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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第一章 暴嵐の猪王
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十六話 質問

 会議場を出たアダルは周りに誰もいないこと確認し、徐ろに壁に体を預けた。

「一向に話が進まない報告会をただ聞かされるのがこんなにつらいとは思わなかった」

 弱々しく呟やかれたその声からアダルはそれなりに疲労している事が分かる。アダルは今の状態はこれでも結構な体力の持ち主だと自負している。しかしそれでも疲労は明らかに溜まっている。別にただ立っているのが辛かったわけではない。普段の彼ならその程度の行為造作でもなく、それを続けるのならば何年も出来てしまう。空だって四十時間は無休で飛び続けられる。何だったら光との同化も難なくやってのける。戦闘は昔何回かやった事があり、それなりに体力を削る大技を何回も続けて繰り出せる。戦闘の後も疲労を感じることがなかった。そんな彼が疲労を感じた。人間体になったことが原因かと彼も考えたがそれはすぐに否定した。なぜなら彼はこの王都の岐路の中。あの村に着くまで一睡もしていない。それでも疲労は全く無かった。そこを考えて、アダルはある考えに至った。

「やっぱり精神的な物なのか」

 そこに行き着くと、徐ろに溜息を吐いた。

「あんなに王族は纏まりが無いのにこの国は良くやっていける」

 答えが帰ってくるはずのない言葉をアダルは疲れた吐息を交えながら吐いた。

「それがこの国のやり方であります故」

 しかしその答えは返ってきた。アダルは咄嗟に壁に預けていた体を立て直し、警戒態勢で声の会った方向に鋭い目線を向ける。

「申し訳ありません。盗み聞きをするつもりはなかったのですが、アダル様の声が聞こえてしまい、不躾ながら回答いたした次第です」

 そこにいたのはアダルをこの会議場に案内した白髪の執事長。コールド・フラムであった。

 彼は反省した顔つきでアダルに頭を下げてきた。

「先程は騙すように会議場に案内をしてしまし、申し訳ありませんでした。しかし私はこの城の執事長を申せ遣っております故、国王の指示に従うしかなかったのです。先程の盗み聞きの件と言い、重ね重ね大変申し訳ありませんでした」

 彼の口から紡がれる謝罪の言葉。これを耳にしてアダルはそこでやっと警戒を解いた。

「まあ、それはいいけど。幾つか質問をして良いか?」

 気を休めるために、肩を上下に動かしながらアダルはコールドにそれを訪ねた。すると、彼はゆっくりと頭を上げ、笑みを浮かべながら口を開いた。

「失礼ながらアダル様。この後、どこかに行かれる予定などはありますでしょうか?」

 その質問にアダルは一瞬呆けた顔をしたが、すぐに返した。

「いや、特になにもないから離宮に戻ろうかと思っていた」

 それを聞くと、コールドは「それは良かった」と口にして、胸に手を当てた。

「それでは離宮まで、私が先導させていただきます。質問などはその際にお申しください」

 コールドは「それでは参りましょう」と口にすると徐ろに先導を始めた。アダルは別に文句などはなかったため、それに従い、彼の後を追った。






「もういいか? 質問しても」

 静寂のまま、しばらく足を進めたところでアダルはようやく口を開く。その言葉に対してコールドはただ、微笑みで返した。それを了承と受け取ったアダルは言葉を続けた。

「聞きたい事はいくつかある。まず一つ目だ。さっきの報告会。あれは国営会議とかわらないものだろ? それなら何故、貴族達が参加しない。この国には貴族がいないのか?」

 紡がれる言葉がコールドの耳に届く。彼は先導しながら優しい口調でアダルの質問に答える。

「その通りでございます。この国には貴族は存在しないのです」

 その言葉を耳にして、アダルの体に驚愕が走った。それと同時に疑問が浮かんできた。それを察したコ-ルドは続けて口を開く。

「『貴族がいなかったらどうやって国地をまとめ上げるのか?』とお考えでしょう。それは問題無いのです」

 彼はこちらの心配させないように穏やかな口調で答えた。思わずアダルは「問題無い?」と怪訝そうな顔つきでいうと。彼はこういう。

「この国の土地は全てが王族所有地ということになっております。実際全ての土地は王族が管理しております。ですから貴族などは必要無いのです。ですが王族達はそれぞれ管理している土地を自身の領としておりますので、その点で言えば他国の貴族と変わりはありませんが」

 最後に毒を吐いたように見える。しかしそのことは気にせずアダルは納得したように頷いた。

「だから報告会で貴族の姿を見なかったのか。そもそも貴族など必要ないと」

「そういうことであります」

 そこでアダルはある事に気付いた。

「ということはあの場にいた王族達はみんなが自分の管理する土地があると?」

「必ずしもそういうわけではありません。あの報告会は国営会議と同じ物です。ですから成人を迎えた王族は参加出来るのです」

「だけどユギルは参加していたぞ? あいつの年齢は知らないが成人は迎えてなかったろ?」

「ユギル様は現王のご子息。つまりは王子であります故参加出来るのであります」

 そういうことかとアダルの疑問は晴れた。しかし新たな疑問があ浮かび上がった。

「王族達が領を管理するんだろ? それが問題になったことは無いのか? 例えばその領を管理する王族が悪政を働いた場合はどうするんだ? それこそ国民は王族に逆らえないだろ?」

「なかなか良い点をお突きに成られますね?」

 アダルの言葉に彼は困ったような顔になった。しかしすぐにその返答を返してくる。

「その点では心配いりません。王族達の持つ領は全てが国王直属の軍隊の監視下にあります。国王L直属の軍隊には王族達を処罰する権限があります。もし先程アダル様が仰ったような事になれば、その軍隊がその領に向かい、王族達に注意を促します」

「もしその注意を無視したら?」

 恐る恐る聞いたその言葉がコールドの足を止めさせる。彼はゆっくりと振り返ると、アダルに向って先程と変わらない笑みを向けてくる。

「ご想像にお任せいたします」

 その笑みにアダルは一瞬肩を竦めた。これ以上はこの話を掘り下げるのは良くないと感じたアダルは次の質問をする。

「二つ目の質問だ。この国では王族以外が権力を持つことは難しいのか? 王族ばかり優遇されている気が為るんだが」

「いえ、そういうわけではありません」

 彼はこちらの答えに答えながら、ある方向に目を向けた。アダルはそれに釣られるようにその方向に目を向ける。そこには大理石のような白石の建物がいくつもあった。

「あれらは全部国務員の働く役所です」

「国務員? 役人みたいなものか?」

 アダルの言葉に彼は頷き、口を開いた。

「そのような物です。あそこにある白石の建物には国民から募った優秀な者達が働いております」

 変わらぬ笑みを浮かべながら喋るコールド。

「他にも軍や騎士団などは国民から構成されております」

「大臣もあそこから出ているのか?」

 アダルがそれをいうと彼は何故か悲しそうに目尻を下げる。

「王族方には決して任せられない仕事ですので・・・」

 その悲哀のある口調でその言葉は発せられた。それにはアダルも「何かあったのか」と聞き返した。彼は「最初にお恥ずかしい話で申し訳ありません」と口にして事の詳細を語ってくれた。

「前王の頃の話です。その時はまだ王族方が大臣をなさっておりました。しかしその時の財務大臣を遣っていたお方は何というか。とても素行の悪い方でありまして、国が運営する為に使うお金を横領して、私的に使っていたのです。それも少しの額ではなく、運営費の三分の一を消費する程の額でした。それを

しった前王は激しく怒り、その方を直属の軍隊に捕らえさせ、その者を処刑いたしました。そこで前王はある事をお決めに成られました。『今後は王族達には私的流用されるため、重要な役職には就けない』 それ以降王族の方が大臣所か国軍元帥や総騎士団長になった御方は一度たりとも存在いたしません」

 どこか悲しそうに語った話を聞いて、アダルは溜息を吐いた。それが聞こえたコールドは慌てたように言葉を紡いだ。

「申し訳ありません。つまらない話をしてしまいました。さあ、参りましょうか」

 そう言うと、彼はまた先導を始めた。しかしアダルはすぐについていくことはなく、少しの間その場で考え込んでいた。

「アダル様? 参られないのですか?」

「ああ、行くよ。悪かったな」

「いえいえ、消してそのような事は・・」

 アダルは急ぎ足でコールドの後を追った。

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