四十一話 興味を引かれる存在
星の意志は簡単そうに巨人を倒せと口にする。それにはさすがにアダルも反応に困った。
『退治って。そう簡単できないぞ?』
『そんなわけ無いじゃないか。君のポテンシャルは巨人のものとは比較できないほど強いんだから』
否定的なことを言っても彼は折れずにそう主張してくる。何か根拠があるのか不思議に思ったアダル。どのような根拠があってそう主張しているのか不思議に思っていたら星の意志は自分からそれを口にしてくれた。
『君は簡単じゃないって言うけどさ。あの木偶の坊を倒すことは言ってしまえば誰でも出来るよ。方法は教えないけどね。まあ君が不利な相手って言うのは否定出来ないけど。それでも君ほど与えられた存在じゃないのは確かで、君の方が能力的にも知識的にも上だ。君は自分の力が通じないと分かると攻撃の仕方を変える柔軟な頭をもっている。それを上手く使えばあの木偶の坊なんて君の切り札を使うまでもなく倒せるよ』
どうやら巨人の能力などはきちんと理解した上でそう言っていたようだった。それでも尚買ってくれているのか自分なら出来ると言ってくる。そこまで言われたら気が悪くなるはずもなく、内心ではほんの少し嬉々とした感情がうごめいた。
『と言うわけだ。言いたい事は言えたし、今日は帰って良いよ? ほら君の体の不調の方も治したし』
急におざなりになる星の意志はその指を鳴らす。すると突如アダルの背後に真っ黒い穴が現れてそこに吸い込こまれるように風が発生する。その風は最初アダルを外すように二方向から吹き付けていた。そのため彼からしたらただのに方向からの風だった。しかし次第にそれは標準を定めたかのように吹き付けていき、最終的にはアダルは二つの突風に晒されていた。普段のアダルであっても思わず後退ってしまうほどの突風。今の体ではそれに耐えきれるはずもなく彼は少しずつ風に負けていく。歯を食いしばってなんとか堪えようと試みるが、それは直ぐに無理だと悟った。だから最後に聞きたい事を口にした。
『最後に質問がある! あんたは俺たちはあっちの星の意志によって殺されたと言った! だったら他にいる俺と同じ奴等は俺と同じであの時。バスの事故で死んだのか!』
『ああ・・・・・・。うんそうだね。彼らのほとんどは君と同じ時に死んだ者達だよ。あっ!もしかしてほかの者達に前世の記憶が有るかどうか知りたいのかい? たしかに君が会った中であの海人種の少年は記憶をもっていなかったことが気になったんだろう』
まさに星の意志が言ったとおりアダルはそのことが気になった。リヴァトーンからは前世がある的な話を聞かなかったからだ。
『まあ記憶をもって転生するほうが難しいからね。言っちゃうと君たち四人が記憶をもっている方が僕としては不思議なんだよ』
四人と言った。つまりは自分を含めてフラウド、ヴィリス。そして今は離宮の食堂で給仕をしているユリハのみと言う事になる。
『それで質問は終わりかい? じゃあ今回はここまでって事で。次は多分その内近いうちにでもここに呼ぶよ。今度は君の友達も連れてね』
じゃあねと手を振る星の意志。それに合わせて穴は吸引力を上げたのかアダルでも耐えきれないほどの風が襲いかかってくる。それにはさすがに踏ん張っても耐えきれずに彼は無情にも穴に吸い込まれた。完全に中に入ったアダルはそこで意識を失う。最後に見たのは口だけが満面の笑みで笑う星の意志の手を振る姿だった。その姿があまりにもむかついたことだけは決して忘れる者かと心に決めて彼は意識を手放した。
一方吸い込まれていくアダルの姿を見ていた星の意志は徐ろに穴を閉じて溜息を吐いてその場に座り込む。
『はあ、久しぶりに君以外と話したけれど。彼は面白いね』
座り込んだ星の意志はその身に纏っている影をはがし始める。そこから出て来たのは人形を思わせる整った顔をもつ小柄で中性的な容姿をしている。そんな彼或いは彼女が話かけた言葉は独り言ではなく明らかに誰かに対して言っているものだった。
『ははっ! そうか。其方から見ても我が半身は面白く見れたか』
突如としてその場に前触れもなく現れたのはアダルからスコダティと呼ばれる彼だった。彼は現れるやいなや愉快げに笑い上げる。
『まあ、彼が面白いっていうのは前から知っていたけど。間近で接してみて余計に興味が引かれたよ。そして僕は思ってしまった。彼を選んで良かったってね』
層言うと星の意志は指を鳴らして映写機の映像を変えた。それはいままでアダルが地上で行なってきた行動が全て映しだされていた。かつて自分と同じような前世の記憶を持つ者を探す旅に出たところから。最近では巨人に攻撃を仕掛けているところまでの全てが。
『正直言ってあんまり期待はしないなかったんだ。無理やり転生させてって押しつけられたものだったし。だけど彼は短時間で自分の膨大な力を暴走もさせずに制御して仕舞った。その際に自分の能力の特性もきちんと理解している。普段もだけど基本的に彼の知能指数は高い方だね。理解力と推察力が高いのが言い証拠だ。それを戦闘に邪魔することなく組み込んでいる。正直言って何であっちの世界の平和な国にいたのかが不思議なくらい戦い向きな人物だよ』
『ははっ! そこまで高評価とは。さすがは我が半身だな』
スコダティは星の意志の言葉を素直に喜んでいる。それはもう我が身のことのように。それは不思議な事であった。アダルからしたら彼はまさに諸悪の根源と言って良い存在。そんな彼がアダルを褒められて喜んでいるなど普段だったら想像出来ないのだ。
『急だったけどご免ね。いきなりここに連れてきてっていうのはさすがに迷惑だったね』
『いや、それについては我も思うことはないのだ。我が半身は度重なる戦闘で体を痛めていた。それを治すためにはいずれにしても一度あの体から抜け出させる手筈だったからそこまで苦労というものは被っていないのだ』
軽口を叩いたスコダティの発言から見るにどうやら彼がこの空間にアダルを放り込んだようだった。
『そう。ならいいや。それにしてもさ。いい加減彼の事を我が半身って言うのは止めたらどうだい? その発言から君の素性が魔王種達にバレちゃうよ?』
『そのことだったら問題は無い。なにせ今の我は全魔皇帝によって助けられた者という扱いだからな。その者が裏切れるはずがないとあやつらは思って居るようだ。狂信者という者は厄介ではあるがそこは扱いやすいから助かるな。まあ我がなぜ全魔皇帝の下に属しているのか警戒している者はいるが。それもさして支障にはならぬだろう』
『そうなんだ。まあ今後もバレないように気をつけてね』
そのようなヘマはしないと最後にそう付け加えるスコダティもアダルの映像に目をやった。丁度自分とアダルが最後に直接対決をしたところだった。見事に彼に技を直撃して、何かそれっぽいことを言って爆散する自分の姿。これを見て彼は愉快そうに笑う。
『まったく。悪趣味だね。弟みたいな存在の彼を騙して無いが愉しんだか』
『まあそういうな。我はこういう性格だというのは最初から分かっていただろう。それでもお前は我を選び、好きにしろと言ったのだ。今更そのような小言は受け付けないぞ?』
スコダティがした悪戯が成功したような表情は少し幼く見えた。その顔を見た星の意志も思わず吹き出してしまう。
『そうだったね。まあ、僕が言ったことを守ってくれて嬉しいよ。それに毎回こっちの意を汲んで行動してくれているのも感謝している』
『それはそうであろう。なにせお前はこの世界での親のような存在だ。普段好き勝手やらさせて貰っているのだから少しは親孝行というものをやらなければな。前世では行えなかったそれを』
照れずに真っ直ぐな顔つきで放ったその言葉に星の意志は少し驚きながらも直ぐに彼に微笑む。
『助かるよ。王来君』




