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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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十三話 選択の判断

 アダルは考える。血が滝の様に噴き出している傷口を眺めながら。引くべきか。攻撃を続けるべきか。それとも他の箇所に同じ様な攻撃を仕掛けるべきなのか。その三つで悩んでいる。この巨人は動きがのろい。そう考えると二と三の行動が適切なのだろう。攻撃がどのような物であったとしてもそれもおそらく遅いと考えられる。そして遅ければ避けるのは容易だ。しかし彼の直感が言っているのは一と三が正解で、二は間違いだと言うことを。何故間違いなのか。それは分からない。いや、正確には分かっている。しかしそれのなにが悪いのだという考えが巡っているのだ。三つともにメリットとデメリットが存在する。そう考えた中で二の行動にはデメリットを帳消しに出来るほどのメリットがあるのは確かである。

『だけど、これは俺が楽をする考え方だよな』

 そこまで考えて二の行動を行なう事に疑問を抱き、否定する考えに到った。確かに攻撃を続けるという行動は彼に取って今一番楽な事なのだろう。この巨人にはアダルの攻撃が効かない。だからこそ確実にダメージを与えられる場所を作って、そこを集中的に狙っていったのだ。だがこの方法は今機能を停止しようとしている。巨人がどこを動かしているのかは分からないが、きっと胴体に一番近い腕が動いているのだろうと言うことだけは判断できた。そしてその腕でなにを行なおうとしているのかもなんとなく理解している。巨人はきっと今できた傷を手で塞ごうと行動を起こしているのだろう。巨人の巨体からしてあの出血量ですらかすり傷の部類なのだろう。しかし今まで鋼鉄の皮膚に守られていたためその掠り傷ですらおうことのなかった巨人は生れて初めての痛みという物を感じている。過去におったことすらない傷なら、それはそれは痛いであろう。だからこそ今が攻め時。これを逃す手はない。

『だからこそ。今はやるべきじゃ無いか』

 確かに攻めるなら今しかない。手で傷口を塞がれていしまったら先程と同じように自分の攻撃が効かなくなる。他に傷口を作ろうにもアダルの体力を浪費するだけ。引いてもその間に痛みになれて今後は同じ様な手は使えないかも知れない。だからこそ攻める。それはあまりにも自分勝手で楽な道過ぎる。大事なのはこの巨人を倒すこと。そのためだったらどんなに浪費したって構わない。今は引くべきなのだろう。それによって新たに道が。攻略法が生れるのだったらそうするべきだ。それに攻撃を続けることが悪いことに繋がると直感が訴えている。それだったらここに残るべきではない。そのために彼は二の行動に出ることを拒否した。そして悩む。どちらの選択が正解なのかを。

『こういうときは一人で考えるんじゃなくて、他の奴の意見も聞いた方がはやいが・・・・・』

 それだと実質的に一の行動に出てしまう。どうした物かと考えていると何かを閃いた様な声を漏らした。

『別にこれ考えるまでもなく、一緒にやればいいんじゃないか?』

 そのような考えに到った彼は、『そうだよ』を何回か連呼して、自分を納得させるような言葉を紡ぎ出した。

『なんでこんな簡単な事を思いつかなかったんだよ。そうだよ。全部俺がやらなくても良いんだよな。何せ助っ人は沢山いるんだ。ヴァールに他の竜人。それにレティアだっている。俺が与えた剣は役に立ちそうにはないが、別に剣の力を使わなくてもやりようは存在する。何だよ。随分と簡単に纏まることだったんじゃないか!』

 自分の発言に相槌を打ちながら納得してみせる。

『さて、善は急げだよな。彼奴らもきっとこの巨人の対処には苦労しているだろうしな』

 そう言うとアダルはその場から少し下降して翼を羽ばたかせ、体の向きを変えた。

『ヴァールもいることだろうし、全滅はしていないだろうな。そもそも巨人に圧倒されて攻撃すら仕掛けていないだろうな』

 先程巨人の顔を見たとき、巨人の目は自分たちを捕らえて異様には見えなかった。ただ下を確認為るためだけに向けられたように思える。だから巨人は自分たちの存在すら認識していないようだ。

『まあ、心配は無用だと思うけどな』

 アダルは不安など微塵も感じていないように呟くと飛翔して先程彼らといたところまで飛んだ。ここ最近飛ぶことが多かったため、必然と引きこもっているときに落ちてしまった翼とそれを動かす背中の筋肉が戻ってきたのか、自然と彼の飛翔速度は上がってきている。それこそ百五十年間の最高速度に戻りつつある。そのことはアダルも実感している。しかしそれでも彼は満足していない。何故なら彼はもっと速く飛翔したいのだ。それが出来れば、どんなに遠いところでも早急にいける。それが出来ればどこに悪魔種が襲撃して来ても対処出来る。そう思えるから。だからといって彼はそれを急いでやるべきだと言うことは思わない。物事には順序があり、それを飛ばすと厄介な事が起ると言うことを身にしみて分かっている体。だから今の彼に出来る事は少しずつ限界値を上げることだけ。それも無理の無いほんの少し。結局はその積み上げで行くしかない。

『まあそれでも少しずつ限界値を更新するのはいつやっても楽しいもんだな』

 過去に既に到ったスピードでも、今それを出せるとは限らない。何せアダルは百五十年も翼を休めていた。だから彼としてもこれはリハビリに近い感覚も持ち合わせている。

 そんな事を考えていると直ぐに地上にいるヴァールやレティア達の姿が見られた。数人の竜人の騎士達は腰を抜かしている様子で巨人を見上げながら立上がることも出来なくなっている。レティアはそんな彼らを無理や立たせて、結界を張ったくぼみ近くにまで誘導していた。ヴァールはただ単に巨人がどのように動くのか観察しているようで、全く動く気が無い様子だった。

『なにやってんだよ。手伝ってくれる約束だっただろ?』

 アダルは地上に着地、膝を立てた体勢に成りながら文句をヴァールに向け吐いた。

「すまんすまん。あの巨人の生態が気になってな。しばらく観察していたのだ。それで? どうだった? 先程から苦しそうな表情を続けていたからお前の攻撃が通じたのだろうけどな」

『なに言ってんだよ。こいつの皮膚。光を散らす効果があるみたいだから俺の能力は通じていなかった。それに恐ろしいほど堅い。そのせいで攻撃を通じさせるために苦労する羽目になったんだぞ』

 アダルの訴えにヴァールはふむふむと口にしながら頷いている。

『お前の言った通り間接部を狙ったが、俺の力が通じない。だから攻撃する場所を変えて、いろいろ試してやっとの思いで皮膚を対処した』

「さすがだな。だがその様子だと相当苦労したんだろうな。どうしたんだ?」

 暢気に返答する彼にアダルは頭に手を添えた。

『ああそうだよ! 手に高熱を纏わせて皮膚を溶かしたんだ。そのせいで両手とも炭化寸前までになったんだぞ!』

「それは大変だったのだな」

 それだけ言うと彼はからからと愉快げに笑った。

「そこまで大変な事までやったというのに。お前は攻撃の途中でこっちに戻ってきた。何か理由があるんだろ?」

『当たり前だ。巨人がその傷を塞いだ。ここで倒すのは確定として。お前とレティアにこれからどうすべきか意見を聞きに来たんだ』

 突如名前を呼ばれたレティアは驚愕の声を上げた。

「私もですか!」

『あんたも戦力として数えているからな。当たり前だろ』

 アダルの言葉にレティアは唯々呆然と納得したように頷いた。

『お前はまだ姿を戻さないつもりか?』

「できればそうしたい。自分は何故巨人があそこまでデカくなったのか知りたい。だから観察していたのだ。竜に戻ってしまったら、敵と認識されて観察ところではなくなるであろうよ」

『そんな心配こそ不要だと思うぞ? こいつ、全く俺たちのことを認識していないようだからな。もし認識していても小動物が怯えて逃げ回っている程度にしか考えていないだろうな。それに今巨人は他の事に意識が言っている様子だ。だからさっさと竜に戻れ!』


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