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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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二十一話 重火器の弱点

 アダルに促されるままに彼が指した砲門をみる。為るとその砲門だけではなく全ての砲門が僅かに赤くなっているのが確認できた。

「短時間に大量の火薬を使ったんだ。当然熱も帯びる。ああなってしまえば完全に熱が取れるまで使えなくなるんだよ」

「あの状態で使い続けたらどうなるのですか?」

 頭に過ぎった疑問を直接ぶつける。不思議か彼女は淀みなくそれを口にした。その質問にアダルは僅かに笑ってい口を開く。

「鋼鉄っていうのは熱に弱い。彼の巨人の肌も当然の如く熱を与えたら直ぐに溶けた」

「じゃああれも溶けると?」

「話しは最後まで聞け」

 アダルが説明を始める前にヴァールは次の行動に移った。なんと鉄を帯びた背中の砲門を切り離したのだ。何の力にも縛られないそれは当然の如く重力に負け、勢いよく地上に落下する。地上に到着するとそれらはものすごい音を立てて、軽いクレーターを作った。

「良い判断かもな。あれを再び使えるまで待つのには時間が掛かるだろうから。その間無防備に等しいからな。だったら捨ててしまった方が良いんだろうさ。その分今まで以上に動けるだろうからな」

 ヴァールの判断に彼は賛辞の言葉を贈った。何故あの行動が良いのかレティアは分からない。だからこそ考えた。何故捨てるのが良いのか。熱を帯びたままの状態で何か不具合でモデルのであろうか。先程の証言から溶けることはないのであろうが、他に何かあるのであろうかと頭の中で何か納得のいく答えを探し出す。

「熱を帯びたまま使ってたら、使えなくなると言う事なのでしょうか」

 彼女が考えついたのはこの程度でしかなかった。しかしアダルはレティアがこの答えに辿りついたことに驚く。

「なんで分った? 出来ればその詳細まで聞きたいね」

「・・・・・・・・・」

 その問い掛けにレティアは黙ってしまった。彼女としてもなんとなく頭に浮かんだだけで詳細が分かった訳ではないのだ。その反応を見てアダルは彼女がただ思いついただけだと言う事を察した。

「まあ、目の付け所は合っている。そこに考えが到るとは思ってなかったからな。正直驚いた」

「驚かせることが出来たのなら言って良かったと思いますよ」

 場を和ませるようなことをレティアが発言する。真面目な表情で声に抑揚がなく発せられたその言葉は一見為ると怖く見える。しかし何故かアダルは彼女の反応に笑った。

「その顔で良かったっていったって説得力が無いぞ! なんでそこであえて無表情を選ぶんだよ」

 どうしても笑うのが堪えられないでいるアダルは仕方が無く笑いながら言葉を紡ぐ。

「そこまで笑われるようなことを言いましたか?」

 笑い続けるアダルに対してレティアは少し不機嫌そうな目をしながら訴える。

「悪い悪い。今は笑っているような状況じゃなかったな。反省する」

 漸く落ち着いて来たが、完全に区切るために数回深呼吸をして切替えようと試みる。

「さて、さっきの話しだが。レティアの言ったとおりだ。あれは熱を帯びすぎると使えなくなる。正確には高熱を帯びた状態のまま放っておくとあれは形を変えてしまうんだ」

「その程度はなんとなく分ります。鉄は熱には弱いと言う事を聞いてなんとなくそう言うことなんだろうなって思っていましたから」

 理解が速いレティアならその程度はなんとなく理解しているだろうなとアダルも思って居た。しかしそこまで分っているのだとしたらこれから先説明することも理解出来そうだなとも想った。

「それが分っているんなら話しが速いな。だからこそ普通ならあれは常に冷やしながら使わないといけない装備なんだよ」

「冷やしながらって。そんな事戦闘中に可能なのですか? とても現実的じゃないと思うのですが・・・・」

 確かにレティアを含むこの世界の知識しか無い物だったらそう考えるかもしれない。だがアダルを含むヴァールの兵装について少しながらも知識を持つ者だったらとても当たり前の事なのだ。

「まあ、そう思うのも無理はないが。あれはそう言う兵器なんだよ。そうしないと冷やした後に砲身が裂けて使えなくなる。様は痛めて使えなくなるんだ」

「・・・・・・。案外繊細な兵器なんですね。あの威力と同じく豪快に使っても問題ないと思ってましたよ」

「そんな兵器は存在するわけ無いだろ。どんなに強い火力を出す兵器でも日頃は丁寧に使わないとその威力も出せなくなる。そう言う兵器だからこそ繊細に扱わないといけないんだよ。そこは体と同じだろ」

 なぜそこで体という表現を出したのかレティアは一瞬首をかしげたが、少し考えて納得した。

「確かに言うとおりですね。日頃の訓練で体を痛めル様な無理をしていてはいざ闘うという時にその箇所が禍して本領を発揮出来ませんよね。私達騎士が一番最初に教わることは自身の体の自己管理でしたからそれと同じなのですね」

「まあそう言うことだ。兵士の体もいわば兵器。同じ兵器だったら自身の体であろうと使う物であろうと繊細に扱わないとどっちも直ぐに壊れてしまうことに変わりは無いからな」

 アダルの言うことにレティアはしみじみと響いたように頷いた。彼の言うことは正しくその通りであり、反論する事も出来ないのだ。

「まあ、兵士の体も兵器って言うのは極論過ぎたかもな。いまのは失言ととらえられても仕方が無いよな」

「・・・・・・いえ。それもある意味で正論ですので極論ということはありませんよ。言われてみて確かにそうだなと関心してしまったほどですから。確かに私の体もある意味兵器と変わりません」

 少し陰りを見せながら言った彼女を見てアダルは反省為る。

「君がそういう風な反応をするだろうから訂正したって言うのに。まともに受け取らなくてよかったんだ・・・・・・・!!」

 最後の言葉を言う前にアダルは勢いよく巨人の方に目を向けた。巨人の方からなにやら嫌な気配という物を感じ取ってしまったからだ。そしてそれは見たことによって確信に変わってしまった。

「ヤバいな。巨人が遂に反撃する気になったようだ」

 アダルの言葉にレティアも目を見開き、俯きかけた顔を上げた。アダルが見ている景色と同じ物を見た彼女は顔から血の気が引いた。

「あの・・・・・。私の目がおかしくなったと思いたいんですけど。巨人の肌。というか鱗。明らかに形が変わって、此方の方に向いてませんか?」

 彼女が見た物。それは彼女の言う通りのこと。詳しく言うなら、鱗全体が総立ちになった状態で先端を鋭くさせた状態になっていたのだ。

「ああ、おかしくなってないぞ。巨人の鱗は明らかにこっちを向いている。ヴァールの方にもな。出来れば照準が全て俺たちかヴァールの方に言ってくれると守る方としては助かるんだが・・・・」

「・・・・・殿下達の方向へは向いていない事を祈ります。さすがにアダル殿の結界もあれでは支障があるのですか?」

 アダルはその問い掛けに直ぐに否定するように首を振る。それではなにを心配しているのだろうとレティアが訝しげているとそれが伝わったのか彼は口を開いてくれた。

「何事にも万が一と言うことがあるからな。あっちにいればそれにも太陽出来るからな。まあ今は動かない方が彼奴らの為かも知れないが・・・・・。ああ、来やがった」

 アダルの言葉の後にレティアも確認した。総立ち状態だった巨人の鱗が槍のように高速で伸長し、コチラに向かって来ている事を。レティアは直ぐさま剣を構え、光の壁を作り出そうと為るが、そこである事を思い出した。巨人の鱗には光が効かないことを。既に光の壁は展開済み。しかしそれは延びた鱗によって霧散させられた。それを見た瞬間、彼女は後悔の念を抱きながら自身に迫り来るそれを見るしかなかった。


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