三十二話 竜の攻撃
アダルの存在感は怒りと共にさらに大きくなった。それにはさすがの竜達も息苦しくなっただろう。先程まで大口を叩いていた女竜は自身の発言したことに対して激しく後悔の念を抱いていた。しかしここまで来てしまってはもはや止まる事は出来ない。彼女には頑ななまでに硬いプライドがあり、自身の血に誓って目の前の下等生物から逃げることを許さなかった。
「そ、その程度の威圧で! 私を伏せる事は叶わなくてよ! それにいい加減この城内でそのような存在感をダ競れても迷惑だわ!」
彼女は両手をアダルに見せ付けるとそこから二頭の竜の形をした雷を出現させた。
「くらいなさい!」
彼女の体に巻き付くようにして彼女の頭上まで昇る竜はアダルに向き直り、その口を開いた。
「《紫電の息吹》」
竜の口と彼女の手から合計四つの電気砲が繰り出される。それはこの狭い室内では一瞬にしてアダルに駆けた。繰り出される自身の攻撃がゆっくりながらも間違い無くアダルに向かって駆けていく雷に彼女は瞬間的に勝利を確信した。この狭い室内ではどこにも逃げ場がないし、完全にアダルにロックオンしているためどこに逃げても直撃できる仕様となっているためである。この攻撃は彼女の中でも強い部類の技であるのと今まで避けられた経験がないことからこの様な考えに到ったとも言える。
確かに彼女の考えは正解であるが、それだけで自身の勝利を確信したのは間違いだと言わざる終えない。確かにこの攻撃を喰らったら喩えヴァールだったとしても避けられることは出来ないし、相当なダメージを負うことになるだろう。彼の場合は全身が鋼であるため諸に受けたら感電してしばらくは動けなくなること間違い無い。リヴァトーン出会ったとしてもこれから逃げる術など無いだろう。そもそも彼は雷という概念すら知らない可能性もある。その性質も知らずに軽い攻撃だと油断して避けずにいた結果、全身黒焦げ間違い無しだ。しかしアダルの場合はそうはならない。喩え直撃したとしても軽い麻痺が起きる程度で済んでしまう。なにせ彼女は知らないのだ。彼がなぜ自身のことを天輝鳥と呼ぶのか。
「ふん!」
直撃すると思われた四つの雷は寸でのところで跡形もなく消滅した。
「なっ!」
今目の前でなにが起ったのか一瞬分らなかった彼女は思わず驚愕の声を上げる。しかし直ぐにその顔を歪ませた。
「ま、まぐれですわ! 《紫電の息吹》」
彼女は先程と同じように同じ技を使う。しかし結果は同じ当ると思った瞬間。四つの雷は後方もなく霧散してしまった。その現実を受け入れることが出来なかった彼女は目をうつろになっていく。
「うそ・・・・・。こんなの嘘ですわ!!!」
自棄になったのか彼女は同じ技を何度も連発する。しかし結果は変わらない。
「自棄になったか。ははっ! 良いぞ、もっとやれよ。いつかは当るかも知れないぞ」
挑発為るアダルの声に呼応するように彼女はさらに激しく攻撃を加える。
「《紫電の怒号》」
女竜はいつまでも当らないことに焦りを抱いて先フードの技の上位に有るであろう技を繰り出してくる。雷竜をさらに六つ増やして合計十個の砲門からさらに激しい雷を発射する。それにはアダルも少し顔を変えて片手を前に出す。
「少しはやるようになったか。これだったら俺にあてることが出来るかもな」
前に突き出した手を巨鳥の物に変えたアダルはそれを白熱化させた。
「雷は俺には効かないんだけどな」
白熱化あせた腕からは女竜は発した物と同じくらいの雷が発射され、それで打ち消し逢った。
「・・・・うそ・・」
雷が効かないどころかアダルも雷を放ち、それが完全に自分の攻撃を打ち返し合っている事に完全に彼女は心が折れようとしていた。それだけで彼女は分ってしまったのだ。これが彼の本気ではない。むしろ手加減をして自分に怪我をさせないようにとしている。自身の雷は今まで一度も外れたことがなかった。それは光速に対処出来る者がいなかった事が主だった。つまりは自分よりも弱い敵とばかり戦っていたことを表している。しかしアダルは違うと先程の攻撃で分ってしまったのだ。それは己の放った雷を打ち消すという技術を持っているだけで分った。現に彼は何度も自信の雷を一回も漏らすことなく相殺している。勝てないと思ってしまった。その気の緩みが彼女の攻撃に間を空けてしまった。
「あっ!」
アダルの間抜けな声と共に彼の放った雷は女竜の攻撃をすり抜け彼女に直進した。
「っ!」
明らかに避けられない事を悟り、どうにか自分も彼と同じように相殺しようと試みた。しかし彼の雷は明らかに己の物よりも速度があった為、そうする前に直撃する距離まで接近を許してしまった。
「あっ!」
「《火炎鱗》」
せめて無様に叫ぶ声を上げないように体を硬直させた彼女は目を閉じてそのときが来るのを待った。すかしその瞬間目の前から知っている声がして目を開けるとそこには豪快さが売りの竜がアダルの雷をなぎ払っていた。
「あ、あなた!」
「勝手に諦めるんじゃねえよ! てめえがふっかけた喧嘩だろ!」
竜は彼女を叱責するとその勢いのままアダルに駆け出す。
「今度はお前か・・・」
彼は僅かに口角を上げ、雷を出し続ける。
「効かねえよ!!!」
彼は先程の技を使用し続けているためその鱗からは常に炎が放出され続けていた。それを雷にぶつけることでどうにかその攻撃を直撃せずに済んでいる。
「やせ我慢は為るもんじゃないぞ!」
余裕たっぷりに言うアダルの言葉に彼は一瞬域を詰まらせる。直撃はしていなくても彼の炎程度ではアダルの攻撃を完全に防ぐことは出来ていないと言うことを見抜かれたのだ。
「それが如何した! お前が雷を撃つ前に殴れば良いだけの話しだろ!」
ダメージを受けながらも彼は確実にアダルに近付いてきている。そのタイミングで彼は技を変えた。
「《火災爪》!」
鱗から出していた炎を爪に集中させて五つの鉤爪が完成した。そこから発せられる火力は前世で見たガズバーナーを彷彿とさせる。
「これでも喰らって焼き焦げやがれ!」
大ぶりで振われるそれは彼の勢いと腕力があって高速でアダルに振われた。それに対して彼は避ける訳でも無く逆に近付くことで対処した。
「大きい武器ほど使い勝手が悪く対処しやすいもんだ。こうやって近付いてしまえば当ることはないからな!」
覚えておくと良いと付け加えるとアダルか彼の胴体に蹴りを入れる。諸に入ったそれに竜は思わず苦悶の声を上げると蹴られた方向に吹き飛びう、壁に衝突した。
「さて、次はっ!」
彼の言葉は強襲してきたもう無数の石礫の攻撃によって阻まれる。その気配に気づいたアダルは瞬時に羽を広げてそれで体を覆った。
「避けるなよ。殺せないだろ」
「その程度で俺を殺せるわけ無いだろ」
襲ってきたのはもう一人の竜。彼は穏やかな口調だったが、過激なことを口にする。そんな彼にアダルは羽の隙間から冷ややかな目を送った。
「それはやってみないとわからないよ」
そう言うと彼は両手を拳にしておおきく点に振りかぶる。次の瞬間それを地面に叩きつけた。
「《大地重拘束》」
両こぶしが叩きつけられた瞬間アダルの体に超重量の重さが襲い掛かった。それはさながら山一つ分くらいの重さはあるだろう。さすがのアダルもこれには膝をついてしまい、明らかな隙を作ってしまった。
「《無双錬金》 これからは逃げられないよ」
彼はそう宣言するとほくそ笑む。立ち上がると同時に彼の足元から刃が出現し、それが無数にアダルを囲むように現れる。それらはすべて宙に浮くとすべて矛先がアダルに向けられた。
「これはさすがのその翼でも阻めないな。さあ、おとなしく武装を解除してわれ輪を侮辱したことを謝って。そうすれば命だけは助けてあげるよ」




