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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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十六話 異常なレティア

「はあああああああ!!!!!!!」

 かけ声を上げるレティア。最初の奴から合わせて6度目となる攻撃を仕掛けていた。最初の攻撃で巨人の皮膚の半分を持って行った彼女は二度目の攻撃で完全に鋼鉄の皮膚を取り除いた。その後も彼女は体力と生命エネルギーを消費したのにも関わらず、毎度同じ威力で技を繰り出し続けている。六度目となる今回も三箇所目となる攻撃箇所を作り終えて尚、その表情からは一切の疲労を感じられなかった。

『お前。本当に人間かよ』

 アダルはその事実を見て驚愕のあまりそんな事を口にしていた。毎回毎回消費する体力と生命エネルギーの量は傍から見ても膨大。一回に使用する生命エネルギーの量は戦闘に活用するにしても五年分の量は行っている。下手したらその一撃だけで死んでも可笑しく無い。それを彼女は連発している。それに加え、全く衰えを見せない剣筋。超硬度の巨人の皮膚を切り続けているというのに、最初の一撃を変わらない威力で放ち続けていること。いや、もしかしたらスピード自体はほんの微かに速くなっているのかも知れない。その辺は微妙なところだった。しかし速くなっていたとしても不思議ではない。最初の一撃から何回も同じ物に猛撃をし続けているのだ。切り慣れてもおかしくはない。十分異常なことだがそのくらいならあり得る話しだ。アダルがレティアを人間なのかと疑った原因。それは、彼女の体力の無尽蔵さだ。幾ら体力が日頃から余っていると言っても限度がある。全ての生物にはその限度という物が存在し、それを超えると運動機能は低下する物だ。彼女がこれまで六回も放った技。普通の人間なら一回行なうだけでその限度を迎えるだろう。それが一撃で死んでも可笑しく無いといえる要因だ。この技を放つだけでもたらされる運動機能の低下は尋常ではなく、生命活動に支障を来しても可笑しく無いレベルにいたる物も存在するだろう。だが彼女はその一回では飽き足らずに六回続けて放った。それでも尚、一切の疲労を感じていないように見えるのだ。それだけでまだレティアは余韻を残しているのだという事を証明して仕舞ったような物だ。

『レティア。お前、体力お化けかよ。なんであんな命賭けるような技を続けて放っておいてそんな涼しい顔でいられるんだよ』

 レティアのそんな不思議極まりない生態に疑問を抱いたアダルは思わず彼女に効いてしまった。すると彼女は困り顔をしながらに答えた。

「さすがに疲れは感じています。私も人間ですので。ただ、他人よりも体力が多いのは自覚していますが、それが何故なのかは私にも分かりません」

『・・・・・・・・・・。そうか。お前にも分からないことだったのか』

自分の疑問はどうやら解決しそうにはない。そのことが少し不快感を覚えたが、直ぐにそれをぬぐい去る。

『三箇所も傷を作ってくれて感謝する。ここまでやってくれたんだ。もう休憩しても良いが、レティアはどうする?』

「・・・・・・・・・・」

 アダルからの言葉は一見挑発の様にも、労いのようにもどちらにも捕らえることができる。どちらで捕らえたら良いのか分からないレティアは数秒間その場で考え込んでしまった。これには純粋な労いのつもりで言ったアダルも言葉のチョイスを間違えたなと、少し反省した。

「折角の申し出ですが、お断りさせていただきます。まだ私に出来る事がありそうなので。・・・・・それに攻撃できる箇所は多い方が良いと思いませんか?」

 そう言うと彼女は又違う場所まで移動し、同じように攻撃の準備に入った。

『真面目なんだか。強気なんだか。・・・・・・・どっちもか』

 彼女のそのひたむきに己の仕事を全うしようと為るその姿に、アダルは呆れるしかなかった。

『お前も彼女を見習って、いい加減に準備しろよ。いつまで俺の手の中にいるつもりだ』

 いまだ手の中でなにもせず、ただじっと観察を続けて言うヴァールに対して苦言を入れる。確実に聞こえているアダルの言葉に彼はわざとらしく馬鹿にしたように笑った。その態度に一瞬怒りを覚えたが、こういう奴だったと言う事を思い出して直ぐに持ち直す。

『時間は稼いだ方だろ。そろそろ動いたって問題無いはずだ』

「別に動きたくないわけではない。この程度の敵ならお前とあのクリト王国の騎士だけででも事足りるだろう」

 そう評価してくれるのは勝手だろうが、現にアダルは攻めあぐねているし、彼女だってこの巨人を倒す為の準備をしてくれているのに過ぎない。幾らレティアが皮膚を削ってくれていたって、巨人にとっては小さな傷に過ぎない。その状態では二人の最大火力で巨人を討伐することはできない。

「昔と比べて随分と卑屈になった物だ。そんな性格だったか?」

 ヴァールの中にある過去のアダル像はいつも自信過剰でポジティブな印象だった。無鉄砲で正義感。そんな彼が今やその片鱗を見せる事がない。それは良いことかも知れないが、昔を知っているヴァールからすれば違和感しか感じない物だった。

「・・・・・・。まあいい。そろそろお前の言うとおり、ジッとしているのに飽きていたところだったのだ」

 彼はおもむろに腰を伸ばすとその場で軽くジャンプをした。普通なら重力に捕まり直ぐに着地する物だが、彼は浮いたままだった。この時点で彼の変化していない。竜である彼にはもちろんのこと翼が存在する。しかしヴァールはその姿のままで浮遊していた。

「鳥人。お前は自分になにをさせたいのだ?」

 挑発為るような笑みを浮かべながら、ヴァールはなにをするべきか問うてきた。その顔は明らかにアダルがなにをして欲しいのか分かっていてしていた。

『そうだな・・・・・・・・』

 その顔が気にくわないアダルはなんとかその表情を崩してやりたいと思った。そのときに脳にある考えが巡った。

『じゃあ、こいつを倒してくれ』

「・・・・・・・・は?」

 アダルの言った言葉はヴァールが思って居たのとは違った。彼の想定では、レティアと共に巨人の皮膚の対処を為るようにといわれると思って居た。それが巨人を倒してくれと来た。そのような事を言われるとは思わなかったヴァールは呆けるしかなかった。

『お前は今の今まで俺にばかり巨人の対処を任せていたんだ。俺はさっきの事で疲れていてな。どうしても休みたいんだよ』

 別にどうしてもというわけではないが彼はわざとらしく演技口調で言い切った。さすがに巫山戯ているという事はヴァールも分かっている。アダルは少し闘っただけで披露するようなことが無いほど体力を持っている。そして敵を目の前にしても休めたいなどと言う無責任な発言をしないことも。しかし先程の発言も本当の事を言っているのだろうとも考えた。何せ分かってしまうのだ。アダルの目が明らかに疲労困憊な状態にある事を。少し闘っただけで。しかも一回自爆技を使っただけでこんな状態になるわけがない。昔のアダルしか知らない為今の彼はこういう性格なのかも知れないが、ヴァールの目から見て今の状態は明らかに異常と判断できた。なぜこの様な振る舞いをするのかと考えた末に、考えられる可能性ではあるが、それを発言してみる事にした。

「お前。もしかして本調子じゃ無いのではないか? 体が相当疲労しているようにも見える。もしかするとだがここに来る前に体力を大量に持って行かれるような技を使ったのではないか?」

 その発言にアダルは思わず息を飲んだ。まさかそこまで見破られるとは思わなかったのだ。

『そこまで見破られてるのか。まったくもって何でそんなに直ぐ俺の状態が分かるんだよ』

 アダルは降参を表すように両手を挙げた。

『お前の言うとおり、今の俺は本調子じゃない。実はここに来る前にも、悪魔種の仕掛けてきた獣と闘ってな。そのときにお前の言う体力を大量に消費する技を使用したんだ。そのせいで、俺の体力はまだ回復していなんだよ』


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