五十一話 爆散
巨人の体から腕を抜き出したアダルは何かを持ったまま後退する。その目線は巨人から離さずに。
『ギュッ・・・・・・・ンンンぅ!』
体を貫かれた上に何かを取り出された巨人の体は満身創痍。今にも倒れそうなほど衰弱しており、体が揺れていた。
『やっとみつけたぞ。俺はこれを探していたんだ』
彼が巨人の体から持ち出していったのは。いびつな星形の形をした臓器。それは巨人の体から離れていてもまだ鼓動を打っていた。
『これがおまえの核であり、心臓。といってもこれ一つだけじゃないだろうが・・・』
そういうとアダルは巨人から目を離し、手に持った心臓に目をやる。鼓動を続ける心臓。だがその鼓動も徐々に弱まっている。
『まあ血液を巡らすところがなければただただ弱るだけか。っていうか。まさか腹部にその一つがあるとは思わなかったが・・・』
最初に違和感に気づいたのは腹部を貫いたとき。そのときに何か自主的に動く何かを感じ取った。最初は腸か何かだと思ったが、それにしては小さすぎた。胃である可能性もあったがそれを捨てた。試しに触ってみると巨人はあからさまに反応を示してみた。その段階ではアダルもそれが心臓だったとは思ってはいなかった。それが心臓だというのがわかったのは抜き出したときだった。多少人と形状が違うがすぐにそれが心臓だというのが確信が持てた。
『巨体故にこの形状じゃないと全身に巡らせられないという訳か・・・』
つぶやきながらその視線を巨人に向ける。巨人はあろう事かその場で下半身の力がなくなったかのようにへたり込んだ。どうにか立ち上がろうとするが、力が入らないため阿智上がれなかった。きっと今抜き取った心臓は下半身に血液を巡らせる役割を持っていたのだろうと考えると心臓があった箇所にも納得がいった。
『そして心臓をとったっていうのにおまえが未だ生きている。それだけで複数心臓を持っていると考えるのは簡単だ。だがまあ・・・・っ!』
力を込めて握りつぶすと心臓の中に入っていた血液が四方八方に飛び散った。
『これでおまえは当分動けないよな』
何事も絶対はない。たぶんしばらくしたら下半身にも地が巡るであろう。だがその前に出血死する可能性の方が明らかに高いのだが。
『おまえの血が有害の可能性があるからな。そのまま流させ続けるつもりはないぞ・・・』
そうはいったもののアダルは巨人の血にどくか何かが仕込まれているとは考えていなかった。それは前回戦った時にたくさん巨人の血を浴びたからだ。確かに多少は体に影響があったのだろうがそれも有害になる程度ではない。ただもしかしたらこの巨人の血がほかの奴らに利用され、新たな問題になる可能性を考えて吐いた。現にアダルは自分でつぶしまき散らした巨人の血をすぐさま焼却、蒸発させて一切その形跡を残さなかった。
『そうなってくると蒸発させるのが早い。まあ、それはおまえを倒した後でもできるがな』
これから何かを始めるのか。それともこの戦い事態を終わらせに来ているのか。どちらかは判断がつかない巨人。アダルの考えはそのどちらもだった。
『実はさっき心臓を引き抜く時に変わりのものを置いてきたんだ。何かわかるか?』
問われてもわからない。答えられない。思考がまとまらない。彼を支配する痛みはそれらを許さない。いつまでこの痛みとつきあっていかなければならないのかと考えるだけで気がおかしくなりそうだ。もはや気が狂っているはずなのにそれが作動しない。思考自体が正常なものになってきているのを巨人は気がついていない。だからこそそのようなことを考えれるのだ。
『わかるわけがないか。それを言う義理もないし。だが・・・・。あと少しでわかるぞ。その身をもって俺がおまえの中に何をおいてきたのか・・・』
伝えるアダルに巨人は痛みを紛らわせるために歯茎を見せるようににらむ。そのときに気づいた。自分の中から何か音が聞こえることに。「ちちちちちち!」と無機物のせかされているような音。聞こえ始めると何かせかされるような気持ち担った巨人はとたんに焦り出す。それが何かなど巨人にはとうていわからない。だけどこのままだと自身のみが危ないというのは察せられた。出血によるものじゃなく、彼が体に残したという何かによって。
『おっ! 気付いたか。まあそのためにわざと音が鳴るようにしたんだが』
気付かせるためだけに音を鳴らす。そのようなことも可能なのかと巨人は考える。知能などないに等しいが、戦ってみて彼が得意とする戦い方があるのはわかっていた。それが自分には効かないことも。だからこそアダルは慣れない戦い方をしている。そのことも巨人は理解している。だけど音も使えるというのは予想外もいいとこだった。彼の戦闘スタイルは光または火炎系。そこには一切音というものが扱える要素などないはずだ。なのになぜアダルは音も扱える事ができるのか不思議でならない。だけど今更そんなことは気にしていられない。そんなことを考える暇があったなら体内に仕込まれた何かを取り出す方がいいに決まっている。そのような思考のこと巨人は自身の腹に手を突っ込んでアダルに仕込まれた何かを取り出すことにした。
『ははっ! 勇気あるな、おまえ。自分に腹の中に手を突っ込むとか。俺だって無理だわ』
アダルはその様子を見て笑った。言葉では勇気ある行動とたたえているが、本音は違う。彼は明らかに巨人の行動を馬鹿にしていた。
『まあ、そんなことしても意味はないがな』
その後の言葉は言わなかった。何が意味がないのかなど巨人自身がすぐに気がついたから。
『ぐん? !!!!!!!!』
必死では腹内を弄る巨人。しかしお目当てのものは見つからない。それどころか捜索のたびに臓器に触れるために、余計に痛い。
『おまえにわからないようにするために大きさは小さくしてある。だからおまえの手で探ることはできないんだよ』
あざ笑うようにそう告げる。だが巨人はその言葉を聞けなかった。彼の生命力自体がもはや枯渇寸前。つまりは限界を迎えようとしている。腹部を貫かれたため出血は止まらない。心臓も一つつぶされた。それに加えてその傷口を余計に痛めているのは巨人自身。救いようがないのだ。
『だがおまえをこのままの状態で死なすわけじゃない。苦しんで意識を失っていくのは嫌だろう・・・・。だからな』
そう言うと彼は不意に腕を突き出し親指と中指をくっつけた手を見せてくる。
『一瞬で終わらせてやるよ』
つぶやいた後に彼は指を鳴らす。しかしその音は聞こえなかった。それよりも大きな爆発が起こり、指を鳴らした音を飲み込んだのだ。
『・・・・・・』
亜樽は爆発が発生した箇所。つまりは巨人がいた場所に空虚な目を向ける。彼が巨人の中に仕込んでいたのは爆弾。それも圧縮した爆弾だった。それっが爆発したときに元に戻ろうとする力を利用して火力を上げた代物。それをもろに受けた巨人の体は爆発した瞬間に四散。いや、言葉通り爆散した。
『・・・・やっと終わったな』
嘆息をこぼしつつ空を見上げた彼は何かが落ちてくるのを確認する。動体視力が高い彼は落ちてくるのがなにを確認するとそれをキャッチした。
『ギュっ! ナァン・・・・・・ムゥ!』
何かうめき声のようなものは発するそれは巨人の頭部だった。それを見下ろした亜樽は思わず笑ってしまう。
『しぶといな。これもようやく適応できたのか?』
吐き捨てた言葉に返事など要求していなかった彼は巨人の顔面にもう一方の手をかざした。
『だがもうこれで終わりだ』
それは今まで一切巨人に使用してこなかった光線技。それでとどめを刺すことが彼なりの嫌がらせであり、敬意だった。光を浴びせられた頭部はうめき声をあげながらもむなしくすべて灰となっていった。
『これで終了。ああ。疲れた』
病み上がりで戦うものじゃないなと独りごちると彼はその体を収縮させていったのだった。




