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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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十四話 アダルとヴァールの出会いの切っ掛け

 アダル、レティア、ヴァールの三人は巨人の肌を撫でるように飛んでいた。いや、実際に飛んでいたのはアダルだけで、他二名はアダルの手の中にいた。レティアは一行に慣れる気配のしない飛行に少し気持ち悪いような顔をしている。対するヴァールは巨人のその頑丈そうな肌を見て興味深いように観察していた。

「凄いな。近くで見るとよく分かる。これは本当に硬いようだ。これならどんな攻撃でも弾いてしまうだろう。傷をつける事すらも叶わないな」

『そんな事は分かっている。さっき身をもって体験したからな』

 先程の経験を思い出したアダルは少し悔しそうに返す。その声にヴァールはおかしく思ったのか思わず吹き出してしまう。

「珍しいな。お前がそこまで正直に悔しがるとは思わなかった。以前会った後に何か苦い経験でも積んできたのか?」

『・・・・・・・』

 揶揄うように茶化して半笑いで口にした。その言葉にアダルは言い淀んで言葉を発することができなかった。

「本当にらしくないのだな。もしかすると先程、自分が口にした事を本当に経験したのか?」

『・・・・・・・。ああ。経験したぞ。それはもう酷い景色を見てきた。以前お前に嗾けられて大樹城で闘う事になったとき以上のトラウマを植え付けられたよ』

 それは過去に聞いた事が無いほど暗い声だった。その声からヴァールはアダルが相当酷いことを体験したのだと言う事を察した。

「それは災難だったな。あの時以上とは。大変だったなとしか言えないな」

『どの口が言いやがる。あれはお前のせいだろ。さすがに死を覚悟したんだぞ!』

 ヴァールの発言にアダルは先程の暗い声が嘘のように大きな声を彼に浴びせる。

「いや、あれは半分はお前のせいだと自分は思うぞ?」

『言わせたのはお前だろ!』

 アダルは思わず呆れた様に目を瞑る。

「アダル殿とヴァール殿はご面識がある様子ですが。一体いつからの知り合いなのですか?」

 そんな二人の中の様さが気になっていたレティアは未だに気分が優れていない中、それを切り出した。彼女としては不思議だったのだ。二人のやり取りを聞いても、それは昔からの知り合いだとしか思えないやり取りだった。しかし効く所によるとアダルはここ百五十年はずっと大森林の洞窟に籠もっていたと聞く。それは彼女の祖先の証言もあるため確証できるだろう。それだとしたら彼らはアダルが籠もる以前からの付き合いになるのではないか。彼女はそれがどのくらいの期間になるのか気になって思わず聞いたのだ。

「出会ったのは百九十年前だったな。そのときはまだ生れて十年ほどしか経っていなくて大きさも人間と変わらない大きさだったと記憶しているが」

『ああそうだよ。初めてお前と会ったのはそのときだ。ヴァールもヴァールでその当時生れて間もないって言うのに一人旅に出てた。そのときはまだ人化ができなくて襲われているところを助けてやったんだ』

「そうであったな! いや、懐かしい。しかし助けてやったとは恩着せがましいな。あれはワザと襲われるように仕向けたのだ。その当時の自分には金を手に入れる術がなくてな。いや、あったが面倒だったから手っ取り早く襲わせて返り討ちにしてその者がもっている所持金を奪うと言う事をやっていたのだ。それをお前が邪魔をしたのでは無いか!」

 抗議の言葉にアダルは舌打ちを返す。

『いつまでそんな昔のことを覚えているんだ。しつこいと嫌われるぞ?』

「安心しろ。もう手遅れだ」

 開き直った返答に言葉を詰まらせてしまう。先程の竜人達の反応を見るに確かにそうとも言える。彼の身になにが起ったのか。アダルは知らない。自分と別れた後、ヴァールも悲惨な目に遭ったのであろうと言うことは竜人達の反応を見れば分かる。彼らがヴァールを見て畏怖していたのはおそらく彼の本気を見たことがあるからであろう。今の様子から見ても彼は中々本気になることがない。そんな彼が本気にならざる追えない状況とはなんなのだろう。アダルはそれが気になっていた。

『お前も大変な目に遭ったんだな』

「別に大した事などはしていないのだがな。少し本気を見せただけで怖がられてしまった。やはり大きい力を持つ者を怖がる習性は大竜種も他の種族も変わりないのだな」

 どこか諦めめいた物を彼の言葉から感じられた。それでも彼の声は明るい。それが今の彼を表しているのだなとアダルは察するしかない。何があったのかは聞きたいが、それを聞き出すつもりはない。何せ自分も過去にあったことを誰にも語ってない。フラウドにも。ヴィリスにも。語られることでもないのだから。そんな事を隠しているのに他人にズケズケと入っていくほどアダルは図太くないと自覚している。

「自分はそれ程気にしていない。だからそんな重い空気になることはないぞ! 自分はその程度で恐怖される存在だった。ただそれだけだって話しだ」

 言っていることは他人と自分。両方を批判しているが、その声音は変わらず明るいまま。

『相変わらずポジティブだな。俺より輝いているように見えるぞ』

「それは褒め言葉として受け取っておこう。それよりもそろそろ本題に移った方が良いだろうな。この様子からしてそろそろ進行を開始しそうだ」

 巨人は出現してから一行に動こうとはしなかった。それはどうしてなのかアダルにも分からない。だが、だからこそ攻撃がし放題である状況だった。まあ、それは簡単にはいかなかったのが現実であるが。

『傷をおっててもお構い無しに動く気かよ。やっぱりあの程度じゃかすり傷程度って事か』

 忌々しそうに舌を鳴らす。

「表面をどうにかすれば傷をつけることは可能だとお前は言っていたと記憶しているが。間違い無いな?」

『ああ。だがそれが困難だ。さっきも言ったが俺もどうにか皮膚を高熱で溶かして攻撃したが。それだけで体力を持って行かれる。そもそも俺の熱攻撃はほとんど自爆技だ。再生能力がある俺だから使える技とも言えるが、切り札と同じであまり使いたくない技だな』

 そうかと答え、考え込むヴァール。

「いっその事その切り札で巨人を攻撃してみるというのはどうだ?」

 妙案とは言えないのはヴァール本人も分かっていることだろう。ただただ思いついたから言ってみたという表情をしていた。

『話し聞いてなかったのかよ。俺の光の攻撃はあの肌には聞かないんだよ。触れた瞬間に霧散して終わりだ』

 呆れながらに自分の攻撃が効かないと主張するとレティアは不安げに手を上げた。

「それでしたら私も役に立たないと重いのですが。私の剣は光属性の剣。アダル殿に戴いた剣です。きっと私が攻撃をしても同じように霧散するのが目に見えていると思うのですが・・・・」

 彼女の言葉も尤もである。アダルも思わず頷きかけるが、その前にヴァールが口を開いた。

「鳥人はべつにその剣を当てにして君に頼ったわけではない。君のその実力に目を着けてここに連れてきたのだ。そう自分を悲観することは無いと思うぞ?」

「・・・・・・。別に悲観していたというわけではないのですが。確かにそうですね。ヴァール殿の言う通りかも知れません。私の力は別に剣の能力だけではありませんでした」

 ヴァールの言葉を切っ掛けに彼女は何か踏ん切りをつけた様子であった。勢いよく立ち上がると当時にアダルの手中をいきなり駆けだし、そして飛び出した。

『っ!』

いきなり彼女がした突拍子も無い行動にアダルは焦る。しかしすぐにそれが杞憂だったと感じた。アダルの手中から飛び出したレティアはそのまま落ちるかに思われた。しかし層は鳴らなかった。彼女は光の膜を足場にしていたのだ。彼女の勢いは変わらず、階段状にした光の膜を駆け上がっていき、自身の剣の攻撃射程まで近付くと、剣をぶつけた。


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