十五話 決意
次に質問の為に質問の為に手を上げたのは十代後半の少女だった。彼女はフラウドに頷かれると、徐ろに立ち上がる。
「王位継承権第十五位。ミネルですわ。この個体が出した被害にはどう対策するのですか」
彼女の言っていることはどこかあきらめを感じられる。それを聞いたフラウドは徐ろにエドールに目配せをする。彼もフラウドの考えが分かった為、彼の代わりに発言する。
「被害に遭うのはとりあえず建物だけだ。国民は避難さえすれば死傷者はでないと私達は見ている。猪王通過による被害を受けた町には国から復興金を送る手はずになっている」
彼のその発言を聞いた王族達はエドール目がけて野次を入れ始める。
「遣るのはそれだけかー」
「被害を会った身になってみろ!」
「これだから若造は」
「国民の財産を犠牲にしろと軽々しく言える」
「現国王は非情だ」
王族達が徐々に日頃の不満をエドールをぶつけ始める。関係無い話にすり替えるなとアダルは内心で野次を入れている王族に侮蔑の目を向ける。そして彼は思い出す。
「前世の国会もこんな感じだったよな」
彼は日本の国会生放送を思い出していた。中学の授業で見せられ、後で、それを見ての感想を書かされた記憶を。それで前世のアダル。明鳥はこう書いたのだ。「国をよくする為の政治家がそれとは全く関係無いようなところで言い争いをして、そのまま会議が終わる。こんな無為な行為は無いと思う。こんな無為な行為で時間を無駄にするなら、政治家なんていらない」そう書いたのだ。これを見た担任の先生は微妙な顔になったのを思いだし、すぐに書き直した。その担任はそれなりに恩義のある人だったから、先生の満足しそうな事に書き直してから提出した。そんな過去回想という現実逃避から抜け出したアダルは先程とあまり変わっていない現状に溜息を吐く。思わずフラウドに目を向けるが、彼は余裕そうに笑う。こういうノに場慣れしているのだろう。さすがは百五十年も王族はしてないという訳か。とアダルは感心する。しかし彼は違うのだ。アダルは王族では無い。強いて言うなら人でも無い。彼は前世でもそして今世でもこういう所にでた経験が無い。だからこういう騒がしい状況にあまりなれていない。だから彼がこういうときやることは限られるのだ。すべてを聞ききろうと耳を澄ますか、耳を塞いで現実逃避を為るか。先程彼は、後者を選んだ。なぜなら時間の無駄だから。結局は自分たちのことしか考えていないのだ。そんな彼らにアダルは失望の目を密かに向ける。誰にも気付かれないように。そしてアダルはある決心を心に決める。
「そもそも、そんな災害相手に我々が対抗出来るのかね? もし、この獣が王都にでも来てみろ。我が国は崩壊しかねないぞ」
ある者が言った言葉がさらに会場を混沌に落としていく。その様子は叫喚地獄のようだ。皆が皆、自分の主張だけを叫ぶ。これは最早報告会なのでは無かった。その様子を傍観しているアダルも溜息を吐く。
「静まれ、王族達よ。それでも貴公らは始祖王の血脈を継ぎし者達か!」
会場に怒声が響き渡る。その声に怯えた様に、その場は静間と化す。誰もが声の主に目を向ける。それは傍観していたアダルも同じだ。彼が見たのは表情を怒りで染めているエドールの姿であった。王族達を一喝して空気を変える。これはまさに国王の所業であった。
「これはその対策を練る為の報告会だ。少しは報告に耳を傾け給え」
威厳ある声でエドールは王族達に諭した。アダルはこの様子を眺めて、なんとなく彼が王になった理由が分かった気がした。一見為ると優男だが、それでも空気を変える力が彼にはある。それがあったからこそ、彼は現国王になり得たのだと。
「それでは、この個体に対応出来る物があると言うのか? 答えよ、国王」
ある者がそれを叫ぶ。しかし今回は誰もそれに便乗してこなかった。どうやら先程の事が未だに彼らに響いているのだろう。エドールは主張を叫ぶ者に鋭い目線を向ける。その目線を向けられた者は思わず身を震えさせた。
「あるとも」
エドールはそう口にする。すると会場がざわつき出した。それを見計らって、エドールとフラウドは目配せをする。
「我々が何の対策もせずにいると考えられるか。この国の存亡を決める大事な事を」
彼の言葉が引きつけるように王族達の耳に刺さる。
「我と大祖父様はこの事態を予測したときからどうにか出来ないかと考えてきた。あるときは弱点を探るかのように映像を食い入るように観察した。あるときはこの個体を直接見た者に当時のことを直接聞いた。あるときはこの個体によって被害を受けた土地に直接赴いたりもした」
その言葉に会場がさらにざわめき出す。
「しかしそれらしい事は分からなかった。そんな時だ。ここに逐わす巨鳥殿の噂を聞いたのは」
彼の言葉はまるで希望を見たかのように明るくなった。
「我はそこで耳にしたのだ。巨鳥殿は百五十年前に一度このような個体を倒していると」
その言葉に会場にいた者達が目を見開き、アダルを見た。
「我はすぐに古文書などを読みあさった。するとごく僅かであったがそういう文献がある事を知ったのだ」
「それをエドールから聞いた俺はすぐに巨鳥がどこにいるか調べた。死んでしまっているという可能性があったが、その不安はすぐに打ち消された」
エドールの言葉に続くようにフラウドが口を開く。
「どうやら大森林の洞窟にいるという情報があったのだ。俺はそれをエドール伝えた」
フラウドは彼に目配せしながらそう口にした。
「そこで我達は考えた。彼にこの個体の対策に力を貸して貰おうと」
王族達は各地で驚愕の声を上げている。しかしそんな事は気にしていないのかエドールは言葉を続ける。
「そのために我は行動した。我が息子に依頼をし、巨鳥殿にご助力願う事を伝えさせた」
「自分の息子を危険地帯に追いやったのか!」
「非常識な」
様々な非難の声がエドールに浴びせられる。彼はそれを全て受け止め、はき出すように声を溢した。
「確かし。我が息子を危険地帯に送り出したのは事実だ。しかしこの役割を担える人間は我が息子以外あり得なかった」
一度疲れたように息を吐くと、威厳を持った声で続きの言葉を紡ぎ出す。
「我が息子出なければ、彼にはきっと誠意は伝わらなかったでしょう。それにどれ程この国が危機的状況なのかも。なんたって現王たる我が地を継ぐ者なのだから」
その言葉にはさすがに避難を浴びせた者達は押し黙った。
「我が息子を使わせたこと。そのことが我々の誠意が伝わり、彼は協力してくれる事となり、今この地に足を運んでくださったのです」
様々な所から小さくはあるが、感嘆の声が上がった。他の人達も納得したようにアダルに目を向ける。それが聞こえたエドールは安心したような顔つきになった。これで少しは分かってくれたかと内心で呟きながら。続きはフラウドが声を上げた。
「しかも新たな朗報だ。巨鳥は我々の為にこの個体と戦ってくれることを了承している」
彼から出された新たな情報。それには王族達は驚愕していた。それは現王でもあるエドールでさえ。皆が皆安心したように各々で語り出す。それはもう愉快そうに。しかしそれでも口出しをしてくる者はどこにでもいる。
「その者は本当に巨鳥なのか?」
その言葉が会場に響いた。その声が新たな問題の火種になる。それを突っかかった誰かが、それを追求するだろう。エドールは内心で焦った。しかし誰も言及しなかった。それはなぜか?
「これで俺が巨鳥だって証明できたろ?」
アダルがその場で虹色の巨大な翼を広げたのだ。それには誰も言いがかりを付けられなかった。誰もが彼の翼に見惚れているのだから。若い女性陣にい当たっては顔を赤らめている。しかしアダルはそんな事など知りもせずに、翼を畳む。そして次の事を言うのであった。
「俺はこの国に危機に対処するために来たんだ。それなのに言いがかりを付けないで貰いたい」
その言葉を言い終えると、アダルは自主的に出口の方に足を進める。誰も止めはし無かった。正確には誰も出来なかった。ただ皆が出て行くアダルを見守るしか無かった




