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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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四十三話 先生

 アダルが目を覚ましてから一週間ほど経ったその日。アダルはいつもいるヴァールの屋敷ではない場所にいた。

「・・・・・・・はあっ」

 珍しく緊張した面立ちをしている彼は目の前にある大扉の前で深呼吸を繰り返す。どうにか自分の緊張を紛らわすようにという意図で行なわれていたがまったく効果が現れようとはしない。

「・・・・・・・仕方ないよな・・・・」

 自分が行なった事に効果が無いと早々に察した彼はため息を吐くと意を決したよう表情を浮かべると大扉をノックする。三回鳴らし、少しの時間が経過すると大扉は自動で開いていった。

「失礼します・・・」

 扉が開いた時点で招かれたのだと解釈して小さく呟きながら中に入る。中は洞窟の中のように岩肌が露出した広い空間が拡がっており、所々に照明のつもりなのか日が灯されて居る。しかしそれだけでは明らかにこの広い空間全体を照らすには明かりが足りないため全体的に暗くなっている。

「・・・・・」

 アダルはその中を迷うこと無く足を進める。まるでかつてここに来たことがあるのかのような足取りで進む。しばらく進むと行く先に小さな光が見えた。それがなんなのか視力の良い彼には見える。謎の力で浮かび人の大きさくらいの大きさの水晶玉だ。それが見えたことで彼は少し歩むスピードを上げてそれに近付いていく。

「久しぶりです」

 水晶玉の前で立ち止まった彼は浮かぶ水晶に向けてそう言放った。

「久しぶりですね。ええ本当に・・・」

 声は帰ってきた。しかしそれは水晶玉からではなくその向こう側から。ゆっくりとした足取りで純白の修道服を着た女性が現れた。突然姿が暗闇から現れるものだからアダルも思わず驚き息を飲んだ。

「久しぶりですね。私の教え子よ」

 無表情で放たれるその言葉からは威圧が籠もっている。本人は多分無意識でやっているのだろうが、その言葉だけで大抵の者達はそれに耐えられずに衝動的に頭を下げる。アダルも当然反射的に頭を下げようとしていた事に気付くとそれになんとか抗うと、その顔に笑みを浮かべる。

「お変わりなくて安心しました。先生」

「・・・・・・私の事を先生と呼ぶのは貴方くらいですよ。それに前にも言いましたよね。私の事は名前で呼んでくださいと」

 無表情かつ無感情な声質でさらにそれに威圧が含まれていると来た。彼女が放った言葉だけで分かる。自分はまだこの絶対的強者を倒すどころか傷すら負わせることが出来ないのだと。

「いや、俺先生の名前知らないから。それに俺が先生って呼ぶのは貴方を尊敬しているからですよ」

 彼女の前に立つとなぜかクチが軽くなる。本能がそうさせている。

「そんなはずが無いでしょう。私は前回貴方に私の真名を伝えましたから」

「前にも言ったと思いますけどきこえなかったんですよ!」

 彼としても本当の事を言っているのに彼女はそれを信じてくれない。アダルは決して嘘を言うとは思っておらず、挙動も反応を示していない。確かに彼女が言ったとおり、真名も伝えられたのだろう。だけどそれが何か雑音に邪魔されて聞こえなかったのは事実なのだ。

「・・・・・・まあ、そうですよね。私が幾ら真名を伝えたところでそれが聞こえる個体などこの世界でも数えるくらいしかいませんから。仕方がありません」

「何がしたいんですか。遊んでいるんですか?」

「遊んでいますよ。久しぶりに教え子に会えたのですから遊ばないと損じゃ無いですか」

 大母竜の意外な茶目っ気に触れたアダルは疲れた様に肩を落とす。ここに来るまで緊張していたのが馬鹿じゃないかと内心で呟く。

「改めて久しぶりですね。虹翼をもつ鳥人よ。今はアダルと名乗っているそうですがそちらで呼びますか? それとも私が名付けた方で呼びますか?」

「どっちでも良いですよ。でもできればアダルの方で呼んでください。俺結構この名前で呼ばれるのが気に入っているんで」

 アダルの主張に彼女はそうですかと帰すがその返事はどこか悲しそうだった。たぶんこの反応も彼女からしたら遊びなのだろうと考えながらもほんの僅かに自分の考えた方の名前を気に入ってないと思い込み落ち込んでいるのではないかと思ってしまう。

「まあ私的にはどちらでも構わないのですが。貴方の望む方で呼ぶとしましょう」

 望むのところが強く強調されたのは彼女なりの意趣返しか何かであろう。

「そうしてください。出来ればこの城の中で先生が考えた方では呼んで欲しくないですから」

「あらどうして?」

 不思議そうに首をかしげる大母竜。その反応にアダルは疲れた様に肩を落とす。

「そういうのはいいです。というか言わせないでくださいよ。ただでさえ俺はこの城で嫌われているのに余計嫌われるようなのを名付けたからですよ」

 ため息を吐きながら吐いた主張に彼女も納得してくれた。

「そうですね。そうだった。私も貴方が嫌われてしまう要因の一つでした。反省しないとですね」

「明らかに嫌われると分かっててあの名前を俺に授けようとしましたよね」

 そんなわけ無いじゃないですかと返すが、明らかに意図的だと言う事が分かる。ここでアダルの名誉のため言っておくが、彼はその名前を授かってはいない。彼からしてもこれ以上大竜種との関係を悪化させたくないのだ。

「良いと思ったのですが・・・・。我が種族の英雄の名前ですよ?」

「それを名乗っているのがどこが生まれかも何の種族かも分からない奴っていうのが駄目ですよ。しかも俺は大竜種全体に喧嘩を売ったようなもんですし。他の奴等にこれ以上白い目で見られるのは勘弁ですよ」

 アダルの言葉に彼女は少し考え込んだ後にそうですねと納得してくれた様子だ。

「さて、アダルよ。今回は私の招集に応じてれたこと。感謝しています。招いたからには最高のおもてなしをと言うのが私のポリシーです。しかしここでは些か貴方に満足なおもてなしをする事が出来ませんから場所を変える事を許してください」

そう言うと彼女は目の前にある水晶玉の上に右手をのせる。瞬間。大母竜とアダルは転移させられる。今まで薄暗い洞窟の中のような空間から周りが花畑の庭園に移動した様子だ。

「どうやら貴方はこの城に来てから調子を崩していたようですし。ここなら太陽の光が近いですから回復にも役立つことでしょうし」

 ご配慮に感謝しますと軽く頭を下げるアダル。病み上がりと言う事を配慮してくれたからここを用意してくれたのであろう。まあ彼としてはそれは嬉しいことである。しかし実際問題彼の体調は完全に整っている。最早切り札である光神兵器が使用できるくらいには回復している。しかし彼としてもこれからは無闇に光神兵器の使用は控えようと考えていた。星の意志から聞いた話ではあれは自分を壊すような技なのだという。確かに使用後は極度の疲労感に襲われるし、免疫力も低下して風邪を拗らせたような症状になる。それに星の意志は自分は今以上にも強くなれる可能性があるのだという。実際はそんな言い方ではなく全ては自分次第としか言わなかった。しかし打ち止めとは言わなかったことから自分はまだ強くなれる可能性があるのだとポジティブな方に言葉を受け取る事にした。

「いつまでもそんなところで頭を下げていないで私に付いてきてください」

 どうやら少し思考に更け過ぎた様子で気がつけば大母竜は先に進んでいた。アダルは彼女の言葉で正気に戻ると早歩きで彼女に追いつこうと足を進めた。

「なにを考えていたんですか?」

「これからどうやって自分を強化していこうかって事ですよ」

「私だけ先に行かせてまで考えていた事がそれですか・・・・・。相変わらず自分の事には積極的ですね」

 大母竜の放ったそれは完全なる呆れの言葉である。しかしそこからは変わらないですねと言う風なニュアンスも含まれていた。

「先生も全然替わってないですよ?」

「それは私が停滞しているって言う皮肉ですか?」

「なんでそんな捻れたとらえ方をするんですか。俺が先生にそんな事思うわけが無いのは分かってて言ってますよね」


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