四十二話 情報の取捨選択
黒い穴に吸い込まれた後気を失っていたアダルは意識が浮上している感覚に襲われる。次第にまぶしくなり、それに耐えきれずに目を開けるとそこは彼が宛がわれた部屋で会った。
『・・・・・・・』
一度周りに目をやって誰もいないことを確認為るとゆっくりと上体を起こす。その際に体の彼方此方が固まっている事に気付かされて、その部位を軽く回していく。
『そういえばこのまま寝たんだったな・・・・・・』
自分が元の鳥の姿のまま眠りについたことにそこで気付き、体を発光させて人間の姿にもなった。
「うぅーん! よく寝た気がするな。疲れも倦怠感もないし、体内もなにも異常はないな」
自分の体の様子を確かめてみると今まであった疲労感や熱といったものが一切感じられなかった。むしろ今までそのような感覚に本当に襲われていたのかとすら思えるほどに体の調子は完全に整っていた。
「あいつが治してくれたのか? そうだったら感謝しかないが」
頭に思い浮かんだのは星の意志と名乗った人影。軽薄な印象を受けたが根は優しさに溢れていると感じた者だった。その者の発言を見ていても傷ついた彼を修復したなどと言う発言もしていたことからアダルの不調を治してくれたのはその者だったことが窺える。
「って、あれは夢だったのかよ。と言う事は本当かどうか妖しくなってきたな・・・・」
ふとそんな考えに到ってしまったが、直ぐにその可能性はないなとそれを否定する。
「本当に夢だったんならただ寝ただけで体が回復しているにはおかしいしな」
今まで幾ら寝ようとまったく回復する兆しを見せなかったのに今回はきちんと回復した。それはアダルが本来の姿で回復に専念したというのもあるだろうが、決してそれだけではないというのは分かる。
「俺はあの空間で星の意志と話していた。その記憶はちゃんとある。俺の経験上記憶がはっきりしている夢はただの夢じゃないからな。俺は本当にあそこに招かれたんだろうな・・・」
今にして思えば凄い事だったことが分かる。何せ自分はこの星そのものと話したことになるのだから。
「まあ、知りたくなかったこともあったが。まあいいかって思えることでもないな、あれは・・・・」
知りたくなかったこと。主に自分たちは前世でその世界の星の意志によって殺されてしまったこと。あれはさすが驚いたし、思わず頭に血が上り衝動的に動いてしまった。
「さすがに自制が効かなかったのは悪かったな。この話だけは誰にも言えないよな・・・・」
ため息しながら思い浮かんだのはこの世界で前世の記憶をもった者達の事。
「これは俺だけの問題じゃないからもうなにも言えないな・・・・・」
アダル的にも確かに思うところはある。それはそうだろう。なにせ間違いで殺されたのだ。だけどあの時同じ場所で死んだ同級生達のことを考えるとなぜか抑えが効かなくなる。
「はあ。意味も無く・・・・はないが。あいつに言っても仕方が無いよな。言ってしまえば2度目の人生・・・・といえるかどうかは分からないがこの世界で生きる切っ掛けをくれたのはあいつなんだし・・・」
言いたい事は言えたからここではあえてそれを避けた。
「そういえば他にもいる俺と同じような奴等もあの時に一緒に死んだ同級生なんだよな・・・・」
一部の者はこの世界で普通に転生したが、順番的に後に転生した者達はアダルと同じく魔王種に対抗為る為に生み出された体に魂を埋め込まれた者となっている。その中にはアダルの他にもヴィリスやリヴァトーンが含まれていた。
「あいつは一体。誰の魂が入り込んでいるんだ?」
リヴァトーンのように好戦的な性格をした者が前世にいたのかが気になった彼は少し記憶を探ってみる。
「喧嘩っ早いやつ・・・・・・。いたか?」
記憶を探ってみてもそのような輩がいたとは思えなかった。少なくとも鷹堂明鳥からみたクラスメイトは。
「・・・・・。前世の記憶が無いんだ。性格が変わっていてもおかしく無いか」
そう結論付けるとアダルはその場で再び伸びをして寝台から降り立つ。その際に久しぶりに立上がることから上手く足に力が入らずによろけた。幸い転ぶ事は無かったがそれでもそれによって自分が寝ていたのが僅かでも足の筋力が衰える位相当な時間だったのだとながいのだと実感させられた。
「・・・・・・・そういえばフラウド。同級生のほとんどを見つけたって言ってたよな・・・」
思い出されるのはこの世界で初めて出会った前世からの中の友。親友と言える関係の彼が言っていたことが引っかかった。
「星の意志の話しでは転生を果たしたほとんどの奴等が記憶を無くしているって話しだったが。あいつは一体どうやって記憶の無い元クラスメイトを見つけたんだ?」
その考えに思い至るのも不思議な事ではない。記憶が無いのならそれがあるものと言う条件が使えなくなり、探す難易度は格段に上がる。実際アダルが旅をしていたとき。まだ人化の術を使えないながらもなんとか探そうと試みたのだが、その条件に当てはまる者なんていなかった。星の意志の話を聞いた時にも思って居たのだが、図分は随分と無謀な旅をしていたのだなと頭が痛くなってくる。
「まあ、幾つか思いつくことはあるんだが。あいつはきっと聞いても話してはくれないだろうな。多分俺の考えた方法も使ってないだろうしな。あいつ昔から隠すのは上手いからな」
そこまで考えてこれ以上は考えても仕方ないと諦めた。アダルはフラウドが自分より遥かに頭の良いと言う事を知っている。そんな彼が本気で隠し事をしているのなら、いくら親友だとしても明かしてくれるような奴じゃない。隠し事があることすら隠すであろう。頭の良い彼の事だ。そのための備えというものにも取りかかるであろう。隠蔽工作をされたら幾ら彼でもそれを一つも明かすことは出来ない。それなのにその方法を考えてしまったアダル自分の性が嫌になり、反省した。
「・・・・・・・まずは俺がどのくらい寝たのかを確認からだな。それによって巨人対策がどのくらい進んだのかが変わってくる。それから星の意志が俺に伝えた情報をフラウドにも伝えないとな。・・・・・・あの情報は伏せといた方が良いだろう。後多分聞いても答えてくれないだろうが一応どうやって転生者を見つけたのかも聞いておくか」
最後の質問には応えないことは最早分かっている。だけどなぜ自分がこの様な疑問を抱いたのかフラウドならそれを疑問に思う。そこで星の意志という存在鋸とを教えて、そこから得た情報をフラウドに伝える。最後の方に星の意志が記憶が残っているのは自分たちだけだと言っていたことを伝えればもしかしたら話してくれるかも知れないという僅かな可能性をアダルは想定した。
「まあ、言わないだろうな。・・・・・・・ん?」
体の向きを室内の方に映して、窓枠に体を預けながら独り言ちていると枕元にバスケットが置かれていることに気付く。
「誰かが見舞いに来たのか・・・・・。ヴァール以外の奴だったら俺の姿に驚いていたかもな・・・・」
その光景が目に浮かぶ。その姿を見たら逃げ出す奴もいるかも知れないと自嘲気味に言葉を溢しながら彼はバスケットに近付く。中に入っていたのは主に今が旬なのであろうフルーツ。その中のリンゴに似たフルーツを手に取るとなぜか自然と笑みがこぼれた。
「そういえば前世でも。入院した時にこういうの貰ったよな・・・・」
瞬時にその記憶が再生されると同時にある疑問が頭を掛ける。
「っていうかこの世界でもこういう文化有るのか?」
リンゴを見ながら首をかしげるアダルは再びバスケットに目をやるとその疑問は解消された。バスケットの中にはフルーツの他に便箋が入っており、そこには日本語で明鳥くんへと書かれていた。
「お前かよ。ヴィリス」




