十三話 少女の名前
指されたアダルは緊張しながら彼女の言葉を待った。
「・・・・・・・・んんーーん」
だが悩むような仕草をしたことで彼女でも分からないのだなと言うことを悟ってその緊張を解いた。
「別に無理して決めなくていい。そもそも性格や性質がそうだからと言って俺たちへ別にその罪を背負っているって事にはならないだろ?」
そう。これはあくまで仮説の話なのだ。そもそも七つの大罪にはそれぞれを司る悪魔が居る。もし神獣種が本当にその罪を背負っているのだとしたら自分たちは悪魔。またはそれに似た存在だと言っているようなものなのだ。明確な敵が悪魔種、ひいては魔王種というのが分かっているのだからその罪はあっちの方がふさわしいのではないかという考えもできる。もしかしたらそっちの意見の方が彼的にはしっくりくるのだ。
「そうかな? 案外的を射ているんじゃない? あなたの意見は」
だが何か確信めいた物を感じたのか彼女はアダルの言ったことには否定的だ。
「それとも、何か否定する材料があるの?」
その言葉にアダルは悩む。其れは言うべきなのか。それとも言わざるべきなのか。
「・・・・・・・。いや、別にないが。そもそもこの意見は単に俺が思っただけだ。そこまで信用する必要はないんじゃないのか?」
アダルは言わないことにした。別に言ってもいい。はずの内容をだ。それでも彼は言わなかった。そこには彼なりの考えがあったから。
そもそもの話。アダル的には先ほどの発言通り、この話にはあまり食いついて欲しくないのだ。悪魔種が司る物であるはずの大罪が自分たちのモチーフになっている可能性が出てきて彼は少し種おっ下ったのだ。悪魔種と対抗するためと言うのならば七つの美徳のほうがモチーフにしやすいだろうに。
「・・・・そうかもね。だけどあたしはさ、どうもあなたが言ったことが正解な気がするんだよね」
「根拠は?」
「ない!」
彼女の返答にアダルは溜息を吐いた。
「まあ、ないだろうとは思ってたさ」
話を聞いただけで根拠なんてあるはずもない。ましてや考える素振りも見せてないのだからこの質問は意地悪過ぎたなと発言後に反省する。
「まあ、強いて言うならそうあって欲しいからかな?」
彼女の言葉にアダルは頭上に?マークが出現して首をかしげて呆ける。
「はっ? 何で?」
「だってかっこいいじゃん! あたしたちはその罪を司れるって! なんか分からないけどさ! こう言うのってロマンだと思わない?」
罪をかっこいいと思った。確かに言葉的にはそうかもしれない。いやそうだろう言葉だけだったらかっこいい。アダルもその感性は分かるつもりだ。だが実際にそれを司るかもしれないと言われてもそう言い切れるのはすごいと思ってしまう。なにせそのような性格だと思われてもいいと言ってるのと同じだから。アダルは自分が実際にそんなことを言われたらどう思うのかを考えてみたが素直にいやだった。
「・・・・・あんたくらいだ。暴食っていわれて喜んでいるのは」
「そうかな? かっこよくない? 何でも食べられるかもしれないって能力的に強いと思うけど!」
「・・・・・・まあ強いだろうな。実際に食べるかは別として」
今の発言。というか今までの発言からして彼は確信した。彼女は間違いなく壊れているなと。思い返せばもし説明しなかった時は食べようとした。ということを言ったということは今までもそのような脅しを何回かしてきたことになる。そしてその態度は本気だったことから今まで敵対してきたものたちを食べてきたのだろうというのが考えられた。そして今の発言である。暴食を何でも食べられると解釈する時点ですこしおかしいし、その上で気づかれてはいけないことを気づかせてしまったのではないかと彼は少し不安に思った。
「かっこいいと思うかは別として。・・・・・周りを見てみろよ。変な目で見られているぞ?」
アダルが促すと彼女は周りを見渡す。彼の言うとおり腫れ物を触るような目を向けられていた。それは彼女だけではなくアダルもなのだが。
「はははっ! そんな視線なれてるから気にしませーん! それに変な目で見られているのはあなたも同じでしょ?」
「・・・・・・・。まあ、そのくらいは気づいてるさ。だが残念ながら俺もなれているからな。というかこの程度じゃ逆に全然意識しないぞ?」
言葉のカウンターを返されたアダルは少し向きになっているように見せるように言い返す。話題を明らかにそらすために。
「ははっ! 面白いことを言うんだね! うん! うん、気に入ったぁ!」
アダルの返答がよっぽど愉快だったのか少女はない胸を張る。
「そんな面白いあなたにはあたしの名前を教えてあげる!」
突然の宣言にその場の空気が固まった。皆がこの少女に対して警戒をし始めたのだ。
「・・・・・。いいのか? そんな大事なこと。ここで言っても」
なるべく警戒していることが悟られないように言うと彼女はうなずく。
「別にいいよ! というかいままで自己紹介もせずにごめんね? あたしはベルティアっていうの。よろしくね!」
何の警戒もせずに彼女はその場で自身の名前をさらした。それはつまり、その場にいる全員に名前をさらしたことになる。
「もう! あたしは名前教えたのにあなたは教えてくれないの?」
少し怒ったように頬を膨らませるベルティア。そんな彼女に少し困惑した様子でアダルは訪ねた。
「いや、別にいいんだが・・・・。俺の名前を言う前に一つ聞きたいことがある」
それに対してベルティアは今さっきまで怒っていたのを忘れたかのごとく素直に「いいよ! 素直に何でも答えるよー」と軽い感じに返してきた。その対応にもアダルは困惑するのだが、それよりも聞きたいこと聞くことにした。
「あんた。・・・いや、ベルティアは今ここにいるほかの連中と面識はあったのか?」
「いや、全然! 今日初めて会ったかな? まあ面識はないだけでここにいる人たちは有名人だったからね。噂程度には認識しているよ? あっ! 名前は知らないけどね?」
快活に答えてくれるベルティアの言葉からは嘘を感じられない。おそらく彼女の言うとおり噂程度の面識なのだろう。
「そうか。・・・・名乗らずに質問してしまってすまないな。俺はアダルという」
「アダル・・・・・・。じゃあアダくんだね!」
名前を答えたら変な呼び名で帰ってきた。
「・・・・アダ・・・・くん?」
彼女のあだ名にアダルは呆然とするしかない。
「そう! アダくん! あなたはアダルって名前だからアダくん!」
満面の笑みを浮かべていることから全く悪意なく言っているのだと言うことはわかる。
「ん? 何か変だった?」
「・・・・・いやぁ・・・・・」
「明らかに変だよ! それ!」
そう言って笑い出したものが存在する。声からして男。おそらく先ほどまで寝ていた彼だろうと思いながらその方向に目をやると案の定彼だった。
「はははははっ! アダルだからアダくんって! 安直過ぎでしょ。そこまで言ったんだったら最後のルまでつけないと! 可哀想すぎだよ! ルが!」
腹を抱えて笑い続ける彼に習うように臆病そうな少女も吹き出してしまう。
「ええ! そんなにひどいかな? あたし的には結構いけてるって思ってるんだけど!」
「いやっ、全然悪いよ! あだ名のセンスなさ過ぎ!」
そう言って彼は再び笑う。そんな彼に不服そうな表情を浮かべながらベルティアは近づいていく
「・・・・・・何なんだ? こいつら」
「・・・・・はあ・・・。全くだ」
彼の言葉に応えるかのように扉横にいた男が小さく呟いた。おそらく自分にしか聞こえないように小さく言ったつもりだったのだろうがアダルには聞こえた。声に反応して彼の方に目をやると明らかにあきれた様子でこちらを伺っていたのだった。




