二十四話 アダルの現状
結局アダル達が大樹城に到着するのは襲撃を受けてたから三日後のことだった。ヴァールは直ぐにでもこの危機を伝えるべく向かいたがったがそういうわけにも行かなかった。なにせ彼の本来の役割は賓客の護衛。その客達は今現在アダルの結界内にいた。彼が結界を解除することなく気を失ってしまったため動けない状況だった。結界は外からも内からも無理やり破ることは困難。それがアダルが施した物ならばなおさら難しい。それに加えて彼は余計な事に外から結界が見えないように風景に同化させる術まで施していたために結界の場所が分らなくなった。一応レティアが近くに目星となるような施しを行なっていたらしいが、巨人の攻撃によって覆い被さっていたところの木は全てなぎ倒されており、それすら見失った。途方に暮れた二人はとりあえずアダルが目を覚ますのを待つしか出来ず、その日は二人で野営を行なった。彼が目覚めるのを待って。
二日目の朝。アダルは目を覚まし、移動していないことに驚いていた。ヴァールがユギル達に張った結界があって合流も移動も出来なかった事を伝えると彼は納得して結界を解除したことで漸く彼らと合流を果たすことが出来た。外に出られた彼らは皆が皆その光景に呆然と為ていた。結界内からは外の景色を見ることが出来ず、それでいて一切の衝撃が伝わらなかったため、なにが起ったのか伝わっていなかった。それが幸か不幸なのかは分らなかったがここまで景色が変わっているとは思わなかったからこそその光景に驚愕した。どのような敵と戦えば辺り一面の森林の木が全てなぎ倒されて所々焦げるのだと。誰かが口にしたのを三人は耳に拾い、ヴァールはあからさまに同意するように頷いた。それらを焦がしたのは敵ではなく自分だと言うことを隠すように。
結局その日も彼らは全く進むことが出来なかった。薙ぎ倒された木によって道がふさがり、馬車が機能しなくなるためその日はほぼ全員で道を作ることになった。ここでもアダルは未だ体力が戻らないためその行為を辞退した。というかさせられた。彼は戦闘で役に立てなかったからここで挽回しようとしたのだが、それをレティアに止められた。足手まといになると言うことを丁寧な言葉で送られた。しかしそれでも引き下がろうとしなかったためヴァールが無理やり気絶させて馬車の中に運んだ。
次の日になってどうにか馬車でも通れるような道を拵えた彼らは漸くその場から移動することが出来た。一切戦闘に参加しなかった結界組でさえその場に居続けるのは嫌だったで有ろうからと朝になると直ぐにその場から立ち去るように移動を開始した。その際にヴァールは今回の巨人襲撃の件を大樹城の首脳陣に伝えるべく彼を怖がる部下達に護衛を任せて先に向かった。今は眠り続けるアダルの中に封じられている巨人だが、おそらく一体だけという可能性は低い。今回現れた巨人ほど大きくはないだろうが、普通に巨人という種族は存在すると思っておいて間違いは無いだろう。それがなぜ悪魔種に利用されているのかは分らないが、兎に角あちら側の勢力出ある事は間違い無い。警戒を呼びかける必要がある。
そこから彼らは一日ゆっくりと馬車の中に揺られて大樹城に入場することが出来た。本来ならここで使節団が到着したことを国家元首または首脳陣の誰かの所へ赴き挨拶為るべきところなのだろうが、彼らはそれを行なう事無かった。それは完璧に大樹城側がそれを拒否したのだ。招いた途中で大変な目に有ったのだから今は時間が必要。後日またその機会は作るからゆっくりと英気を養ってくださいという心遣いに寄ってそれらを行なう事無く彼らは今ヴァールが治める階層の屋敷で休んでいる。
「・・・・・」
静かにに寝息を立ててアダルは眠り続けている。彼に宛がわれたのは日当たりの良い部屋だった。外は絶好の晴れ日和で雲一つ無い快晴。それなのに温度はさほど上がらず、時折冷たい風がカーテンを靡かせる。まさに快適を具現化したような場所だった。
彼らがこの屋敷に招かれて二日ほど経っている。その間アダルは程一日中この様に眠っている状態だ。
「・・・・・・・。起きませんね。もしかしたらこのまま起きないかも・・」
枕元の台に水を置きに来たレティアは平坦な声で口にする。平坦に抑揚がない故にそのことが冗談なのか本気なのかは伝わらない。
「いつかは起きるだろう。鳥人のことだ。心配するだけ無駄だろう」
彼女の問い掛けに答えたのは窓辺で外を見ながら椅子に腰掛けていたヴァールだった。返答すると彼は愉快げ笑いだした。
「まあ、其方はあまり心配している様子はないと見た。ならばなぜここに来た?」
「そうですね。確かに私はアダル殿を心配してきたのではありません。ですがそれを言うのならばヴァール殿もです。アダル殿が目覚めてもいないのにここに来る必要はあるのですか?」
彼女の問い掛けに彼はまたしても笑う。
「友を心配して来てはいけないのか? 薄情な事を言うのだな」
言葉とは裏腹に彼は全く不機嫌そうな様子を見せていない。彼女の問い掛けに余裕を持って反撃した。その返しにレティアは少し不機嫌そうになったが、数回呼吸をしてなんとか落ち着かせた。
「それで自分が来た理由だったな。そろそろ起きるころだろうと思ってきたのだよ。久しぶりの旧友との再会だ。語りたいことが沢山有るのだからな」
だが彼の眠りは思ったよりも深かった。これまで馬車の中でも眠ってはいたが、それではさすがに疲れなどは取りきれる物では無かった。ちゃんと休養出来る場所に着いて彼は漸く休めたのだ。
「しかしあの鳥人がここまでえ疲労しているとは。前回の戦いは素駒Dえ過酷の物だったのか?」
言葉を向けられたレティアは少し反応に困った。彼の戦闘を自分が語って良い物かと考えてしまったからだ。どうした物かと少し思考して彼女は口を開く。
「アダル殿からしたらそこまでの敵ではないと言うかも知れませんが。私から見たら相当過酷な物だったと思います。私も資料でしか見ていませんが、前回の敵は目から石化させる怪光線を放つ敵だったそうです。それに加えて戦場は主に海中で行なわれました。慣れない戦場と言う事もあったようですがアダル殿は戦闘の最中。共に闘っていた海人種の王子を庇い翼にその光線を当ってしまった様なのです」
彼女の言葉を耳にしたヴァールはその表情をほんの少しだけ変えた。それは目の前にいるレティアでさえ気付かないほど本当に僅かな差。一見するとほとんど変わってないように思えるその顔つきでアダルに近付く。
「相変わらずお人好しというか。なぜそこで味方を庇う必要があるのだ。その者も危なかったのだろうが、そこで自身が弱くなるような行動をなぜ取れるのだろうな。そういうところはこの百数十年の内に変わっていると思って居たのだが。馬鹿は最後まで治らないか」
こいつらしいなと最後に付け加えてヴァールは彼女の方に振り向いた。
「さて、鳥人はどうやらまだ起きない様子だがどうする?」
その問い掛けにレティアは少し考える。彼と話すのも何かしら手だが、如何せん自分と話が合うかどうかという問題がある。正直言って彼とは話したい。しかしその欲求に従って良いのかどうか。そもそもここには今訳あって見舞いが出来ないユギルの代わりに見舞いに行くように言われて来たのだ。未だ目が覚めていないのに長時間ここにいたら何か変な噂を立てかねられない。それが分っているからこそ彼女は悩んだ。悩みに悩んで彼女は有る決意をもって口を開いた。
「申し訳ありませんが、私はここでお暇させていただきます」




