四十七話 悪役
巨人にも勝るほどの巨体になったアダル。どうにか構えを取る事には成功したが、これ以上動けないで居た。原因は分かっている。いきなり巨大になったため体重操作ができていないのだ。現に今はほんの僅かでも動いたら姿勢を崩して倒れると分かってる。その瞬間を巨人に狙われたらアダルは勝機を失うことになる。だからこそ必死で体重操作を会得しているのだ。そのためアダルの構えは一見為ると隙だらけというのがわかる。だけど巨人は攻めようとはしない。自分から動こうすらしていないのだ。それはなぜか。未だに巨人と同じ大きさになったアダルに困惑しているのもあるが、それ以上に今まで侮っていた相手が。取るに足らない虫程度にしか思って居なかった存在が放つ本気の威圧に身を縮こませてしまったのだ。今までもアダルの威圧は感じてはいたのだが、それは小さい物から放たれていたからそれ程気にはならなかった。しかし今は同じ大きさ。その大きさから放たれるいあつ。存在感。殺気。その全てをもっていて巨人は本能で悟った。目の前の存在は虫ではなかった。そもそも勝てる相手かも分からない不気味な存在だと。思考の苦手な巨人は少し考えれば目の前の相手が虫で有るはずが無いと思い至った。何せ自身をどこか分からない狭苦しい空間に閉じ込めていたのは目の前の存在出会ったことを思い出す。解放された瞬間。閉じ込められた事の八つ当たりをしていた相手はアダルしかしない。周りには他にいなかった。と言う事は彼こそ自身を閉じ込めていた存在なのだと言う事に考えが到った。そんな相手が全身から威圧を放っている。巨人からしたら同じ大きさになっただけでも脅威なのに、それでいてそのような物を混じりっけ無しに向けてくる存在。アダルを前に攻めてはいけないと直感で分かった。
『~~~~』
唸ってはみたが、それは虚勢だ。本心からしたら逃げ出したい。しかしアダルがそれを許してはクレナイ。彼の放っている雰囲気はここで倒すという意気込みが伝わってくる。
『唸ってないで、さっさとこいよ。じゃないと』
そう言うとアダルはゆっくりと構えを変える。重心移動に慣れた為か漸く動かすことが出来たのだろう。
『こっちから行くぞ』
翼を羽ばたかせ巨人へ一直線へ飛翔する。拳を構えると、直ぐに繰り出す。速い動きでそれをするアダル。しかしこの攻撃は不発に終った。攻撃が効かなかったわけじゃ無い。単に避けられたのだ。巨人はアダルの拳が当る直前に上に飛んだ。背中にあるずっと飾りだと思って居た翼を使って。その事実にアダルは悔しそうに舌打ちをする。
『それ使えたのかよ』
アダルの様子を観察するように見ていた巨人はおもむろにある方向に目を向けるとそこ目がけて飛んだ。
『逃がすかよ!』
アダルも巨人を追いかけるように飛翔する。速度的にはアダルの方が早かったため直ぐに追い抜き、巨人の行く先を通せんぼする。それでも巨人は速度を緩めずに飛翔する。まるでアダルのことなど見えていないように突っ込んでくる。
『ぐっ! こいつ!』
通せんぼしていたアダルと巨人は真っ向から衝突した。その際にアダルはなんとか巨人の動きを止めようと試みた。しかし巨人の重量はアダルの物よりも重かったのだ。それに加えて速度も出ていたために止める事は叶わなかった。衝突の際の勢いによって彼は力むために準備していた肺の空気をはき出してしまい、全身の力が抜けてしまった。幸い巨人の進行方向に居続けることは出来たが、このままではただ吹き飛ばされるのは目に見えている。
アダルはこのままでは不味いと考えて作戦を変えた。巨人からこの飛行能力を奪おうと考えたのだ。ただの素のためにはまずはこの体勢から抜け出す必要がある。そこでアダルは仕掛けた。左の足を大きく後ろの伸ばしそれを巨人の胸部目がけて振り抜いた。そこはアダル自身が溶かした部分。つまりは中身の肉が剥き出しの部分。
『~~~~~~~~~!!!!』
そこを攻撃したことで巨人は痛みのあまり絶叫し、目を泳がせながら停止する。
『漸く止まったか!』
地面と平行になるよう空中で蹲っている巨人。アダルは胸に入っているう歯を抜くとその体勢のまま回転し、今度はその足の踵を巨人の頭に叩きつける。体全体は鋼鉄の硬度の肌をもっているが、頭部は筋肉が剥き出しになっている。そのため体と比べると比較的ダメージは通りやすかった。その証拠に今まで胸を押えていたが、今度はそれに加え頭も抑えている。小さくうなり声も上げている事からそれなりのダメージを与えることは出来たであろう。しかし油断は出来ない。何せ巨人は今まで痛みを知らずに育ってきた。だからこそ大げさに叫んでいるのだと上がるは考える。厄介なのは巨人が痛みになれたとき。そのときから巨人はより厄介な存在になるとアダルは想定している。だからこそそうなる前に彼は倒したいのだ。だけど無闇には攻められないのも事実。巨人には光線技が効かない。だからといって打撃に頼っていたらその分痛みに慣れる速度を上げてしまうだけ。この後の攻めはとても難しい物なのである。
『光の攻撃が駄目。打撃も駄目。じゃあ如何するかって話しか・・・・・。なら弱点を突くしか無いよな』
巨人の弱点は判明している。作ったのもあるが、その他に行える事が出来る弱点が。
『そまあ、慣れたら慣れたで良いしな』
何か企むように呟くとアダルは自身の四肢に光を集める。普段だったらその状態で光線を仕掛けるのだが、効かない相手なのだから工夫をしなければ成らない。アダルの四肢は白熱化しているのだが、その光は徐々に弱まる。すると纏われていた四肢は色を変えて青くなり、白煙が周りに纏われていた。
『ふんっ!』
変化した右の拳を蹲っている巨人の肩甲骨辺りに叩き付ける。当った瞬間肌は瞬時に融解し、衝撃は体内を駆け巡る。
『ギュオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!』
ここで初めて巨人は発声再現可能な悲鳴を上げた。その声は空気を揺らしたが、その程度じゃアダルは怯まない。アダルは巨人の肩に両手で触れて体勢を立て直させる。光熱を放っているそれによって方の部分も焼焦げていく。だがそこで攻撃は終らない。なんとアダルは胸に肘鉄を入れる。それを何度も当然の如く肘も光熱を放って離ウノだ。剥き出しの肉からは焼け焦げたにおいが発生し出す。
そんな自分の姿を客観的に見ることが出来た彼の感想だが。まるで悪役レスラーのような戦い方だなとアダルは自己分析をする。反則技のような物を何度も繰り返し使用して、確実に相手にダメージを与える。ただ違うのは自分は悪役ではないと言うのはのは確信して反論できる。何せ相手は世界征服しようとする者の手先。つまりは確固たる悪の手先だ。今倒さないと確実に世界に害を成す存在。そのような相手に手加減するなどと言う優しさはアダルは持ち合わせていない。確実に巨人の動きを止めるまでこの反則まがいの猛攻を止めるつもりは彼にはないのだ。
『まだまだこの程度じゃ無いぞ!』
肉が露出している胸部アダルは今度は水平チョップを何回も繰り出す。それによって行なう度に巨人の体内まで焼いていき、より深くダメージを与えていく。
『ぎゅあ・・・・・ギャアムゥゥゥ!!!』
反撃しようと拳を突き出す巨人だが、その攻撃を寸でのところで避けたアダルは今の反撃の際に出来た隙を見逃すこと無く突く。それによって巨人は空中姿勢を崩し、飛ぶのも危うくなって、地上に落ちていった。




