十四話 推薦
その後三十分ほど時間がたった。その間アダルはというと・・・・。
「ねえ、アダくんってどこから来たの?」
「クリト王国」
「その姿本当の姿じゃないよね。誰をモチーフにしたの?」
「わからない。人化したらこの姿になった」
「どんな力を使えるの?」
「何の能力を使えると思う?」
「彼女はいる?」
「今のところはいない。だが友達はいる」
「何で今回の招待を受けようと思ったの?」
「その友達についてきてほしいって頼まれたから」
といったようにベルティアに質問攻めに遭っていた。それに対してアダルもしかがなく無難に答える。自分の情報があまり漏れないように。彼女が自分の情報を引き出そうとするような質問したときにはあえて茶化すような返しをする。別に能力くらい教えてもいいのではないかとも思うのだが、それは甘い。なにせ彼女は知ってて聞き出しているからだ。先ほど彼女は言っていた。この部屋にいるものたちは噂程度に走っている。つまりはクリト王国から来たことを伝えた時点でベルティアはアダルがクリト王国を救った巨鳥であることを把握しているはずなのだ。それでいて能力についての質問をぶつけてくるのは確認作業でしかない。そんな茶番にはアダルはつきあうつもりはないのだ。
「むう! 意地悪よぉ!」
「・・・・・俺のことを知ってるくせにその質問をしてくる方が意地悪だと俺は思うが?」
すねるベルティアだがアダルは相変わらず無難に答える。その様子をさっきから笑ってみているものがいる。先ほどまで寝ていた男がクスクスと声を殺してずっと笑っているのだ。どうやらベルティアが素っ気なく扱われていることがツボだったらしい。
「何を笑っているのよ!」
彼女は少し涙目にしながら彼をにらむ。先ほどからこのような光景を何回か見た。さすがにもういいのではないかと思う。
「・・・・・・。別に! 笑って・・・・ないよ!」
明らかに小馬鹿にするようにわざと区切って言っていることがうかがえる。その態度にさすがにベルティアも怒りを覚えた様子であり、その身に怒気をまとわせる。
「いい加減笑うのはやめて! じゃないと・・・・。食べちゃうよ?」
食べる発言をして、彼女の怒り具合がわかる。
「ふん・・・・・・。いいな! 食べれるものなら。食べるといい!」
男も挑発するように口を走らせると、その身から膨大なオーラを吹き出す。そのオーラに当てられて臆病少女はさらに身を震わせた。だが気を失ってはいないことから彼女もこれに耐えられると言うことを示唆している。
「その辺にしておけ。我の前でこれ以上騒ぎを起こすでない」
彼らを制したのは扉横にいる男であった。彼は目を閉じながらも厳格そうな渋い声を響かせて彼らを制止させる。その声にはそれをさせるだけの力があったのだ。
「だってこの人が!」
「ふふふっ!」
「やめろと言っているのだ。我の言葉に逆らうというのか?」
怒るベルティアと挑発するように笑う男。態度を改めない二人に対して男は空気を重くさせるような気迫を発する。そこまでされてようやくベルティアは怠惰な彼に対しての怒りを収める。対する挑発をしていた男は今度は自身の放っていたオーラを扉横にいる男に向け出した。
「・・・・我は再三やめよと申したはずだが・・・・」
「そうだねぇ」
怠惰な男は傲慢の男の言葉を聞いてもそれを発し続けている。軽薄な言葉で流すだけである。まるで挑発する相手が変わっただけとでも言いたげに。二人の威圧が室内でぶつかり続ける。空気が震える。なぜ室内の物が壊れていないのかが不思議なくらいだ。
「あっ! あの!」
このまま一触即発か。そう思われたとき。声を上げたのは意外なことに臆病少女だった。彼女は震えながら何かを訴えようと手を上げている。
「だ、誰か。来・・・・・ま・・・す」
彼女の発言に誰もが首をかしげる。そして信憑があるのか確かめるために皆が皆気配を探り始めた。
「・・・・・誰も来る気配はないけど?」
「・・・・うん。僕のも反応ないね」
「・・・・・。ふん!」
三人は彼女の意見を否定するような言葉を口にしてそれをやめた。だがアダルは三人よりも少し長く探り続ける。そして彼も感じた。この部屋に向かい誰かが入ってくる気配を。
「いや、本当に来るみたいだ」
アダルの発言で三人も疑い万分でもう一回探り始めた。
「あれ? 本当だ。さっきはいなかったのに」
「そうだね。不思議なことだ」
「・・・・・。誰が来ようとどうでもいいことではないか」
「はっ! はははっ。そ、そうですよね・・・・」
明らかなる作り笑いであったが、アダルは彼女を擁護しようという気は起きなかった。それよりも彼女に対する警戒を強めてしまったのだ。彼の推測ではこの少女は異常なほど気配察知能力が強い。アダルがその誰かの気配に気づいたのはその者がこの室内に入ってから。それなのに彼女はその者がこの部屋に入ってくる前から気づいていた。つまりは彼女の気配察知をすることができる範囲は広いということを表している事になる。
「誰かきた。おそらくは使用人だろうな。ということは会場の準備ができたのか?」
「そ、そうだと。・・・・・おもい・・ます」
あまりこれまで人と向き合ってこなかったせいなのか、彼女の会話は少しテンポが悪い。まあ、このような人物もいるのだろう。だがだからといって警戒を解く理由にはならない。彼女はベルティアから色欲だと言われた人物だ。もし彼女がベルティアが言ったとおりの人物だったらこれは演技の可能性がある。前世でもいたのだ。清純そうに見えても実は・・・・・ということが。そういう輩の演技力というのは異性から見て案外わからない物である。わかる物がいるとするならば同性かよっぽど嗅覚がいい人物であると言うことになるのだが。・・・・・残念ながら鷹堂明鳥は疎い側の人物だったのだ。だからこそ警戒する。する必要があるのだ。
「で、どうだと思う? ここに来るのは使用人か?」
まあ、イエス以外の回答は来るはずないと思っての質問なのだが。
「・・・・・・。そう・・・なのかな? ・・・違う?・・・かもしれない」
その発言にこの部屋にいる誰もが一気に戦闘態勢に入る。一見するとオーラも放ってない。警戒するそぶりも見せないようにしている。だが明らかに皆が何かが違う。言ってしまえば雰囲気が変わったとしか言い様がない。
「・・・・・たしかに違うかもな。・・・・明らかに殺気を隠しながらこっちにしている」
「敵かなぁ?」
「さあ? ですが僕たちが気にくわない竜かもしれませんよ?」
ベルティアと怠惰の男は楽しげに向かってくる相手に想いをはせる。
「一人で来るって事は相当な自信家か、実力者ってことだと思うが」
「自信家じゃない? だって明らかに殺気隠せてないからさ」
確かにベルティアの言ったとおり実力者だったらこんなに遠くから察知しても殺気を押しこめられるだろう。だが近づいてくる者は押さえ切れてない。
「・・・・・はあ。・・・面倒だな、こいつ」
「同意しますよ。式典を前に汗をかかせようなんて。いやな相手ですね」
「アダくんはそういうこと言ってんじゃないと思うけど。まあいいや。それで?」
誰が行くのというのは言わずともわかった。
「・・・・・・ここは能力がばれている俺が行った方がいいよな」
「別に僕はかまいませんよ? このような弱者を相手にするのは面倒なので」
「あたしも構わないよ! それにあたしが言ったら手加減できないし!」
二人の賛成もあり、アダルはため息をつきながら外に出ようと扉に向かう。だがドアノブに手を空けようとしたそのときにその横にいた男に腕を捕まれる。
「・・・・俺が行くって事で話がついたはずだが?」
「我はその話し合いには参加しておらぬ。だからそれに従う気はない」
そう言うと彼は掴んでいるのと反対の手である者を指した。
「おまえが行け。それが一番適任だ」
彼が指した相手。それはここに敵対者が来ると一番最初に気づいた臆病少女だった。




