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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
四章 集合、神獣種 宣戦布告、魔王種
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二十七話 彼女の決意

「・・・・・・・正直言って、私は自分の力を必要なものだと思った事は一度もありません。・・・・・私が生きて行くには邪魔な物でしか無いとも思っています・・・」

 父親から受け継いだとされる毒。この力のせいで彼女は苦しんだ。どんな生物をも溶かせるとされるサマエルの毒をおそらく自分も受け継いだというのは容易に想像出来る。その生で彼女は壁を作らざる終えなかった。何回かの失敗の末、漸く理解出来たこと。本当ならもっと早く気付くべきだったこと。遅すぎるくらいの気付き。だけど気付いたお陰で出来た事もあった。

「ですが私は受け入れます。この体に流れる父の血はけっして毒だけでは無いと。・・・・信じたいから」

 あるとき、胸を押えて苦しんでいる老婆が居た。苦しんでいる人を見たら放っておけないヴィリスは咄嗟に近付いて看病をした。しかし一向に良くならない。だが、献身的に老婆に寄り添った。そのときである。彼女の翼が自動的に展開されて、あろう事か老婆を包み込んだのである。一瞬なにが起ったのか分からなかったが、彼女は焦った。焦った末に、急いで毒のつばさを仕舞おうとした。だが翼は彼女の意思とは反して頑なに展開されたままだった。全く自分の言う事を聞かない翼に焦った彼女はどうにか老婆から剥がそうと頑張った。命令しても、手で剥がそうとしてもその場から動かそうとしてみても駄目だった。幾らやっても駄目だと分かった彼女は絶望した。そして泣き出し、老婆に謝罪しだしたのだ。翼の中がどうなっているのかは分からないが、おそらく毒のつばさに包まれた老婆は命を落とすだろうとおもっていたのだ。また自分のせいで命を奪ってしまうと思い込んでいたヴィリス。だから謝罪の言葉を口にしながらないたのだ。

 数分して、漸く老婆は翼から解放された。泣きじゃくりながらにヴィリスは近付いた。せめて老婆の死体がどうなったのかを確認しようと。それが殺してしまった自分の責任だとおもって。だが、近付いてみて分かった。なんと老婆には息が合ったのだ。そしてその表情は安らかになって、小さく。そして幸せそうに寝息を立てていた。彼女は混乱した。それはもう先程毒のつばさに老婆が包まれた時以上に。そして涙が止まるくらいに。なにが起ったのかが分からずにその場にへたり込んだ。本当に息があるのかを確認するために老婆の口元に手をあてた。確かに老婆には息が合った。それを実感した瞬間に彼女は安堵したのだ。殺してしまった物だとおもっていたのに老婆には息が合った。そしてその寝顔は安らかだった。このとき彼女は気付いたのだ。

「私の力は人を苦しめるだけじゃない。人を癒やすことも出来る。決して蝕むためだけじゃない。それを私は信じたい。証明したい」

 彼女はそこで区切って、徐ろに視線をアダルの方に向ける。ヴィリスとアダルは背線があった。彼女の表情を見たアダルは微笑みながら、頷いた。それを見たヴィリスもまた少し鳴きそうになるのを堪えながら頷き、決意したような表情を作る。

「私は・・・・・。もう私を否定しない。だから・・・・・。力を受け入れます!」

 宣言は高らかに会場に木魂する。しばしの静寂の後、誰かが拍手を始める。最初に誰がそのような事をしたのか、気になったミリヴァは視線で探す。本来宣言の後に拍手する物はいない。それを行なうとすれば外部の者であるはずだと見当して招かれた者達に目を向けたのだ。その相手は直ぐに見つかった。拍手をしているのはアダルであった。彼はこの行事におけるマナーを頭にたたき込んでいる。それなのにそれを行なうのは何か考えが会ってのことだ。招かれた者達の全てがマナーを知っているとは限らない。それを狙ってやっている。だがそれに続く者がいなければ彼はただ恥を掻くだけ。それなのに行なった。ミリヴァはアダルに苦虫をかむ顔をしながら見ていた。彼に続く物は少しの間現れなかった。しかし続く者はいた。なんとアダルから一個空けた席に座っている優男が続いた。それに釣られて次は挟まれた少女が。また反対側の賓客席からも拍手が響きだした。

 遂にそれは竜達にも広がり始めた。おそらくは今回初めて殻割りに参加する若い隆太チオが感化されてしまったのだろう。このままではその若い竜達も恥を掻いてしまう。それをさせないためには自分もやるしか無い。そう思い至ったミリヴァも拍手をし始めた。彼女がやった事で他の竜達もやらなければならない雰囲気に成り、彼女に続いていった。その結果会場の空間が響くくらいの拍手がその場を支配した。ミリヴァはこの原因であるアダルの方に目をやると彼は得意げな表情をしていた。想わず殴りに生きたくなる衝動に襲われたが、実行為るわけにはいかず、ただ、悔しそうに顔を歪めるだけに止めた。その度自然と拍手が鳴り止り始めた。

「・・・・ヴィリス。貴方の覚悟。しかとこの大母竜が受け取りました。その宣言に違わぬように励んでください」

 優しい声で問い掛ける大母竜はおもむろに上を向いた。視線の先には竜玉があった。彼女が見ていた竜玉は今の今まで空中に浮遊していた。しかし大母お竜が掌を広げると、ゆっくりとその手の中に落下した。手の中に収まった竜玉を落とさないように掴み、そこに自分の顔を映し出す大母竜。そしてゆっくりとヴィリスに近付いたのだった。

「これより貴方は成竜へとなります。これを取り込めば、最早これまでと同じとは言えません。後戻りが出来ないのです。それでもこれを受け取りますか?」

 最後の問い掛けだった。彼女の言う通り、受け取ったら元には戻れない。別に竜の姿のままに鳴ると言う事では無い。これまでのようには生きていけないという意味だ。彼女はさらなる毒を手に入れる。それによって他者の目は変わるだろう。今まで人の世界で生きていた彼女にはそれが耐えられない可能性もある。だからこそ大母竜はと問うたのだ。今までの関係を崩してでもこの竜玉を受け入れるのかと。

「・・・・・・はい。私は・・・・・。覚悟がようやくできましたから。これから起るかも知れない事も甘んじて受け入れます。竜玉を受け取って・・・・殻割りをして・・・。それで誰かが救えるのなら・・・。私はそれでいいです!」

「・・・・・・・。良い返答です。ならば受け取りなさい」

 大母竜の言葉に反応して、ヴィリスは両手を体の前に伸ばした。そこに彼女の竜玉が乗せられた。

「・・・・・これが私の。」

「そう・・・・。貴方の竜玉です」

 彼女の手の中にあるヴィリスの竜玉。アメジストをそのまま球状にしたように美しい苦透明感のある紫色をしている。その美しさにヴィリスも想わず見惚れてしまった。

「・・・・・やり方は、分かりますね?」

「っ! は、はい!」

 ずっと見惚れたままで一向に動こうとしなかったヴィリス。それには想わず大母竜も急かす様に促した。そしてそれによってようやく自分が今やるべき事を思い出したヴィリスは一気に体を緊張させる。ここで漸く彼女は実感したのだ。治部は今から殻割りを為るのだと。先程の大母竜の言葉通りこれを入れたら最早元には戻れない。・・・・だが!

「・・・・・私は・・・・決して悔いない。自分で決めたことだから!」

 小さく自分に言い聞かせるように呟くと、彼女は竜玉を胸に押しつけた。虫木と押しつけられた竜玉は胸に拒まれる事無く、すうっと彼女の体内に入り込んだ。おもいの他呆気なく体に入ったことに拍子抜けした彼女だったが次の瞬間、体全体がきしむような痛みに襲われたのだった。

「ぬっ! きっ! ぁああああああああああ!」


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