三十三話 竜達の予想外
「さあ、我々に言ったことに詫びをいれてくれるかい? こっちだってたった一匹の下等生物にたいして本気なんか出したくないんだあ」
まるで今まで本気では無かったような口ぶりをする竜。しかしその筈はない。アダルの見立てでは彼らはアダルに対して全力で挑んできていた。少なくとも最初に挑んできた二人の竜はそうであった。この竜もそこそこの力を行使していたはずだがどうやら彼らほどではなかったようだ。しかしそんな事はアダルには関係無い。彼らが本気であろうとそうでなかろうと有利だとみて強気で接してくる竜に対して笑いを溢した。
「っ? なにを笑っているんだ?」
「これを笑わずにはいられないだろ? この程度の拘束で俺を追い詰めたと思って居るのか? しかも自分が有利に立っていると本気で思っているとは。お前の頭のできが悪すぎて笑えてくるんだよ!」
アダルはそう口にした後声を上げて大声で笑い出す。その声は室内に響き私、彼をよく知るヴァールも思わず口角を上げていた。しかしそれをよしと思わない竜がいた。今彼を拘束している竜まさにそれだった。彼を拘束している竜は一瞬戸惑いながらも直ぐに自分が侮辱されたことに気付き不機嫌そうな顔を見せる。
「この状況で危機なのはお前だ。これをひっくり返す方法なんて存在しないぞ?」
彼は怒りをそのままにアダルに説く。それに足してアダルはまた笑い上げた。
「それはお前の経験不足だ。俺はこの程度の危機なんて何度も経験して来たんだぞ。例えばこの場合邪魔なのはお前の重力と周りにある飾りの剣だが・・・・・」
アダルは瞬時に翼を広げる。するとそこから高熱風がはじき出されただ空中に飾りの如く浮かんでいただけの刃は一瞬で吹き飛ばされた。その際に熱風を諸に浴びた刃は一部融解して地面に落ちる。
「これで脅しは意味を成さない。そしてお前のうざったらしいこの重力だが」
「っ! ・・・・・・ごふ!」
彼に手を向けた瞬間そこから光弾が連続で射出され、それらは全て竜の体を直撃して消え去る。体は貫通していないが、高速で射出された勢いそのままに浴びたのと、光弾に宿っていた高熱によって彼は少し飛ばされた後、その場で膝をつき蹲った。
「こうしてお前を攻撃すれば消えてなくなる。勉強になったな」
悠々と立上がり彼に近付くとアダルはそういった。
「ははははっ! おもしろいな! おもしろいよ! こんなに強い人初めてかも!」
嬉々とした声を上げたもう一人の女竜は竜巻を纏わせた拳でアダルの頭部目がけて殴りかかってくる。
「ああ、これは面倒だな」
避けることも出来るがここは攻撃を止めておいた方が得策だという判断をしてその拳を受け止める。為ると彼の腕は次々と切り裂かれたように傷が出来ていった。次第には腕の形まで変形していった。
「この程度何でも無いんでしょ?」
「分っているなら効くなよ。趣味が悪い戦闘狂」
アダルは一度その手を緩めて彼女の腹部目がけて蹴りを入れる。それを見越していたのか女竜は自分から引き下がりその威力を殺した。
「ぷっすう! そう簡単にはいかないね!」
「当たり前だろ」
蹴りからは完全に逃れたはずなのに彼女は腹部を押えた。
「足を延長なんてずるいよ!」
「お前だって同じ様なことして俺の腕をぐちゃぐちゃにしただろ?」
彼は徐ろに層言って先程攻撃を受け止めた腕を上げて見せた。既に皮膚はほぼ無い状態に近く筋肉が剥き出しで、一部骨まで見えるか所もあった。その上で何カ所か折れているようでそれは筋肉を突き破っているところ逢った。
「ったく、如何するかね?」
アダルは悩む素振りを見せる。それを明らかな隙とみた女竜はにやりと笑うともう一度仕掛けようと両手を拝むようにあわせた。
「《風刃突破》」
両腕を上下に開くとそこからその軌跡を画くように風の刃が出現しアダルを襲った。
「隙あり!」
「ワザとに決まってんだろ?」
「そう言うと彼は駄目になった腕を光熱化させて切り落とす。地面に落ちる前にそれを掴むとあろう事か彼女の技に投げつけた。
「んなっ!」
ぶつかった彼女の技とアダルの腕は閃光を放って爆発した。アダルの行動に女竜は間抜けな声を出して驚いた。
「ははははっ! 腕をそんなに簡単に切り捨てるとか! まったくどんな精神している?」
「使え物にならなくなるまで壊したのはお前だろ? 今の言葉そっくりそのまま返してやるよ。それに別に良いんだよ。丁度どっちにしようか迷っていたんだ」
そう言うと徐ろに今切り捨てた方の腕を見せる。肘から先のないそれは未だ血が止まっておらず、垂れ流されていた。しかし次の瞬間腕全体が白熱化され、そこに光が収束し始めて新たに腕を形成していく。
「お前等程度の攻撃。幾ら受けたってまったく効かないのと変わりないんだからな」
腕の感触を確かめるように数回力を込めて問題無いことを確認為ると指と手首を何回か鳴らした。
「ははははっ! 出鱈目でしょ」
「うそ・・・・。そんな」
女竜二人は明らかに動揺している。いや、その場にいたヴァール以外の者は間違い無くその信じられない光景を見て狼狽していた。
「あっ? なに驚いてんだ。これがあるのが分っていて攻撃を仕掛けてきたんだろ?」
狼狽えるんじゃねぇと言うアダルだが、それは無理の話だ。なにせ彼らは全くの予備知識無しでアダルを襲ったのだ。
「・・・・・・・そうか。お前等は本当に考え無しの阿呆だったわけだ」
彼らの反応を見て全てを察したアダルは疲れた様に息を吐き肩を降ろす。
「なっ! 下等生物の分際で!」
「そういうのはもう良い。聞き飽きた。というか俺から見たら今のお前等の方がよっぽど下等だぞ?」
女竜が反応して明らかに嫌悪剥き出しな表情をしている。今から抗議の言葉でも口にしようとしているのだろうがそれをアダルは許さなかった。
「自分の種族の特徴にあぐらを掻き、対して強くもないのに種族の力を持っているというだけで天狗になる。それでいて意味も無く自分は上位。その他の種族は下位と決めつけるその精神。それが下等といってなにが悪いんだ? 俺に説明してみろよ。出来ないだろ。お前等はただ自分の優位なのを良いことに好き勝手やっているただの獣と同じだ。竜とは言えないな」
アダルの口から鋭く厳しい意見がはき出された。勿論これが全て彼の本音であるというわけではない。最後の辺りは勢いで口にしてしまい、内心しまったと後悔していた。
「そういう奴等にはこの世界の厳しさを教えこまないと今後世界を乱す可能性があるんだ。だからな・・・」
一度そこで言葉を句切ったアダルは目つきを鋭くしてあえて笑って口を開く。
「俺がここで世界の広さを教えてやるよ」
挑発するように口にしたその言葉を吐くと彼の体は発光した。そのまばゆさに皆が一瞬目を閉じる。次に目を開けるとアダルの姿が変化していた。彼本来の光の鳥人の姿に変わっていたのだ。
「俺の強さ見せつけるんだ。こっちの方が良いだろ?」
ヴァールに了承を取るように言うと彼は困った顔をしながら頷くだけだった。
「やり過ぎるような事は無いだろうが、言っておこう。あまり派手には為るではないぞ?」
「当たり前だ。少しこいつらにトラウマを植え付けるだけだ。そんなに時間は掛けるつもりはない。前回みたいに文句言うやつがいるかも知れないからな」
それだけ言うとアダルは一度深呼吸をして今まで攻撃を仕掛けてきた竜達を見据えた。
「さて反撃といこうか」
アダルの言葉を聞いた竜達は身構えるがその姿にアダルは笑った。
「そんなに硬くなるなよ。いくら身構えてもお前等が倒れるのには変わりないんだからな」
言い終わると同時に彼は動いた。それはもう誰の目にもとまらない早さで。
「ああ、疲れた」
いつの間にか竜達の背後にいたアダルはそう嘆息をつくとその場にいた竜達はヴァールを除いて音を立てながら倒れていった。
「ああ、これ別に姿変えなくても良かったな」
層言いながら人の姿に戻ると疲れたのか近くにあった焼け焦げた何かの残骸に腰を下ろして倒れた竜達に目をやったのだった。




