二十話 レティアの思い違い
「あの・・・・・・。勝手に話しを進められていますけど。ヴァール殿が新たに出したあれは何なのですか?」
彼女の言葉にアダルはかってに自己完結した事を反省した。確かに知らなくて当たり前の兵器だが、目の前で出されたら知りたくなるのは人の性だ。それなのにアダルはヴァールガ出した物の性質を教えなかった。様は説明してくれると思って居たレティアはずっとお預けを食らっていた様な物だ。
「すまない。あいつの出した兵器の事だったよな。・・・・・・だが見ていれば分かったんじゃないのか?」
アダルの問い掛けに彼女は頷き、口を開いた。
「確かにそうですが、あれがどのような物なのかは正確には分かりません。私の主観が入っているですからね。だからどのような仕組みなのか教えてください」
確かに彼女の言い分はその通りだ。だからこそアダルは彼女に聞いた。
「じゃあ、そのレティアの主観から見たあの兵器の仕組みを教えてくれ。案外それが当っているかも知れないしな。間違っていたら後で訂正するからさ」
アダルはレティアが一目であの兵器がどの程度理解出来たのかが気になった。だからこそそんな事を口にしたのだ。アダルの言葉にレティアは難しい表情をして少し考える素振りを見せた後、渋々といった様子で頷いた。
「あくまで私の主観かみたものですが、ヴァール殿の使ったあの兵器。見たところ火を推進力にし、当ると同時に爆発しました。おそらく火の魔術が中に仕組まれている物だと考えます。ヴァール殿は砲から火を吹きますから、あれにも火を含めることが可能だと考えます」
彼女の見解は大凡正解である。火を吹けるヴァールならばあの筒にも火の術を付与出来るという考えに到ることが可能だろう。しかし彼女の意見を聞き、アダルはレティアが明らかにヴァールの攻撃を勘違いしているのが分かった。
「まあ、そう考えるのは普通だよな。だけど幾つか間違いがあるからそれを訂正しよう」
そう言うと彼はヴァールの背中の大砲を指した。
「まずあれは別に火を吹いているんじゃない。もっと違う物を発射しているんだ」
「・・・・・・・は? はあ!!」
アダルの言ったことが一瞬理解出来なかったレティアであったが、理解すると同時に大砲に目を凝らした。
「あれが飛ばす物は砲弾。鉄で出来た物で臀部には火薬が仕組まれている」
「火薬ですか! 最近フラウド様の手によって開発されたといわれる物ですよね。確か、火をつけると爆発すると言われる危険きわまりない物のはず」
「だからこそあの威力を発揮してんだろ」
轟音が鳴り響き、巨人の鱗を砕く。
「ですが火薬を使って居るって言う証拠は!」
「ここにいても届く変な臭い。これが証拠だよ」
硝煙の臭いと表現される物こそが火薬を使った証拠。
「だけどなぜヴァール殿が火薬を使って居るのですか! あれは最近漸く開発された物だと聞きましたが」
「そんなのは俺が知るかよ。まあ、火薬の存在を知る奴なんてこの世界で何人かは異端だろうな。その誰かから聞いたんだろ」
自分と同じくこの世界に転生した誰か。フラウドは全員の所在を確認しており、その内の誰かがヴァールに火薬という物を吹き込んだのだろう。もしかしたらヴァールのあの姿もその者によって作られた者かも知れない。
「まったく。誰かは知らないが、なんでそこまで一気に文明のレベルを上げたがるのかね」
アダルはその者に対して呆れる。文明のレベルを急激に上げすぎても良いことなんて無いだろうと彼は考えているからだ。
「話が逸れたな。とりあえずあの砲から出てくる物は火薬を含んでいる鉄の塊。それかそれ並みの硬度を誇る何かだろうな。そこまで詳しくは知らないが。それであいつの太腿にある筒もそれと大体同じ様な仕組みの物だと考えて言い。違うのは中に入っている火薬が多い位だしな」
アダルは説明しながら何故ヴァールがここでその兵器を使って居るのかが気になりだした。
「だけど何であいつはこの場面であれを使っているんだ? 砲撃だけで対処出来そうなもんだけどな」
「ヴァール殿の兵器の使い方に何か問題でもあるのですか?」
「まあ、あるといえばあるんだけどな。別にあいつがあの兵器をどう使って様と俺は知ったこっちゃ無いが。彼の巨人を倒してくれればな」
今言った事が本音である。彼が兵器の使い方を間違っていたって、それを有効活用してくれるのなら。最終的に倒してくれるのならばアダルは文句を言うつもりはない。
「正直言ってヴァールの兵器だが。俺だって詳しいことは知らない。知っているのは名前とその威力くらいだ」
肩を竦めながらに半笑いしながら無知な自分を自虐する。
「それでもあの兵器がどういう物かは理解していました。そして私はそれが知れただけでも言い結果なのですよ」
その言葉はアダルには届かなかった。何せヴァールによる砲撃が豪雨のように続き、それによって憚られたからだ。ヴァールはここで新たに四つの筒を巨人の胸目がけて発射する。それは直撃し、爆発するかと思われた。しかし一行にそれは爆発しない。ここで初めてヴァールの攻撃で不発が発生した。
「まあこれもあり得るのか。仕方が無いか。なににだって不良品っていうのは存在するからな」
思わずヴァールの表情に目が行った。彼もそこまで気にしていると言うことは無さそうだと判断できる。
「火薬だけであそこまでの破壊力を誇るのですね・・・・・」
「別に爆発しているのは火薬だけじゃないだろ。火薬を覆っている鉄やほかの鉱物。それらが爆発の衝撃で疎らながらも鋭利な形に分裂する。それを近くで受けたと思うとどうだ?」
その問い掛けにレティアは青ざめて息を飲んだ。
「別にそれだけがあれの怖いところじゃない。爆発したことによる爆風。それも高熱を纏った物だ。それだけで全身火傷だろうな。爆発その物によっても大やけどだ」
彼女が明らかに体を硬直しているのが分かっている。だけどアダルは聞かせ続けた。ヴァールのもつ兵器の脅威を。
「それに一番怖いのはな。自分が身につけていた物。例えば防具。あれは自分の体を守る為に纏う物だが。それすらもあれは凶器に変えてしまうんだよ」
レティアには容易にそれが想像出来た。それもそうだ。爆発だけであらゆる物を破壊してしまうものだ。それが自分の防具に当たり、爆発した瞬間、爆発の衝撃。爆発の高熱。高熱の爆風。爆発によって出来た飛散物。それに加えて自分の防具が飛び散り、自分に襲いかかってくるのだ。それがもし自分に襲いかかるとしたらろ思うと身の毛がよだつ。
「あれ一発だけで大抵の奴は全身ばらばらになるな。直撃したらそこで人生終了だぞ?」
「・・・・・・。それはそうですよね。体がばらばらになっても生きていける生物なんて数えるぐらいしかいませんし。ですがアダル殿はばらばらになっても生きていけそうですね。そもそも一発程度なら当っても無傷そうですね」
「どっちの返答もNOだ。俺だってばらばらになったらさすがにヤバいし、当ったら普通に重傷だ」
それはほとんど肯定している否定だった。アダルはそれに気付かない。だがレティアはそこには突っ込まない。そんな事は分かっているからだ。分かっていて言った。アダルには再生能力がある。どういう仕組みなのかは詳しくないが、喩え体のどこかが欠損しても直ぐさまに元通りになる。それに彼はそんじょそこらの攻撃では傷付く事は無いだろう。戦い慣れをしている彼は致命傷になるような攻撃は出来る限り避けている。もし避けなくても致命傷にならないように当る箇所を変える技量を持っている。そうでなければ猪王にも軟体獣にも勝てなかったであろうとレティアは考える。
「俺は万能の生物ではない。不死でもないしな。死ぬときはきっと死ぬだろう。まあ今はそのときじゃないんだがな」
「そうですね。もし完璧な生物がいるとしたら直ぐに存在が破綻しまいそうですよね。欠陥があるからこその生物ですから」
二人とも自分は完璧じゃないと言うことを自覚している。それは足りない物を理解しTレいるからこそ。だが二人とも完璧になりたいわけじゃないのであった。
「そう言う意味ではあいつにも当然弱点は存在する。ほら見てみろよ」




