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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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十二話 攻略の糸口

 自身の高熱を放っている手によってどんどん溶けていく巨人の皮膚。高温の液体となっていくそれは重力に逆らえずに地上に垂れていく。間近でその光景を見ているアダルも巨人の真下にいる事は変わりないので、それによる被害を受けていた。

『ああ、これ翼に掛かったら地上に直撃コースだな』

 胸に掛かったのを感じたアダルはその熱さを感じて、そんな事を呟いていた。彼だって生物であり弱点という物は存在している。それは彼自身が前から自分は完璧じゃないと言っていたことだから自覚している。そして勿論のこと痛覚も存在している。再生能力をもっていてもそれは変わることがない。だがそれでも彼は平気で四肢を切り捨てることがある。それは自身の胴体に危険が迫ったり、光神兵器の材料とするためだったりと理由は様々だが、その程度は簡単にやってしまう。しかし痛覚が存在するためその行為はとてつもない痛みとストレスをアダルに与えている。しかし彼はそれを平然とした顔でやってしまうため早めから見たら彼には痛覚が無いのではと思う存在も出て来たこともあった。そんな事無いとアダルは訴えたいが、これは自身の弱点に繋がる事なので言えるわけもない。ただアダルはその行為をするときには今でも痛みを感じている。ただそれによって生じる痛みに慣れてしまったのだ。

『問題は皮膚を溶かして俺の攻撃は通じるのかどうかだな』

 彼的には正直言って通じて欲しい。いくら他の対処法があったとしてもアダルの主力は光の攻撃。それが通じないことにはこの巨人はアダルに取って相性の悪い敵のままである。

『そのときはそのときだが。頼むから俺にこれ以上疲労を与えないでくれよ!』

 叶わない願いを口にしているとアダルの手に柔らかい感触が伝わった。それは鋼鉄の皮膚とは感触がまるで違う。

『漸く鋼鉄の層を抜けたか。ここからが厄介なんだろうけどな』

 アダルはさらに腕の温度を上げつつ力む。それによってアダルの腕の周辺の鋼鉄の皮膚を爆発させると、一気にただれ落ちた。それによって巨人の柔らかい肉がアダルの目の前に拡がった。

『こいつには再生能力は無いな。これだけでも良い収穫だ』

 自身の体にただれた鋼鉄が着いていないのを確認すると、一度手を除けてたった今爆発させたところを観察して、歓喜した様な声を出す。その間にも彼の腕は徐々に赤みが薄くなっていった。三十秒もしないうちに完全に熱がなくなり、残ったのは黒く焦げた炭化寸前の腕だった。

『だからこれはきらいなんだよ』

 光を全身に覆い、一瞬発光するとアダルの体は全ての傷を再生させた。彼はそっと目を両腕に向け、動作に異常が無いかを確認する。

『問題は無いな。まああっても困るが。というか俺の再生能力の精度が上がってきている気がするんだが』

 前から少し思って居た疑問。それが今になって気になり出す。

『前に炭化寸前まで使ったとき、確か一回じゃ回復しきれなかったよな? それなのに今回は一回で治りやがった。なにが原因だ?』

 アダルはそこで完治した腕を見ながら考え込もうとする。しかし直ぐに止めた。

『ったく、俺は直ぐに目的を見失って考え込むな。今はこいつに集中する事を忘れる所だった。こういうところは前世から治って無くてうんざりするところだわ』

 自分に厳しい言葉を吐き捨てると彼は先程鋼鉄のような硬度をもつ皮膚に効かなかった攻撃を試してみようと、腕に光を収束させた。

『ここからが本番。気合いを入れ直して、仕切り直しと行こうか!』

 言葉を紡いでいる間に数メートル程下降して巨人から離れる。その間にも右腕は爛々と輝きを増していく。そして腕の形状が徐々に変化していく。徐々に長くなり、そして先端は鋭く尖っていった。それはさながら巨大な剣のように。

『ウラァ!!』

 声を上げて右腕を振るう。剣の形状をしているためその際に空気を切る音が生じる。目でギリギリ追える早さで振るわたそれは先程溶かし、剥き出しになった柔らかい部分に直撃する。すこしの抵抗を感じたアダルであったが力ずくで剣を振り切った。振り切ると同時にアダルはけだるさを覚え、剣は先程と同じように霧散した。

『・・・・・・・・。ああ、失敗失敗』

 剣の形状でなくなった右腕を見て、アダルは嘆息する。

『少し皮膚に当ててしまったのか。それは消えるわけだ』

 アダルの肩に何か液体が垂れてきた。それからは暑さを感じなかったため、先程熔解した巨人の皮膚というわけではないのが直ぐに分かった。なにがたれてきたのかを確認の為に顔を向けると、そこには黄色みの強い粘度をもった液体が着いていた。

『だけど攻撃をする箇所を作れただけでも良しとしようか』

 その液体がどこから垂れてくるのかを追ってゆくと自然とアダルが先ほど攻撃を仕掛けた箇所に目が向けられる。そこには巨大な刃物で切りつけられたような裂傷が存在しており、液体もそこから生じていた物だった。つまりこの黄色の液体は巨人の血液であった。それがなにを意味するのか。つまりは皮膚を溶かしさえすればアダルの攻撃が通じるという証明にもなった。

『こうなればこっちのもんだな』

 自身の攻撃が通じたことが想いの他嬉しかったのか、自然と言葉が踊った。そして再び攻撃を仕掛けようと準備を始める。先程は手に収束させていた光を今度は足に収束させ始めた。収束が終り、足が白く発光し出すとその場で縦回転を始めた。回転のスピードは徐々に速くなっていき、彼の姿を捕らえることが出来なくなった。見えるのはただ白く発光する円の閃光。しかしスピードはまだまだ上がった。どこまで上がるのか分からないがまだ上限はあるのだろう。発光もさらに強まったそのとき。閃光から半月状の発行物が飛び出した。それは一つだけではなく無数に出現した。それは回転のスピードも相まって高速で裂傷の箇所に飛翔する。それも全てが寸分の狂いもなく。よける事も防ぐこともないから半月状の発光物は全てが裂傷に直撃した。直撃した琴により、傷が拡がり、新たに血も吹き出していく。形状から分かるかも知れないが、それは薄く鋭くした光の刃だった。

 先程より増えた傷と出血量。裂傷から吹き出る血の量はもはや豪雨を思わせるほど激しかった。そこで初めて巨人が反応を見せた。彼が今攻撃しているのは胴体。そのため顔は見えないが明らかにアダルの攻撃で苦しんでいることは分かる。証拠に巨人の体が震え始めたと思ったらゆっくりと皮膚がない箇所を動かしていた。巨人が動いたことによって十数枚に及ぶ光の刃は皮膚に当たり霧散した。

『そんなゆっくりで俺の攻撃から逃れられると思うなよ!』

 馬鹿にするなと言いたげにアダルは標準を修正し、刃を射出する。修正した甲斐あって、再び、攻撃は裂傷の箇所に刃は当たり続ける。巨人の体はアダルの攻撃をどうにか避けようと再び動く。しかうぃアダルに二度も同じ方法は通じない。巨人が動くことも想定内であり、標準をきちんと定めているためアダルの攻撃は当たり続ける。それによってより裂傷が増え、そして深くなっていく。従って血の量は先程よりも多く吹き出している。まるで滝の様に吹き出していても未だそれは衰えを知らない。傷口をみてアダルは巨人の血液量に思わず嘆息する。

『別に出血死させたかったわけじゃないが、これじゃあそれも見込みがないな』

 言い終えると同時にアダルは回転を抑え始め、光刃も射出するのを止めた。回転を止めると同時に上部からものすごい勢いの血が降りかかってきた。今まで回転の遠心力によって防げた事に気付いたアダルは思わず舌打ちをした。

『また失敗だよ。これ、どうやって抜け出すか』

 考えても仕方が無いのが分かっていたため、アダルは直ぐに血の滝から抜け出し、体に付着した血を自身の温度を上げて一気に蒸発させた。そのタイミングでアダルの耳が何かを捕らえた。「ごごごごご・・・・」とまるで地震のような地鳴りがし出したのだ。それが何かは分からないが、未だ音は遠く、動作もゆっくりである巨人が何かを仕掛けてきたと言うことだけは理解した。


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