表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
148/313

二十九話 真夜中の強襲

ヴァールがいない夜。主人のいないその館はいつも通り明かりがともっていた。それはここに客人を招いているから当たり前の事。客人は各々でその時間を愉しんでいた。

 それはいまだ寝台から出ることも叶わないアダルとて同じであり、彼は彼なりにこの時間を気に入っていた。普段から部屋では静かなアダルであるが、ここに来てからの静かさはいつもとは質が異なる。それは彼が休養中であるとこが主な理由であり、それはきちんと理解している。そんな彼はなにをしてこの静かな時間を愉しんでいるかというと彼は本を片手に一人でボードゲームを行なっていた。一見為ると寂しい光景ではあるが本人はこれに満足しているよう違和感に気付いていない。

「・・・・・・。これをこうするとああなるからな・・・・・。次のサイコロがどの目が出るかでこのゲームでの俺の結末が変わると思うと大事な一投だな」

 サイコロを使って行なうそれは人生ゲームみたいな物のようだった。普段の彼なら手に出しそうにない括りの物だろうが如何せん彼は暇を持て余した状態だった。もってきた本も既に何回も読み返していて内容を完全に覚えてしまうほどだった。それに加えてずっと寝台の上で寝転がっているだけでは疲れてしまうしいい加減彼は眠り疲れを起こしていた。幾ら体力回復のためとはいえど一日中寝ていたらそれはそれで疲れてしまう。最初の数日はそれで良いかもしれないが、徐々に体力が回復してきたらそうはいかない。

「ああ、寝たいのにな。寝過ぎたせいで妙に目が冴えてしまった」

 嘆息を交えながら愚痴を溢す彼は時計に目をやった、今の時刻は十一時半を過ぎたところ。今の一言の通り彼は昼間寝すぎたせいで眠れなくなってしまったのだ。彼の性質的には昼間に寝た方が回復が捗るからそれは良いのだが、夜眠れないとなるとそれはそれで習慣が崩れてしまうため良くないのだ。それでいて彼は正直眠りたい欲求に駆られているのだが体は走破させてくれない。歯がゆい状態だった。

「まあもう少し時間が経てば眠れるようになるだろ!」

 そう呟くと彼は気と取り直してサイコロを投げた。彼のボードゲームの状態は4以上が出ればハッピーエンド。3以下が出ればバットエンドといった状態だった。ハッピーエンドに想いを込めて投げたサイコロが出した数字は・・・・・。

「ちっ! 2か。バットエンドで終了させんなよ。何度こんな時俺は引きが弱いんだろうな・・・」

 過去の記憶を掘返しても彼は引きがとても弱かった事を思い出した。

「まあ、これはゲームだしな。実際はこんなバットエンドな結末になんか早々・・・・・」

 そこまで言いかけてアダルは頭を抱えた。それは彼は見てきたからだ。人生がバットエンドになる瞬間を。

「言うんじゃなかった。なんで俺独り言で落ち込んでんだろ。虚しすぎるよな」

 そう言うと彼は天を仰いで目を閉じた。そのタイミングで丁度眠気が襲ってきた。

「・・・・・・。はあ、寝るか・・・」

 少し考えてた末に彼は眠ると決めて倒れるように寝台に体を預けて掛け布団を体に覆い被せた。そして近くにあるボタンを押して消灯するとそっと目を閉じた。

「・・・・・・。ああこの瞬間が最高の至福かも知れないな・・・・・・?!」

 もう少し寝落ちしそうになった瞬間。アダルは外からの殺意のせいで目が冴えてしまい、急ぎで飛び上がるように起き上がった。

「・・・・・・・だれだ。敵か?」

 言って直ぐにそれはないと考えつく。ここは大樹城の中であり、それに加えてヴァールの屋敷の中だ。セキュリティなども万全であり外からの襲撃者だとは考えにくい。

「だけどこの殺意は本物だよな。それも単独じゃなくて複数か・・・・」

 数にして五つの気配を感じとれた。それは猛スピードでコチラに近付いてくる。その速度からアダルは襲撃者の正体は竜だろうと予想をつけた。

「・・・・おおっと。まじかよこいつ等」

 言い終わると同時に部屋の窓ガラスは全て割り去り、そしてそこから爆炎が侵入為てきた。炎は瞬く間に部屋を支配し、容赦なくアダルにも襲いかかった。温度にして千度程度のその炎はやや青みが勝手いて、前世でのガスコンロやバーナーを彷彿とさせた。

「・・・・・・・・。はあ」

 人間の姿でいるためか腕を焼かれていても彼は溜息をするだけでその場から動かなかった。それでもこれ以上傷を負いたくないという想いから、体の表面に結界を張り、それに黒く焼け焦げたような色にした。

 炎の掃射が収まったのはそれから五分後の事。それでも部屋に燃え移った火が消えるわけでもなく、燃えさかっている。

「被害がこの部屋だけで済むようにしないとな・・・・」

 面倒だともいながらも他の部屋の住人に迷惑を掛けるわけにも行かないことから部屋全体に結界を張って炎は勿論音や煙。そして燃焼の際に発せられる有毒ガスが外に漏れ出ないようにした。

「・・・・・・。消火活動なんて期待できないからな。これどの程度で消火出来るんだか・・・」

 そんな風に考えていると先程炎が侵入為てきた窓から洪水を思わせるほどの大量の水塊が襲いかかってきた。燃えさかり、部屋を焦がしていた火が一瞬で消し去られた代わりに水中の様な景色がアダルの目に移し出された。

「・・・・・・・。なにがやりたいんだか」

 およそ消火のために用いられたであろうその水の供給は一分ほどで終了し、窓から水が吐き出されていった。

「はあ。次は何属性の攻撃が来る」

 言い終わる前に窓から無数の雷が侵入為てきて、アダル目がけて襲いかかってきた。彼は溜息を吐きつつ片腕を前に差し出して襲い来る雷を受け止めた。その際にきちんと腕を元の姿に戻して。この頃になると先程追った火傷も完治して入り為、その腕で受け止めていた。

「舐めてるのか? 確実に舐めているな。これ」

 雷に加えて無数のかまいたちが竜巻の形状で固まって襲いかかってくる。外から感じる殺意敵意からして本気で殺そうと考えている事は理解出来た。そのためにこの様に技を仕掛けてきているのだろう。しかしそれでもアダルからしたら全く害のない攻撃ばかりだった。最初はまだ本気を出していないのかも知れないと警戒したが、この様な杜撰な攻撃が続いたため相手側の実力不足による威力不足だと言うことが直ぐに察せられた。なにを思ってこれほどの実力しかないはずの彼らが自分に攻撃を仕掛けてきているのかと考えたすえに二つの選択肢があった。一つは彼らの訓練の為に。もう一つは自分程度。これだけの実力さえ有れば殺せるという奢り。おそらく前者では絶対無いとアダルは瞬時に思い至り、から笑いを上げた。少し笑い続けていると、徐々に自身の中に怒りの感情がわき上がるのを感じとれた。

「ははっ! なにがやりたいんだよこいつ等。本気で俺を頃好きがあるのかすら疑わしく思えてきたぞ」

 空笑いを嘲笑にかえてわざと煽るような事を口にする。それが相手に届くかどうかは分らないがきっと届いていないだろう。この声がもし届いたとしたら激昂して攻撃の威力を上げるか攻撃やめるという事しか出来ない。この声が聞こえているのにそのままの威力の攻撃を続けるという愚かな事はさすがに愚かな襲撃者でもやらないことだろう。

「・・・・・。憂鬱だが、此方からは仕掛けないでおこう。また面倒なやつが乱入しかねないからな・・・・」

 かつてのことを思い出しながらそう誓いを立て、彼はこのまま全く痛くも痒くもない攻撃を受け続けるという軽い拷問を甘んじて受け入れる事にした。この時間がもうすぐ終ると願って。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ