくれた。それは彼が優しいからであろう。その優しさが余計彼を罪悪感に押し流した。

「お前がそんな顔をする必要はないさ」

 不意にその言葉が耳に届いた。俯いていた顔を上げると彼は微笑を浮かべていた。

「俺が勝手にお前に言ったってだけさ。お前が背負うことじゃない」

「しかし、私はそれを急かす様なことを言いました。これは言い逃れできません」

「俺は言わないことも出来たんだ。しかししなかった」

 気にしてないと顔で言われた。

「それにこの話には続きがあるんだ」

 言葉を紡ぐ彼は笑みを溢す。

「俺がこの世界に転生してすぐのことだ。俺は急に前世の記憶が戻った。その時俺には聞こえた」

「何が聞こえたのですか?」

 不思議がるユギルの問いかけに残念そうに首を振る。

「分からない。しかしその声が記憶と共に聞こえたんだ。『妾の失敗により、汝らを殺してしまった。妾はこれを深く後悔している。この転生は妾が汝らに唯一出来る贖罪である』って内容だった。俺はこの言葉を聴いて確信した。俺以外でも爆発で死んだ連中はこの世界に転生しているってな」

 笑う彼は心底嬉しそうにしている。

「俺はすぐに前世持ちを探すたびに出した。しかし約五十年が経ったとき疑問に思った。本当にこの世界には俺以外の前世持ちは存在するんだろうかってな。そんなことを考え出したら旅を為ることが急に馬鹿馬鹿しく成ってしまった」

「それで、あの洞窟に入ったんですか?」

「まあ、そういうことだ」

 気にしていないような顔をしているが、心の奥底ではなにか思っているかのしれない。それを感じたユギルはすこし彼に同情する。

「さみしかったんですね?」

「そうなんだろうな」

 なおも淡々と返す彼を見てユギルは決意を固める。

「アダル様。私は必ずあなたと同じ前世持ちを探して見せます」

 胸を張り大声で宣言する。その声がアダルの耳に届くと、困った様な顔をして振り返った。

「分かった。分かったから少し声の音量を下げてくれ」

「いえ、これは私の決意の表れです。いま叫ばずしていつ叫びましょうか」

「周りをよく見ろ。これでも叫んでいられるのか?」

 アダルに言われ、ユギルは注意して周りを見渡した。

「んなっ!」

 その言葉を発すると同時に彼は絶句してしまった。なぜなら。

「ンングウウウ~?」

 イノシシ型の魔物の群れに囲まれてしまったからである。

「こ、これは一体」

「お前の声に反応して集まってきたんだよ」

 腰に差してある権に手をかけ、狼狽えるユギルにアルダは呆れ声で説明する。彼はため息を吐き、一人で群れにむかって歩いて行く。

「待ってください。危険です」

「お前は俺が誰だか忘れたのか? お前らの何倍の大きさを持つ巨鳥だぞ」

 それを言うと、彼の腕が変わっていく。それは巨鳥であった時の腕だった。

「さあ、錆落としには成ってくれよ?」

 おもむろに腕を掲げる彼は楽しそうに笑っている。


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