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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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三十五話 ミリヴァの反省

 二人の間。いや、この室内全体に伝わる緊張感は常人では耐えきれないほど高まっていた。アダルとミリヴァはその場でただ見つめ合って・・・・・にらみ合っているだけ。それだけのことしかしていない。だが二人の雰囲気からそれ以上になる可能性が浮上し出す。勿論二人ともそれは本意では無い。アダルは今絶賛絶不調中で能力の使用を控えたいところで有る。ミリヴァの方も病人相手に戦闘を仕掛ける事は憚られる。二人とも戦闘はしたくないという同じ意志を持ちながらもその可能性がある事から警戒を解けないでいるのだ。それは過去の出来事でお互いがお互いに嫌な印象を持っているからに他ならない。

「・・・・・・はあ。いつまでもこんな雰囲気は耐えられない。とりあえず何をしに来たのかは後で聞くとして。とりあえずそこにでも腰掛けてくれ。いつまでも立たせている話形にも行かないからな」

 アダルが親指で指した方をしみるとそこには横長のソファが取り付けてあった。それは寝台の方に正面を向けてあった。

「・・・・・・。そうね。じゃあお言葉に甘えようかしら」

 アダルがなにを考えてそう言ったのかを考えてしまっていたのか返答に時間が掛かってしまった。結局何を考えているのか分らずに彼に言われたとおりにしようと行動に移した。

 窓辺にいた彼女からしたら寝台を挟んで反対側にあったソファ。そこに行く過程で彼女は警戒をしながら一切彼から目を離さずに足を進める。アダルの方も警戒した目つきでその行動を伺うように目で追う。お互いが行動を犯さないか監視しあっているとミリヴァの方はソファに腰を下ろした。

「それで、一体俺に何の用があるんだ? 今回は前回のような失態は犯していないと思うが?」

 先制はアダルが行なった。何事もなく無事にソファに座ることが出来た事が彼女に一瞬の隙を与えたのだ。虚を突かれたミリヴァ一瞬息を詰まらせるが直ぐに応答に移した。

「そうね。今回貴方はうまく立ち回ったと思うわ。前回とは大違いにね」

「皮肉を言いに来たんじゃないだろ? 用件を言えよ」

どうにか主導権を取り返したいと思っての話の引き延ばしに掛かったがそれはアダルには通じなかった。それに足しいて彼女はわざと聞こえるとように舌打ちを鳴らし口を動かした。

「あなたに謝っておこうと思ってね」

「謝る? 何に関してだ」

「わざとらしく首をかしげるのはやめなさい。分かっているでしょ? 今回の弟たちの暴走についてよ」

 彼女の言葉にアダルは少しい訝し気な表情を取っている。

「・・・・・。別にお前が謝るようなことじゃないだろ?」

「いいえ。今回のことは本来止められたはずの事。だけど実際に行動を起こしてしまった者たちがいる。それはあろうことか私の妹弟。あの子たちのやったことは私の責任でもあるの。だからわざわざここに来たのよ。迷惑をかけてごめんなさいね」

 彼女は一切目をそらすことなくその言葉を口にする。さすがに頭は下げなかったがアダルはミリヴァの目を見ていたから分かった。これは彼女なりの本気の謝罪なのであるということを。

「今回の件だが。別に俺は気にしていない。あいつらが勝手にやったことだからな。そんなところまで責任を背負ってたらいくら竜だからと言って身と心が持たないと思うぞ?」

 わざと冗談めかしく言うとミリヴァの方も笑みを浮かべる。

「あなたに言われなくたって理解しているわ。だけど今回はわたくしの責任でもある。なにせあの子たちの暴走を招いてしまったのはわたくしの教育の失敗がからんでいるのだから」

 彼女の言葉にアダルは「ああ、なるほど」納得したように反応を示した。

「つまりはあの若い竜たちを甘やかしていたってわけか」

 アダルの言葉に少しむっとした表情を浮かべたがすぐにうなずいた。

「あなたに言われると癪に障るのだけど、本当の事だから否定ができないのがくやしいわ」

 顔を歪ませるほどに悔しがるミリヴァにアダルは思わず笑ってしまった。

「弟妹以外にもそんな顔を見せるとはおもわなかったぞ?」

「わたくしをなんだと思っているのかしら。心底失礼ね。そんな風に上げ足しか取れないなんてどんな教育を受けてきたのかしら」

 強気に出るミリヴァに彼は鼻で笑いながら答えた。

「生憎と教育という物を受けるほど生まれが良くなくてね。あんたらみたいに常に周り恵まれていたわけでもないしな」

 彼の答えた事を聞いてミリヴァは一瞬目を見開いて少し反省するように目を伏せた。

「今のは、悪気があったわけじゃ無いわ」

「別に俺はそこまで気にしていることでもないから謝られることでもないんだが・・・」

 建前上こうはいているが、彼自身心底気にしていないというわけでも決して無い。生れに関して言えば仕方が無いこととはいえ、この世界で教育というものをまともに受けてこなかったことは些か後悔の念が残っている。この世界の知識などは旅をしていてなんとなく分っていった。物時や言語なども最初は分らずに苦労したが度をしていく内になんとか習得できた。しかし教育を受けると言うことは決して知識を蓄えるだけではない事をアダルは後々思い知らされた。

「竜達の教育についてだが。それはこの際だから文句を言いたい。ヴァールにも言ったことだがお前等は若い奴らを如何してきたいんだよ。放任主義も甚だしいだろ。彼奴らこのまま世間に出たら邪竜扱いをされて下手すれば大竜種という種族全体に悪意の目にさらされるぞ?」

 アダルの言う事に思わず息を詰まらせる。それを誇大妄想という輩もいるかも知れないが、それは世界の厳しさを知らない世間知らずの言う事。世間一般という物は怖い物である種族が悪だと決めつければその種族をどうにか排除しようとする現に悪魔種という悪意はこの世界から追放された。

「どうにかしないとお前達も同じ目に遭うかも知れないんだぞ?」

「・・・・・・・・。はあ、貴方の言う事をただの妄言と切り捨てるのは簡単だけど。言っていることは正しくて反論できないのが心底悔しくてならないわ」

 ミリヴァは溜息を吐き、目尻を下げて困った様に微笑を浮かべる。先程の言葉からして彼女は竜種にしては世間の厳しさを知っている類いなのだろうと言う事が察せられた。

「とりあえず、今後は無闇に外部の者を嗾けないように注意するわ。今回の件もきちんと母様に報告をしておく。といっても母様のことだからもう知っているでしょうけど」

「間違い無く知ってるな。そしてあの人は軽く注意為るだけに留めると俺は見ているが・・・」

 その意見にはミリヴァも賛成のようだが苦笑いをするのに留めていた。

「とりあえず若い竜の教育をきちんとするようにしてくれ」

 俺が言えるのはそれだけだとそこで話しを区切ったアダルは何かを思い出した様に日田度口を開いた。

「そういえばここに来てから一回もヴィリスに逢ってないが、元気なのか?」

 彼女の事を口にするとミリヴァは一気に不機嫌な表情を見せ付ける。

「その汚らしい口からあの子のことを呼ぶのを止めてくれないかしら? 貴方が口にするだけであの子が汚れてしまうわ」

 今までは失態のことで反省いていた様子であったミリヴァだったがヴィリスの事に触れ始めただけで瞬時にいつもの態度に豹変した。その変わり身に早さにはアダルも呆気にとられる敷かなくただただ顔を固まらせた。

「貴方がどうやってあの子に取り入ったのか分らないけど、二度と近付かないでくれる? 今後はわたくしがあの子を保護するのだから近付くことも出来ないでしょうけど」


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