十九話 姿への疑問
巨人の皮膚の表面には黒い煙幕が掛かっている。この状況ではどういう状態になっているのかというのは全く分からない。しかしレティアは先程微かに出来た煙幕の隙間を目にして驚愕のあまり、言葉を失っていた。彼女が言葉を失うほどに驚くような事が発生していた。
「・・・・・・。なんて言うことでしょうか。私の目が悪くなっていないのならば凄い事になってしまったことを確認してしまったことになりますが・・・・・・・」
先程一瞬見た光景が本当に現実なのか一瞬疑ったレティアは記憶が正確かどうか確認しながらもそれが正確であったのだという証明されるように煙幕が晴れるのを待った。数分為ると漸く表面に張った煙幕が薄れると、彼女はやはり自分が見た物に間違いが無かったのだと言うことが証明された。それと同時に彼女は不意に何故かこの状況がおかしくなってしまいからからと笑い始めた。
「あの方はとてつもない実力者と言う事は察していましたが、まさか一回の攻撃で巨人胸部の超硬度の肌を全て破ってしまうとは思いませんでした。しかもあのような燃費がとても悪そうな方法で行なってしまうとは。さすがの私も脱帽です」
燃費が悪いとは誰が言えた物かと隣で聞いていたアダルはそう思うだけで口にはしなかった。
レティアは目の前で起きた事が自分の中でキャパオーバーした結果突発的に賛辞の言葉を贈っていた。それはもう無自覚に。だからこそ自薦の言っている矛盾点に気づかないまま何の疑問を抱くことなくそを口にしていた。
「まったく。あれだけ出来るんだったら最初から一人でやれば良い物を。俺に変な疲労させやがって」
対するアダルは恨み節を吐きながら嘆息する。彼はヴァールが行なったであろう目の前の光景をただ当然の様に受け入れていた。彼はヴァールの現在の実力がどういう物だったは詳しくは分かっていないなにせ別れてから百数十年の時が経っており、その間も連絡という物を二人は一切してこなかった。アダルは百五十年ほど引きこもっており、ヴァールも態々連絡を寄越すような人物ではなかったから。それだというのにアダルはヴァールが行なった事を微塵も疑う様子もない。何せ彼はレティアと会話をしながらもその様を見ていたのだから。
「だが、幾ら何でも力業であれを対処とは思わなかったぞ。それはレティアもいえる事だが。もうちょっと他に方法はないのかよ」
剰え彼は批判まで口にする。それは自分が攻撃一つするのに厄介だった巨人の肌を二人ともあっさりと対処した物だから立つ瀬が無い彼のやっかみでもあった。
「どのような攻撃であれ、敵対者に効くのなら何でも良いのでは? 戦いは常に流動的。力で押し切れるのならばそれでも良いと思うのですが?」
少し現実逃避から帰ってきた彼女からの言葉はある意味では正論である。しかし結局は理想論。彼女の言うとおり、戦いは常に流動的である。それに対応為るのにはどうしても力だけでは足りないのだ。
「まあ、文句はここまでとしてだ。ヴァールはこの後どう動くと思う?」
これ以上語っても同じ問答の繰り返しになると悟ったアダルは話題をヴァールガ次、どのように動くのかという事に切替えた。
「・・・・・・・。このまま攻め続ける。というわけにはいきませんね。巨人の鱗を粉々に撃ち抜き、破壊しましたから、その報復が来ることは予想出来ます。ですがそれがどのような物かまでは予想が出来ませんね。ヴァール殿はそれを物ともしなさそうですが・・・・・」
漸く現実に戻ってきた彼女は思案顔になりつつも、ヴァールの次も行動を導き出そうとする。
「まあ、答えなんて見ていれば直ぐに分かるんだがな。・・・・・・・ほら、次も動きに移行した」
アダルが言ったとおり、ヴァールは次の行動に移していた。彼は巨人の攻撃が来る前に自身の体を変化させ、太腿になにやら先の丸い筒を四つずつ装備させた。
『!!!!!!!!!!!』
これまで攻撃され放題だった巨人はここで爆発音と聞き間違うような低い悲鳴を上げた。それにより空気は震え、地上の木々は揺れに耐えられなくなったようにどんどん倒れていった。その轟音は一行に収まる気配を見せない。きっと巨人は人生で初めての激痛にどう対処すればいいのか分からず、声を上げるしかないのだろう。それもあのような強靱な皮膚を持っているのなら当然共言える。つい数十分前まで一切の痛みを知らなかったのだから。
『ただ鱗を剥いだだけでそこまでの声を上げるとはな。案外貧弱なのだな』
その声は明るくはあったが、少しの失望が交じっていた。何せ今の悲鳴で分かってしまったのだ。この巨人はこれまで一切の戦いを経験して来なかった個体であり、戦闘力も大して存在しない。ただ、大きく、強靱で突風を吹かせられて、飛ぶことが出来る。その程度の後退でしかないということが分かってしまった。
『強靱な皮膚以外は他の生物を大して変わらないと見て問題はなさそうだな・・・・・』
太腿の筒を全て剥き出しになった巨人の胸に標準が合わせる。
『放て!!!!』
ヴァールのかけ声と同時に筒の臀部から勢いよく火が噴いた。それを推進力となって全ての筒は高速に乗り、空気を切り裂いて標準目がけて飛翔する。
『!!!!!!!!!』
筒は全て直撃すると同時に大爆発を起こした。それを六発連続で受けた巨人はさすがに飛翔することが出来なくなったのか羽ばたきを辞めてその体勢のまま着陸する。着陸によって大地は揺れ、それによって近くの山が崩れた。
「まったく。誰があんな物の知識を与えやがったんだよ」
呆れることしか出来ないアダルは先程ヴァールが使った兵器を見て思わず笑ってしまった。
「あれが何か分かるのですか? 私からしたら全くの未知の兵装なのですが・・・・」
「まあ、そうだろうな。今ヴァールが使った兵器は知っている奴の方がこの世界では異分子だから気にしなくてもいい。知らないのが正常なんだよ」
だが、なぜかヴァールはそれを知っており、剰え自身の兵装に加えている。それは何故なのだろうと思案する。するとアダルはある考えが頭を過ぎる。それは彼が自分と同じ転生者なのかも知れないという結論が。そう考えてみると彼の姿は転生者ではなければおかしいような格好している。そんな事を今更ながら気付いた。でもそれはあり得ない話しだ。何せアダルは過去ヴァールに前世があるかと聞いた事があるからだ。しかし帰ってきた返答はNO。変なことを聞くからと笑われる始末だった。数日前から共に行動をしていても変装していて言動こそ変えていたが、本質的には変質しているとは思えない。
「だとしたらあいつにこの兵器のことを伝えた誰かがいるんだろうな・・・・・」
自分にしか聞こえない様に小さく呟きながらヴァールの姿を見る。彼は先程の飛翔する砲。ミサイルを発射させつつ、砲門でも攻撃を仕掛けていた。前世でも知識はあっても実際に見たことがなかったその兵装達。それを備えているヴァール。その姿は正しく戦艦その者。
「誰だよ。こんな偏った攻撃兵器の数々をあいつに教えたのは。会って説教したくなってきた」
アダルの中ではヴァールの兵器達はまだ今のこの世界の者達には速すぎる物ばかりだ。それを惜しげも無く知識をひけらかすように教えて、剰えそれがヴァールの手によって作られた。
「まだあいつだけがあの兵器をもっているだけ幸いな方か。どこかの国の軍隊がもっていたらと考えと寒気がする」
この世界に速すぎる兵器の存在が今後どのように影響していくのか。アダルはただ危惧するしかなかった。




