二十三話 突然の幕切れ
余裕を持って回避を取っているように見えているヴァールだったが、実際には余裕など皆無であり、回避行動に専念為るのが手一杯だった。多少のかすり傷程度だったら見逃すが、そうじゃない鱗は回避もしくは破壊しなければ確実に致命傷になるような物ばかり。ヴァールだってこの戦いで死にたいとは思って居ないためそう行動せざる終えない蛇右京なのである。
『背中の大砲。捨てて正解だった・・・』
今思うと心底そう思える。連続発砲したせいでもう少しで使え物にならなくなる寸前だった。だからといって自然に冷えるのを待っていたら時間が掛かりすぎてしまうほど大砲は熱を持ちすぎていた。そのまま冷却慕って使えなくなる可能性もあった。だからこそパージしたがその判断は間違い無かった。何せ大砲がなくなるだけでその分自分の重量が軽くなるのだ。それによってより動きやすくなり、幅も取らない。要は回避しやすいように動きやすくなり、幅を取らないため当る箇所も減るという事になる。捨てた時はそこまで深く考えずに捨てたが、その考えが当って良かったとヴァールは鱗の攻撃を避けながら感じていた。
『・・・・・・。だがこのままではいかないのは確か。なにか次の行動に移らなければこっちが消耗してばかりだ』
嘆息を吐き、次の手を考える。だがまずはこの状況をどうにかしなければならない。攻撃の雨が有る限り次の手を打ったとしても全てが阻まれてしまう。どうした物かと考えるとなにを閃いたように目を見開く。
『別に自分が攻撃しなくても良いのだな。かってに自爆してくれるように仕組めば』
自分でも良い考えを思いついたと満足して笑いそうになったがそこはあえて自制した。
『笑うのは成功してからだな』
自分にしか聞こえないほど小さく呟きながらヴァールはさっそくその手に移った。今まで通り避けることには変わりない。しかしなぜかそこに明らかに不要な動きを混ぜだした。出来うる範囲はあるがで攻撃してくる鱗を寸でで避けてそれに触れ出した。余裕もないのにいきなり違う事をし出したため今までは完全に避ける事が出来た攻撃が徐々に当たり出す。今回は破壊為ると言うことをしていないためそれによって避ける手間も増えた。傍から見えれば疲れが出だして回避仕切れなくなってしまったのだろうと思われるような行動になってしまっている。その体には徐々に竜鱗を裂いて出来た生傷が増え始めていた。半分機械ではあるが、外側は竜の体そのままである箇所が多いヴァールはその傷からは当然ながら出血する。その量は少量ながらも確実にヴァールのダメージになっている。
『仕返しをされている気分になる・・・』
幾ら目的の為の行動だと言え先程自分がやった事をそのまま返されることにヴァールは僅かながら気分が害された。しかし今はそんな事はささいな問題でしか無い。
『・・・・・頃合いか』
丁度五百回ほど迫り来る鱗に触れることは出来た。あのような猛攻の中、傷は負いつつも致命傷を負わないで鱗に触れ続けたことは当然ながらなに大抵な事ではない。彼がなにをしたいのか正しく理解出来る者だったら確実に彼の行なった事を評価するだろう。しかし今ここにヴァールの能力を正しく理解する者はいない。アダルでさえ、彼の能力を掴み切れてはいない。だからこそ彼がやっている事は何かの仕掛けである事は間違い無いが、なにを為るつもりなのかは本人以外誰も分っていない。
鱗に触れるという行為を続けたヴァールは五百回を目途にその行為を辞めて、先程と同じように避ける。破壊するという行動に戻して鱗の射程圏外まで後退を始める。腕の4門の大砲で迎撃された鱗は正確に打ち抜かれ破壊される。それを再開することに寄ってこれ以上ヴァールの体に傷が増えることはなくなった。
『巨人よ。聞こえないであろうが一応忠告しておこう。その鱗での暴雨のような攻め。見事である。しかし行なうのならもっと速く放つべきだ。その程度の早さなら自分にも鳥人にも一切当ることは無いぞ? 鱗を槍のように伸ばすのは良い。しかし一度放った鱗が何度も攻撃しいてきた。つまりは今の攻撃は一度伸縮しなければ再び放つことが出来ない物だと言うことだ。再生能力を持っていないから一本も切り捨てる事が不可能なのであろうが、ならばもっと伸縮を速くした方が良いだろう。あと伸縮していることさえも悟られ内容にしたほうがいいだろうな』
ヴァールのアドバイスが終ると同時に巨人の鱗が十箇所ほど爆炎を上げた。
『!!!!!!』
なにが起っているのか理解しかねた巨人はヴァールが再び攻撃してきた。または新手が現れたと勘違いをして防御力を上げるために鱗を全て縮めた。それがヴァールの狙いであったことも知らずに。
『その特性を敵に利用されぬようにな!』
縮めた瞬間、残りの490箇所が一気に爆発した。
『!!!!!!!!!!!』
その巨体に似合わない程甲高い悲鳴が巨人の口から吐き出される。しかしそれも爆音によってかき消えた。その際発せられるのは硬い物を破壊する際に発せられるような甲高い音。つまりは鱗の破壊に成功したと言う事を意味している。一斉に爆発したことで巨人は痛みのあまり声を上げていたが、それが突如として鳴り止む。それと同時に空を覆っていた巨体が徐々に近付いてくるのが分った。
『さすがにあの痛みには耐えられず、気を失ったか。まさかあれだけの攻撃で意識を奪うことが出来るとは思わなかったが。これはこれで不味い状況下も知れないな・・・』
「ああ不味いね。このままだと俺たちも守っている者達も下敷きになって全滅だぞ」
声のした方に顔を向けると仏頂面のアダルと困惑した様子のレティアが肩のところまで近付いていた。
「どうにかしなければ全滅だ。だがお前はその術をもっていないだろ?」
その問い掛けにヴァールは素直に頷く。それを見え心底嫌そうな表情見えたアダルだったが溜息をしたのち、首の後ろに手をやって首を鳴らす動作を見せた。
「だった等俺がどうにかするしかないだろ。今この状況で全滅を避ける方法を俺しかもっていないのならな」
やりたく無さそうだが、しないわけにはいかない。今は全滅している時じゃない。その考えのもとアダルは再び巨人に対処する事を決めたのだ。
『それで? どうするのだ?』
その問い掛けにアダルは頭を掻いた。
「どうするもなにも。結界を使うんだよ。使うだけで今この状況での全滅は回避出来る」
言い終わると同時にアダルは溜息を吐いて腕を天に向けて掲げる。
「本当は今ここで倒してしまいたいんだが。さすがに俺とお前。そしてレティアだけじゃ火力が足りなかったか」
『そもそもがそれぞれ単体で挑んでいたような物だ。それでは倒せる物も倒せないであろう』
違いないと半笑いで手に力を込めると巨人の落下運動が止まった。
「っ! さすがの巨体だ。結界を張るだけで残り少ない体力がほとんど持って行かれた。これはしばらく寝たきり状態になるのは覚悟しといたほうが良いかもな」
息も絶え絶え。額からは冷や汗が滝の様に流れている。今経っているのも辛そうな状態だ。それでもアダルは腕にさらに力を込める。すると巨人が突如として姿を消した。今まで巨人の巨体によって阻まれていた日の光が地上降り注ぎ、辺り一面を照らした。
「結界を圧縮して俺の体内に飛ばした。これで悪魔種からの干渉も受けられない。しばらくは安心のはずだ。俺の体調が万全にも取ったとき。そのときに今度こそこいつを殺すぞ!」
言い終わると同時にアダルも意識を失った。
「いきなりはっ! ちょっ!」
彼に縋って飛んでいたレティアも共に落下しようとしたがその真下にヴァールガ手を添えていてくれたため落ちなくてすんだ。レティアはその掌にアダルを寝かせると自信も腰が抜けたように座り込む。
「ひとまずこれで巨人の脅威はなくなったと考えてもいいのでしょうか・・・・」
『・・・・・。そうであってほしいものだ。だが悪魔種の脅威が去ったわけでは無いのは確かだ』




