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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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二十八話 巨人対策会議

 祭祀の間にて四つに人影があった。彼らは青い球体を挟んで一つの影の前に対面するように横並びになっている。

「そう。彼には伝えてくれたのね。ありがとう、ヴァール」

 ヴェールを降ろしたままの影が右端の影。ヴァールに礼の言葉を贈るが、それに関して彼は苦笑いを浮かべた。

「別のその事はいいのだが。この服のことをどうやら知っていたようでな。警戒されてしまったのだ」

「それはご愁傷様。まあ知っていてもおかしくはありませんよね。彼は知識欲に溺れている傾向がありましたから。知るべき事は調べたのでしょうね」

 ヴァールはなぜか自分よりもアダルの事を理解している目の前の影。大母竜がなぜそこまでアダルの事を分っているのが疑問で仕方が無かった。

「ふん! 別にあんな奴の手なんか借りなくても、我々の手で巨人は倒せるでしょうに。母様はなぜあんな奴の力を借りたいと思うのだか。理解しかねるわ!」

 真ん中にいた影。ミリヴァは機嫌を損ねた様に感情を荒げてそれを不敬を分かりながらものあえてそれをぶつけた。それはまるで母親に八つ当たり為るように。

「そのような事言う者ではありませんよミリヴァ。彼は賓客。それもヴィリスのお友達なのだからきちんともてなさないといけません。それに彼ならばこの城を救う救世主になってくれるかも知れませんし」

 いじける娘に対する彼女の反応はまさに母親その者であった。それでいてどこか教え子に期待する教師のようでもあった。

「なぜ母様はそこまで彼に期待為るのかボクには分りかねます。あの者の行なった事を考えれば裁いても可笑しく無い。それなのにもてなすなど。どうかしているとしか考えられない」

 左にいた影。眼鏡を掛けた赤銅色の髪を耳が隠れる程度まで伸ばした青年の姿をしている竜は一切表情を崩すことなく忠言を口にする。忠言と思って居るのは彼だけで他の者からしたそれは顔を変化させる程度の言葉でしかないのだが。

「ヴォルテス。残念ながら彼を裁く事は出来ません。何せ彼はそこにいる貴方の兄に唆されてあれを行なったに過ぎないのですから。それだけの事が罪だというのなら私達は騙されただけで罰を受けなければならないことになります。勿論騙すことにも。一々そんな事はしていける程我々も暇ではないのですよ」

「ですが!」

「それ以上は止めておくのだな。自分の心が抉れてしまう」

 言葉を遮ったのはヴァールであった。彼はそのままどこか反省しているというような顔を作り出し、溜息を吐いた。

「あれに関して言えば自分にも非がある。それは理解している。だからあいつを責めるのは止めろ。あいつもあいつでトラウマを植え付けられたようだ。それでおあいこだと自分は思うがな」

「・・・・・・。あいこな訳無いでしょう。明らかにコチラの戦力が減らされいる状況があいこである訳が無い」

 やや怒りを滲ませ、歯を剥き出しにしそうな形相になる一歩手前の顔つきでヴァーるを睨む。それを診てもヴァールは溶融をもって笑い返す。それはつまりヴァールにとってヴォルテスは全然怖くもなんともないと言っている様な物だった。笑い返されたヴォルテスは顔を平常に戻して再び大母竜に向ける。

「ですが、その者が危険な事は確かです。何せ巨人をその体に封じているのですから。何か策を練らなければ・・・・・」

「それについては同意見ですが。危険なのは巨人であって彼ではありません。そこは間違い無いように・・・」

 笑って返答するが今までずっと平坦だった大母竜の声に僅かな変化があった。その変化には誰もが気付いた。

「さて、話しを戻しましょう。巨人の生態については分りました。その他の弱点などは分りましたか?」

 目が合って問い開けられたヴァールは方を竦めて両手を上げた。

「それが分らなかったから弱点を作ったのではない。自分の作った傷。鳥人が焼き溶かした傷。騎士が剥いだ傷。そのどれもが弱点になるであろうな。見たところ回復能力は積んでいない様子だった。それが分っているだけでいいと思うのだが?」

 彼の返答に大母竜は頷き了承したと口にする。

「それでは弱点は他にはないと考えて良いのですね」

「見たところはないだろう。表面が鉄で出来ているのだ。ある程度までなら一切の攻撃を防げるであろうと考察する。それと目に関していっても薄く鈍色に光っていたようにも見えた。きっと目も表面はコーティングされていると思って居て間違い無いだろう」

「そうですか・・・・・・。それはまた厄介な性質を持っていますね。よほどの高熱のブレスを持つ物で無ければ対処が出来ないと言う事ですね。・・・・・・。せめて腐食させる力を持つ者がいれば良かったのですが・・・・」

「竜の中でそのような能力を持つ者など居りませんよ。母様」

 訳の分らないことを言い出した大母竜を咎めるヴォルテス。確かに今回の襲撃者のみならず、あらゆる敵に対応出来そうな力である。しかしその者は明らかに危険過ぎる。力の制御が出来なくなって周りを巻き込んで自滅してしまう可能性の方が高い。

「いるであろう。一人。最近帰ってきた妹が」

 ヴァールの発言にヴォルテスはハッとする。

「・・・・・。まさか、ヴィリスを使うつもりですか」

「そうするしか今の所方法はないと考えるが?」

「駄目に決まっているでしょ! 勝手にあの子を利用しようするのは止めなさい!」

 怒声を上げたのは当然の事ながらミリヴァであった。彼女は髪が逆立つほどの怒りを宿したオーラが可視化できるほど彼女は二人に怒っている。その形相は睨む程度ではあったが迫力が伴っていたため目にしたヴォルテスは思わず軽く悲鳴を上げて一歩下がった。

「あの子は絶対に利用させないわ! あんな辛い事を経験しているのにまだあの子が辛くなるような事をさせるだなんて。私には出来ないしやらせない。もしあの子を利用するつもりなら・・・・・・。消滅させるわよ!」

 そのオーラは祭祀の間を支配するように拡がる。そんな怒りにまかせて行動為るミリヴァにヴォルテスは完全に心が折れてしまい、なにも言い出せなかった。だがヴァールは違う。そんな彼女の本気の一端を見ても困った様な表情しかしない。

「それでこの城がなくなったら如何するのだ?」

「無くならないわ! 私がいる限りこの城はなくならない!」

 正論の暴力に対してミリヴァは感情的になって反論する。

「二人とも。私の前での喧嘩は止めておきなさい。お互い言っていることはあっていますが今は言い争っている場合ではありませんよ」

 言葉と同時に祭祀の間に拡がっていたミリヴァのオーラの支配権が大母竜に移っていた。「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 言い咎められたことに加えて圧倒的実力差を見せ付けられたことによって二人は黙るしかなくなり最初の様に並んだ。

「折角時間があるのです。彼が作ってくれた時間が。それを有効活用しなくて如何するのですか?」

「・・・・。それもそうですね。あいつに頼っている状況は不服ですけど。考える時間を与えてくれたことだけには感謝しようかしら」

「異議無し」

 大凡三人で決められてしまい、その場にいたにもかかわらず何の意見も言えていないことにい付いたヴォルテスは顔を俯きながら歯ぎしりをした。

「ところでヴォルテス?」

 そんな状態でいきなり大母竜から声をかけられた事に驚きながら、急いで顔を平常に戻して大母竜を見た彼は瞬時に顔を青くした。

「まさかと思いますが。彼に。我々が巨人に対応為るための時間を作ってくれた恩人に。私刑を与えようとは思って居ませんよね?」

 彼が見たのは大母竜のつららのように冷たく鋭い表情だった。


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