十八話 会場到着
その後、アダルたちは従者たちに案内されてようやく会場に案内される。会場は当然のことながら祭祀の間であった。だが今日はいつもより明るくなっていたためこの部屋がどのようになっているのかがよくわかる。天井には竜たちの始祖《次元竜 ウルガス》と思われる竜が描かれており、壁にはおそらく歴代元首竜が描かれていた。ここに何回か来たことあるアダルでさえもこれは知らなかったから思わず周りを見渡した。
「そういえば、今日はなんで招待されたんだっけ?」
となりで室内で見渡していたベルティアがふとその疑問を出した。アダルはそれに答えようとため息をついた瞬間。怠惰の男が口を開いた。
「今回は大母竜さんのご息女。ヴィリスさんの殻割りの儀を見届けるために招待されたのですよ」
彼は淡々と説明すると彼女に笑みを向ける。
「・・・・そのうさんくさい笑顔見せるのやめて?」
「おや、これは失敬。ですがこれでもなるべくそうならないようにしたんですが・・」
「顔がうさんくさかったら全部そうなっちゃうじゃん」
彼女の発言に男はわざとらしく凹む仕草をする。
「で、さあ。なんで私たちはそれに参加しなきゃいけないんだろ? おいしいものを食べられそうだから来たけどさ」
そう言うとベルティアは不思議そうに首をかしげる。
「あたしさぁ。別にこれまでその・・・大母竜? さんと面識とかもってなかったの。それなのに突然ここへの招待状が届いたわけのよ。そこには豪華で美味な食事を用意して待っている的なことが書いてあったからすぐにきたの」
案内されるがまま歩いている最中に彼女はここに来た経緯を話しだした。
「・・・・・り、リンちゃんは。この・・・・城が・・・・気になった・・・・から。招待を・・・・受けた。・・・・・リンちゃんも・・・・大竜種と・・・・一切・・・面識・・ない」
ベルティアが行ったことでリンちゃんもそれに答えてくれた。アダルとしてはそうなのか程度で耳にしている。何せ彼はなんとなく。というかほぼ確実に彼らが集められた理由に察しがついているから。
「僕は・・・・・そうですね・・・。元々一部に方とは面識がありましたよ。ただ大母竜さんから招待状が来たときは驚きましたね。何事かと思ってそれを読んだら余計頭が混乱しました。何故僕のような怠け者の存在を知っていたのか。そして何で僕に招待状が送られてきたのか。その中には書かれてなかったので、理由が知りたくてきた感じです」
「へぇ! ねぇ、君は?」
ベルティアがアダルを指名する。彼は少し悩んだ様子を見せて口を開いた。
「俺はな。今回殻割りを受けるヴィリスとは友人なんだよ」
「へぇ!」
「そうなんですか!」
ベルティアと怠惰の男は興味ありげに合いの手を入れた。
「ヴィリスに誘われたんだよ。一緒に来ない?って」
アダルは来た理由をはぐらかした。それにはヴィリスの問題を話さなければならないと判断したためだった。別に全部が嘘というわけではないのだから彼的には罪悪感は全くない。
「別に俺に断る理由もなかったから一緒についてきたんだ。・・・・・・まあそのせいでおまえらより早くここについたんだが・・」
本当はあまり来たくなかったとはいえなかった。それを言ってしまえば過去を詮索されるのがわかっていたから。ほかの者たちだったらわからないが、この怠惰の男とベルティアは確実に聞いてくる。そこでまた説明するのが面倒なためあえてそう言ったのだ。
「じゃあ招待状が来たわけじゃないの?」
「いや、来たぞ? だが多分友人としての招待じゃないと思う。おそらくは必要だから呼んだんじゃないのか?」
アダルがそこまで言うと先を歩いていた従者が止まった。
「ここに並んでお座りください」
彼らが案内されたのは玉座のから少し離れた賓客席であった。そこは周りよりも高く作られており、少しづつ間隔を開けて質のいいいすが並べられて、会場が見渡せるようになっている。ふと反対側に目をやるとそこにもこちらと同じようなものが設置されており、そこにはすでにユギルを含めたほかの者たちが腰を据えていた。
「・・・・・さあ、おかけください」
促されるまま、彼らは各々それに腰掛ける。傲慢の男はさも当然のように豪快に座る。ベルティアはすぐに腰を下ろしてその質感を楽しんでいる。リンちゃんは怯えた様子で警戒しながらゆっくりと座った。怠惰の男も警戒はしているのだろうが比較的早くそこに体を預けた。アダルは警戒する素振りなど見せることなく座ったが、体は預けることなく前で手を結んだ。
「うわぁ! これすごくいい椅子だぁ! これくらい座り心地がいいとすぐに寝ちゃいそう!」
「・・・・・・・。ふっ。確かにそうですね。だけど今日は寝たらだめですよ?」
ベルティアの発言に反応した怠惰の男は彼女を揶揄うようにそれを言う。すると彼女は急に不機嫌になったのか頬を膨らました。
「わかってるよ! そんなのいわれなくたって」
「無駄話はそこまでにしておけ」
低く、重い声で傲慢の男がそう告げる。
「・・・・・・。ええ! なんで? まだ時間じゃないじゃん」
空気を読まずにベルティアが反論する。
「いや、もうあまりしゃべらない方が身のためかもな・・・」
アダルがそう言うと彼女は首をかしげる。しかしすぐに顔つきを険しくなった。
「・・・・ああ、そういう。おっけー。ならしょうがないかー」
やれやれと言いたげに肩をすくめる彼女はおもむろに目線をアダルの方に向けた。
「さすがにあれらとやるのはあたしでも苦労しそうだし・・・」
「まあ、そうだろうな。俺もできればやりたくない」
そう返すとアダルはおもむろに玉座の方に目を向ける。その後ろには世界樹の幹の恥部が露出している。そこがおもむろに開かれた。中からはこの城の主。大母竜が姿を現した。彼女が出現するとこの場にいる者たちが一斉に立ち上がる。それはもちろんアダルたち神獣種たちもだ。
「・・・・皆、楽にするように。まだ今回の式典が始まったわけではありませんから」
彼女の許しをもらい、各々楽な体勢を取り始める。だがその場から喧噪は一切かき消えた。そして一種の緊張感が代わりにこの祭祀の間を支配していったのだ。
「・・・あれが、大母竜さんですか」
「・・・・・・こ、こわい」
「・・・・・・・・」
怠惰の男は少し笑みを浮かべていた。リンちゃんは明らかに怖がっており、傲慢の男は静観している。
「まったく、すごい人だね。ん? 人? この場合は竜って行った方がいいかな?」
おかしなことに悩み出すベルティアにアダルと怠惰の男は返答を返す。
「どっちでもいいんじゃないか?」
「いまは人の形態ですし人でいいんじゃないですか?」
「・・・・そうか! なら今度からそうしよう」
実際自分たちも人ではないのだが。人形態の時はそう言っているなとアダルは内心で思った。
「まあ、すごい人って言うのはわかりますね」
「この会場にいる奴らだったら誰もが感じていることだろうな。それくらいあの人の空気は周りを飲み込むからな・・」
「・・・・・・確かに強き者の雰囲気を纏っているな」
そこでようやく傲慢の男が大母竜について口を開いた。
「おそらくこの我でさえもあの者と戦闘を始めたらただでは済まないな」
「僕も同じですね。というか勝てるかどうかも怪しいところです」
「絶対戦闘にすらならないよ! 一方的にやられるのが目に見えているし。敵にしない方が賢い選択だよね」
「・・・リンちゃんも・・・そう思う」
彼女の空気感を前に四人は大母竜と敵対するつもりはなくなったのだった。まあ、それはアダルも同じではある。だがそれはもしもの時が来なければの話なのだが。




