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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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五十話 上空から。背後から

 消えているのに声だけが巨人の耳に響いた。そのことがさらに巨人を混乱させる。確かに捕まえたはずだった。確かにとらえたはずだったのだ。しかし捕まえていた両腕は力なく緩んでいる。それに加えて声まで聞こえる。自分が戦っていた存在が化け物だということは理解していたが、まさか幻影のたぐい。あるいはまさしく自分の主である悪魔種と同じような存在だったのではないかと思考が巡った。

『別に俺は大したことしてないだろ』

 消えている状況が大したことではないと言い張るのはアダルらしいのかもしれない。だが肝心の巨人からしたらそれはとても重要なことであった。巨人は今心から恐怖しているのだ。このまま消えられた状態でどこから攻撃が来るのかもわからずに殺されてしまうのではないかと。その感性は人と同じように作られているためもし同じような状況に人尾があったなら巨人と同じ恐怖を抱くであろう。それはアダルも同じであった。だからこそこのように消えて、不安を煽るようにこのような方法をとっているのだ。

『そう警戒すんなよ。卑怯度でいったら俺とおまえ。どっちもあまり変わらないだろ』

 一見そう思わせるような主張が始める。しかしそれは単純にあまたの悪い巨人だからこそだまされる内容であって、卑怯の度合いでいったらアダルの消えている方が高いのである。その事実に気づかない巨人は納得したように小さく息を吐く。だからといってその不安が消えるわけでもないのだが。

『それとな。おまえの考えているようなことを俺がすると思うのか? そんな卑怯なまねをするわけないだろ』

 快活に主張するアダルの声を聞き、巨人は一瞬心地蔵になった。しかしすぐに冷静になる。何せそう言っているのは敵対しているもだ。その言葉を信じていいものかとなぜか冷静に思考できた。心の安定を保つためだったら彼のいっていることを信じた方が安心できる。しかしそれを優先するのは何か決定的な間違いない気がしてならなかった。結局巨人はアダルの主張を信じることなく、警戒し始めた。

『・・・・・。そこまで馬鹿じゃなかったのは残念だ。まあ信じる訳ないよな。こんないつまでも姿を消しているようなやつの主張を』

 自重気味に笑うアダルだが、その声からは若干の苛立ちを感じられた。彼からしてみればここで信じてくれた方が後に楽できるという考えがあったから。

『まあいいか。こっちからしてみればやっとおまえを倒せる状況を作り出せたわけだからな』

 意味ありげにつぶやく彼はおもむろにその姿を現した。彼が現れたのは巨人の真上。姿をさらしたアダルに少しの間気づかなかったが、気配を感じ取ったのか真上にいることを見つけた。アダルを見つけたときの巨人の表情はまるで忌々しいものを見つけたときのような苦が虫をかみつぶした表情をしていた。

『さすがに遅えよ。こっちの準備が整ったタイミングでようやく見つけるのは』

 彼の手の上には巨大な炎球が乗っかっていた。それをどうするのかを想像するのは簡単だった。何せ先ほどと不意打ちとはいえそれを食らっていのだから。同じ手を繰り返すのは彼らしくない。それももう巨人にダメージを負わせることができない攻撃を仕掛けるなど。

『これをおまえの考えている通りにすると思うのか?』

 問いかけられても答えない巨人は先ほどの表情のまままた両腕を伸ばした。それを投げられる前にアダルの拘束。または炎球を払いのけるために。

『・・・・・。おまえ決め手に欠けるな』

 つぶやくアダルは炎球を投げつける。巨人は先ほど考えたとおりそれを払いのけて彼を拘束しようとした。不思議と炎球は軽く、熱さも感じられなかった。そのため歓待に払えることができたのだ。思いの外あっけないと感じながらも巨人はその腕で再び彼を拘束しようと伸ばした。そのときである。巨人の腹部に強烈な痛みが走ったのは。

『っ! ・・・・・・ぐふっ!』

 その痛みの後、何かを吐き気を催す。それしたがって地面に向けはき出すとそれは巨人自身の血液。つまりは巨人は吐血したのだ。

『ギュ・・・・・ラアァァァ』

 力なくうめきながら痛みを感じた腹部に目をむける。その光景に巨人は目を張った。なんと自身の腹部は背後から貫かれていたのだ。それも見覚えのある黄金の鱗に包まれた左手によって。

『さすがにここまでだまされるとは思わなかったな。おまえがまだ気配察知を完全に習得していなくてよかったと思うぜ』

 背後から聞こえるのはその腕の主。アダルだった。声を聞いた瞬間に巨人は硬直と同時に戦慄した。何せアダルは今上空にいるはずなのだ。先ほど攻撃を仕掛けてきた相手がその直後に自身の背後にいたのだ。そんなはずがないと言い聞かせているが、その思考は痛みによって現実に引き戻される。

『・・・・・・・・ギュン・・・・ラァ?!』

 痛みによって歪んでいるが不思議で仕方がないという顔をアダルに向ける。

『別に不思議がることはねえよ。おまえはただ単に俺の手の中で踊っていただけなんだから。何が起こっているのかわからないのは仕方がないことだからな』

 微笑の含んだ声はまるで巨人を馬鹿にしているようにも感じ取れる言い回しだった。しかし肝心の巨人にはそんなことは伝わっていない。今になって貫かれている腹部の激痛が全身に走っている。つまり痛みによって言語能力が低下したのだ。巨人の様子を観察しているアダルは当然のごとくそのことには気づいている。しかし彼は一切優しさを向けることなく話し始める。

『まあ簡単な話だ。おまえが俺の本体だと思っていた上空の俺の姿だが。あれは炎球で写していた映像。つまりはおまえが見ていたのはただの幻だったわけだ』

 彼の主張通りその幻は出現と同時に炎の球体を手に持っていた。陽炎や蜃気楼の要領で空気を熱することで歪ませていかにも彼が持っていりような演出をした。その動きは地上で透明になって巨人の背後にいた彼の動きと連動しているためその動きは本物であるため全くの幻を見せたわけではない。炎球も消えているときにわからないように打ち上げていたものでそれをしばらく上空に滞空させていた。

『後は投げる動作をして見せるのと同時に炎球の操作を手放す。それによっておまえは空にいる俺の鏡像が投げたように見えたって訳だ』

 それだけのことを考えるのは一瞬ではできなかった。それなりに時間を使った。それにこの仕組みをするのにも苦労があった。まず巨人が消えたアダルを捕そくする術を持っていたとしたらこの企てはその時点でおじゃんだ。それに加えて巨人が彼の思い通りに動くとも限らない。その点に関しては可能性は低いことだったが、それでも不安要素の一つだったことには違いない。何せアダルはいくら頭が回るとはいえ、天才ではないため完全に巨人の動きを予想するなどは不可能なのだから。

『感謝するぜ。俺の手はず通りに動いてくれて。実はこれ賭けだったんだよ。だがおまえはこうして動いてくれた。そして致命的な隙を俺に見せてくれた。戦闘時生物が一番油断するのは勝利を確信したときだ。だから俺はそれを狙った』

 今の巨人の体は一部を除いて一切の防御の術を失った体になっている。つまりはどこを攻めても致命傷になる。弱点ばかりだ。

『俺はおまえに感謝しているんだぞ? この前戦ったやつみたいに再生能力が備わっていないことを』

 思い出すのは軟体獣との戦闘のこと。あのときは再生能力によって攻めきれなかったことを思い出して苦笑いが出てくる。

『じゃ、この戦闘もそろそろ終わりにするか・・・』

 そう言うとアダルは巨人の体から腕を引き抜いて何かを取り出した。


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