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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
四章 集合、神獣種 宣戦布告、魔王種
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六話 前世の顛末

 結局その後、天梨を信奉していた集団は解散された。彼女が学校。そして警察に届け出を出したのだ。学校側は別にこの程度問題にはならないだろうと踏んでいた。普通のいじめだと。その証拠もないから、真剣には取り合ってくれなかった。しかしいじめとしての証拠はあった。それは王来が撮影していた明鳥への集団リンチ映像。これはネットにばらまかれた。もちろん明鳥の顔にはモザイクがされた。しかし加害者側には全くその処理がされていない。当然のごとく世間はこれに食いつく。すぐに加害者側の者たちが特定された。警察も動かずにはいられなかった。これは明らかなに暴行罪。あるいは殺人未遂とも見れるほどひどいものだった。学校側もこれにはさすがの重い腰を上げた。校長、教頭。それに明鳥の担任が謝罪会見を行う。なお、これは公にはなっていないが、今回明鳥に私怨を抱き、リンチをしていた者たちの主犯格は県議会委員の息子だった。ほかにも地元では有名企業の役職をもつ親を持った子息たちもそこに多く名を連ねていた。私立の有名校だったこともあってこの学校にはそのような者達がたくさんいた。学校側がなかなか腰を上げなかったのは下手にその者たちを注意できなかったからである。この騒動で校長は退任し、加害者たちも退学に追い込まれた。その後も天梨への報復もあり得た。しかしそれはなかった。きちんと王来が対応してくれたおかげだった。明鳥もそれを手伝おうとしたのだが、さすがに王来に止められた。なにせ今回彼が負った傷はそこまで酷くなかったものの、しばらく入院する羽目となった。入院するほどでもないのだが、彼の両親がこれ以上暴れないように無理やり入院させたのだ。

 天梨はしばらく自分をかまってくれた明鳥にお礼を言えずにいた。そのために入院先の病院にお見舞いに行った。そこできちんと謝罪とお礼を言おうと。しかしそこを王来に先回りされた。病院であった王来は彼女にこういったのだ。『明鳥はきっとお前が動いたことを知らない。だからそのことは伝えないように。そして謝罪などは決して言うな』と。何故問おうと彼は答えた。『明鳥はお前を巻き込まないように一人で乗り込んだんだ。お前を巻き込んだと知ったらあいつはきっと悲しむだろう』と。何を勝手なことを。とも思った。だけどそもそもは天梨が生んだ火種。それを自分に降りかからないようにした明鳥に失礼になると彼は言った。この騒動を完全に収束させた王来が。彼がそういうのならそうなのだろうと彼女は受け入れた。心にしこりを残して。結局天梨は明鳥の見舞いには行ったがお礼の言葉を言えなかった。そんな自分が嫌になったが、彼のためだと思い言えなかった。

 その後も退院した彼と接する機会は何回もあった。明鳥の席が前だからかよくわからないところを教えてもらっていた。そんな時間が楽しかった。このような時間が続けばいいとも思っていたのだ。しかしその時間は案外すぐ終わった。転生するきっかけとなった事故。あの時も近くの席にいた明鳥は天梨を守るようにかばった。それだけでは死ぬことはなかったが、彼は大けがをした。歩けないほどに。その後同級生たちはどうにか逃げようと試みて、半分は脱出できたのであろう。だが彼女はかたくなに脱出しなかった。どうにか明鳥を外に出そうと試みた。王来も手伝ってくれていた。ほかにも彼と親交があったもの達は手伝ってくれた。だけどその行為は間に合わなかった。脱出する寸前。そのバスは突如として大爆発を起こした。爆発に巻き込まれた車内にいたもの達はもちろん即死。息があるもの達も爆発によって動けなくなって焼死。あるいは一酸化炭素中毒による窒息死となった。天梨は窒息死。彼女は死ぬ間際。こう思ったのだ。あの時のことを謝ればよかったと。

 このまま人生はおわった。そう思っていた。だが、彼女の運命はまた明鳥と交わった。この世界の王来。フラウドに呼び出された時は何事かと思った。この世界で再会してからというものあまりあちらから接触してこなかったからだ。もちろん最近世間を騒がせている巨大獣の襲撃の件は把握していた。たぶんその件で呼び出されたのだろうと思って彼女はその要請に応じた。離宮に案内されてフラウドと誰かがいるのはわかった。タイミングの悪い時に来ちゃったなと反省し、一応訪問の挨拶だけして奥に行こうとも考えた。後でまた挨拶し直せばいいだけなのだから。だけど彼はヴィリスに気づくと読んだ。これはいかないとさすがにまずいと感じ、仕方なく近づいていった。そして彼女はそこで出会った。この世界で。前世謝れなかった。そして恋心を抱いていた存在に。

『お前、天梨か!』

 その声は瞬時に誰のものかわかった。だがなぜか頭は混乱して彼女はたどたどしく返事をしてしまった。何故か彼はヴィリスとの再会をとても喜んでくれた。そのことが彼女はとてもうれしかった。だからこそその日に自分が何者なのか。どのようなことを指摘田んぼかを話した。離した瞬間彼女は後悔する。なんでわざと嫌われかねないことを言ってしまったのだろうと。だげ、アダルは前世と変わらない優しさで受け止めた。それによって彼女の中である決心がついた。今度はアダルの助けになれるような存在になろうと。

 それが最初のきっかけだった。その後戦うたびに傷を負っていくアダルの姿。それが前世と重なる。決意したはずなのに全く役に立っていない現状が彼女はいやだった。だからこそ・・・・。

「・・・・私は・・・・・・。私も・・・・・戦いたい!」

 過去を振り返り、導き出した答え。それは単純かもしれない。だが彼女からしたらとても重大な決断となる。

「もうこれ以上。誰かにばかり押しつけるだけなんてこと。私にはできない。私は私ができることを全うしたい!」

 傷ついて帰ってくるアダルの姿を毎回見て、その思いがどんどん強くなる。だからこそ今回の帰還要請に応じ、殻割りを受けることにしたのだから。

「・・・・・。確かに私には殻割りを受ける権利なんてないかもしれない。・・・・だけど!」

 過去への贖罪。殺してしまった兄姉たちへの負の感情はもちろんある。だがそれだけに縛られる期間はとっくに終了していい。

「私は・・・・・。強くなりたい! 強くなって・・・・。あの人と一緒に戦いたい!」

 強い決意によって紡がれたその宣言は部屋に響く。

「そうだ・・・。そうだった。私は覚悟を決めてここに来たんだ。それなのに決意が揺らいじゃった。それが一番失礼なことなのに・・・・」

「そうね。あなたは罪を犯したのかもしれない。この事実だけは生き続けるならば背負わなければならないこと。だけどそれだけのために生きる事はないの。ヴィリスはね、命を奪ってしまった兄姉たちの分まで生き抜く義務があるのよ?」

 彼女の背後に回ったミリヴァはヴィリスに言い聞かせる。正直言って彼女はヴィリスにここまで言わせるのは誰かというのはわかっていない。だが、ヴィリスがここまで良いことをいう相手に嫉妬している。だが、これ以上は愛する妹の前で嫉妬に狂う等な惨めな姿を見せるわけにはいかない。だからこそ言葉にしながら必死に心を落ち着かせている。それを知らずにヴィリスは彼女の言葉がようやく響いたのかゆっくりと。それでいてしみじみとうなずいた。

「ありがとう。ここまで駄目で対応に困るような事ばっかり言うような私を支えてくれて」

 ヴィリスの笑みがミリヴァに向けられる。その瞬間に彼女の心の中の渦巻く負の感情が浄化されていく感覚があった。

「別に良いのよ! 妹支えるのも姉たるわたくしの使命なのだから」


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