四十話 ずるい者
『君たちの魂を押しつけられた時は正直困ったよ。どの種族に転生させようかとか。纏まって同じ種族にするのは止めようとか。いろいろね。だけどそこで考え方を変えたんだ。別に態々既存の種族に転生させなくても言いじゃないかってね。丁度魔王種に対抗為る為に新しい種族を作らなきゃいけないときだったんだ。そこで僕は魔が差しちゃったんだ。この魂を僕の作った体に入れては如何だろうってね』
悪びれた様子もなく喋る。反省はしているのだろうが最早過去の事だと切り捨てているような口調に如何しても思えて仕方が無い。だがここで口を出しても話しが止まってその分の時間が無駄になるだけだったのは明白だったから一切の口出しはしなかった。ただ顔ではそうもいかないらしく、思って居たより正直に行動していた。
『まあ、そうなるよね。言ったら君は被害者だ。そう思うのは仕方が無い。言い訳はしないよ。僕の行なった事は明らかなる悪だ。悪の権化と言われる悪魔種より悪い事をしている自覚はあるよ。何せ僕は君たちを兵器にしてしまったんだからね。普通に転生していたら決して自分の能力に怯えることのなかったのに僕がその運命を変えてしまった。その前には前の世界の意志に殺されてしまっている。所詮僕たちが出来るのは穏やかに過ごしている者達からそれを奪うことしか出来ないんだ』
己の行動を悲観している星の意志はそこで息を吐く。
『怒るのは当然だ。それくらいの事をやってきたしね。それでも君がその力が無ければ救えなかった命があることは事実だよね』
『・・・・・・。そうだな。だから別にあんた等をどうこう思って居るわけじゃない。ただ聞きたいんだ。どうしてあいつが。ヴィリスが。天梨が選ばれてしまったのかを』
その質問には星の意志は首をかしげた。
『さっきの話を聞いていれば分かると思うんだけど・・・・』
「その口から聞きたいんだ」
指摘通り彼は彼女が選ばれた理由などとっくに察しがついている。だがそれを受け入れがたいからそれを否定したい。だけどこのままでは話しが進まないどころか、停滞しておそらく星の意志が本当に話したい話題に移項できない。だからこそこの自分の考えが正しいのだと諦めさせて欲しいのだ。だからこそずるいとは思って居ても星の意志に言って欲しいのだ。自分の考えが正しいのだと諦めさせて欲しいから。
『分かったよ。それにずるいのは僕の方だったね。彼女が選ばれた理由を話しもせずに君に悟って貰おうとしていたんだから』
一度そこで区切ると星の意志は数回深呼吸をする。本来ならする必要の無いそれはわざと行なわれているものだ。何故行なっているのか。自分の気分を落ち着かせるためか。はたまたアダルを気遣ってやってくれている事か。それは判断がつかない。だがそれがアダルにとってはありがたかった。幾ら聞くだけとは言っても心構えをする時間は欲しかったのだ。
『話を聞いて想像したとおりだろうけどね。魔王種への対抗策として新しく作った種族。これじゃあ長ったらしいから巷で最近名付けられた神獣種と言っておこうか。彼らの体に入っているのは君と同じあの日あっちの世界の星の意志に殺された者達。つまりは君の同級生達だ』
当って欲しくなかった。間違っていて欲しかった物が当ってしまった。分かっていた。間違っているはずがなかった。星の意志の話しは最初からそのように進められていたから。考えれば別に星の意志に聞かなくても分かる事ではあった。
『やっぱりそうなんだな・・・・・・』
『君たちを無理やりその体に入れたのは僕だからね。間違えるはずがないよ』
それでもその言葉を吐いてしまった。覚悟を決めて言わないようにしていた言葉を吐いてしまった。星の意志はその後に続けた言葉は蛇足でしかない事を分かっていながらもただそう言うしかなかった。彼のためを思って。
『・・・・・・・・・・。うしっ! いつまでもうじうじ考えたって俺らしくないな。あんたのやった事とか、俺達を殺した事とかは今は横に置いておく。だから本題に入ってくれ!』
ここまで時間を掛けて話しているが悪まで本題は違う。それは星の意志の態度を見れば分かる事だった。だが彼はこちらを思って話を進める事はしなかった。そこからは彼の優しさを感じられる。面倒臭がりで胡散臭いだけで彼はそれ以上の優しさももっていたのだと言う事が分かる。
『本当に良いのかい? 他にも聞きたい事があるだろうに』
『あんたは優しい。此方を配慮してくれる気遣いも出来る。だがそれに甘えていたら話しは進まないだろ? 伝えたいことが一つや二つって訳じゃいんだ。話を進めてくれて構わない。それにそれ以上は優しくなくて結構だ。今の心理状態だったらそれに甘えてしまう』
アダルの言い分に分かるところもあったのだろう。口角を微妙な形で紡ぎ少し考えた後溜息を吐いて話し始める。
『君がそれで良いならいいよ。少し君に時間を使いすぎたなと思ってたところだったし』
調子を戻したのか、軽口を叩いて肩を竦める。だが直ぐにそれを止めると新たに映し出された映像に目をやる。今映し出されているのは大陸全体を映した地図だった。だが明らかに普通の地図とは違い、所々虫食いののように黒く染まっていた。
『この黒く染まったとところが魔王種によって蹂躙され、悪魔種達の住みやすいように浸食されたところだよ』
『・・・・・・・。結構多いな』
見たところもうすぐ大陸の十%に届きそうなほど黒い虫食いの浸食が進んでいた。
『多いなんて物じゃ無いよ。多すぎるのさ。そして明らかに浸食スピードが速い。速すぎるんだよ』
頭を抱えたくなる衝動に駆られて途中まで腕を動かすがそれはなんとか制止できたようだ。
『僕の目測じゃ彼らは直ぐに二十%くらいまでは浸食するんじゃないかな。そしてそこまで浸食されると此方としては不味いことになる』
『不味いことね。一体なにが不味いんだ?』
『魔王種の一体が地上に顕現する』
言葉を失った。先程聞いたとおり魔王種とは悪魔種の上位個体。地上に一体でも出現するだけで対抗出来ずに蹂躙される。
『俺たちに倒せるのか?』
『僕も出来る限りの事はしたよ。用意した君たちの体にはそれぞれ強大な力を宿している』
そんなことはわかりきっている。自分たちに闘う事を要求しているのに力を渡さないのは論外だ。ただ聞きたいのはその能力で倒せるのかと言う事。臆測を聞きたいわけじゃない。
『君も分かっているだろ? 絶対はない。今はまだ魔王種と衝突したわけじゃないから結果は分からない。まあ君たち次第って事は確かだね』
『曖昧な。まああんたの言う事は正しいから素直に受け取っておくよ』
ふと今さっき星の意志が口にした事が気になったアダルは何の考えも無しにそれを訊ねる。
『さっきの言い分だと俺ももっと強化出来るのか?』
そう彼は明らかに言った。『君たち次第』と。その君たちには明らかにアダルが含まれているのは分かっている。深読みし過ぎなのかも知れないと軽率に先程の発言をした事を軽く後悔する。
『いい着眼点だね。その質問に対して僕の答えはYesだって答えておくよ。君はまだ伸びしろがある。何せ君は未だに力の全てを出し切れていないんだから。もし君が自分の力を百%自分の意志で制御出来たら君は太陽にも負けない光の化身になれるよ』
あまりにも壮大なスケールの話しにアダルは後半ついて行けなくなった。ただ自分がまだまだ強化出来るという事が知れて良かったと少し思ってもいた。
『成長か。退化か。それは俺次第って事か・・・・』
『その通り。だからさ君の中でかくまっている木偶の坊なんてさっさと退治しちゃえよ!』




