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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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八話 壊される平穏な時間

「ふあっ、ぁあああぁぁっ!」

 ヴィリスと離れてから六日経過した。この日もアダルは唯々暇そうに時間を経過為るのを待った。もってきた本も三日で読み終わり、何回か繰り返して読んでいたがとうとう内容に飽きてしまい、二日前から読んでいない。今までは目の前にヴィリスという話し相手が存在したが、今は馬車の中で一人。時間を潰すような物は本以外もってきていないアダルは現在暇を持て余していたのだ。仕方が無く外の景色に目をやるが、現在は代わり映えのしない山林地帯を通過中であるため、見えるのは代わり映えのしない木ばかり。それに加え、窓から入る日差しのぬくもりも相まってアダルは現在睡魔に襲われていた。暇を潰す為に眠るのはもったいない気もするが、最近自分の体をいじめ続けていたし、たまにはこういう風にゆっくりと睡魔に身を任せても良いかもしれないと考え始めた彼はゆっくりとその瞳を閉じる。

「・・・・・・・。久々だな。こんなにのんびりとした時間は」

 しみじみとこの時間を愉しむことに決めたアダルはのんびりとした雰囲気に浸る。普段だったら見る事の無いアダルのだらけた姿。それはこの空間にいるのが彼一人だから出来た。少しの時間が経つとアダルは男にしては綺麗な寝息を立て始める。

 代わり映えしない森の光景。のんびりな雰囲気。まさに平和を絵に表したような光景だ。この様な場所だからこそアダルは気を抜いて寝ていられる。まあ外で護衛をしている者達がいることが条件で寝ているのだが。護衛をしているのは皆強者ばかり。戦力に不安があったらアダルは気を張り続けるが、今回はそうではない。それはアダルの信用の表れとも言ってもいい。なにもなければアダルはこのままある程度の時間までは眠り続けるだろう。

「・・・・・・・・・・・。ちっ!」

 しかしアダルは直ぐに目を覚ました。そしてある方向に目をやるなり舌打ちをしてドアを開く。

「止めろ! 何か来るぞ!」

 アダルの声がその場に響く。馬車の運転手は直ぐに馬に止まるように引っ張り、その場に停車する。

「アダル殿・・・・・」

物であった。

「いつから気付いていた?」

「恐れながら、私もつい先程気がつきました。それこそアダル殿が停車を促す数秒前に」

「そうか。・・・・・何だと思う?」

 その問いかけに彼は警戒を解かずに思考を始める。そこに険しい面持ちのレティアも合流為る。

「何かが接近しているのですね」

「そうだろうな。確実に悪意のある何かが。全く面倒な事になったもんだ」

 悪態をつきながら乱暴に頭を掻くアダルは何かに気づいた様にある方向に目を向ける。そして視線はそのままにゆっくりと膝を曲げてしゃがみ、地面に手をあてる。

「振動を感じる。おそらく体がデカい奴だな」

「動きは・・・・・。大きい割りに俊敏のようで」

 アダルに倣って地面に手を付けたフードの物は困った様に返答する。それを効いていたレティアはアダルは向いている方向に体を向け、腰の剣に手を添える。

「巨体と言うことは悪魔種に属するものである可能性が高いということですね」

 すでに臨戦態勢は出来ているということを意思表示するレティア。

「敵であることは間違いないだろうな。だが、そんなにはやるな。まだどんな能力を持つものなのか分かっていないからな。それにまずはやることがあるだろ」

そう言いつつ、アダルも翼と腕を変化させる。そして視線をフードの者に向けた。

「お前もいい加減そんなことしてないでフードを取って手伝え。まずはユギルたちの安全の確保だ」

 言葉にしながら少し離れた場所まで歩くと腕を発光させ、それで地面を力強くたたく。瞬間。轟音を上げて土煙が舞うが、アダルが翼を羽ばたかせてそれを吹き飛ばす。土煙がなくなったことでアダルが叩いたところを中心に半径十メートルほどの窪みを作った。

「とりあえずここに非戦闘員を入れろ。俺の力でここに結界を張るから」

 窪みの中から指示を出すと、皆がそれに従った。皆が非戦闘員をどこに匿うのか迷っていたのだ。ここは森の中で今接近している敵は巨大ということは分かっている。その場合木陰に隠れたらそれが倒れた時巻き込まれ、押しつぶされる。それだけはどうしても避けたかった。それを知ってかアダルは窪みを作ってくれた。彼がどういう考えの元これを作ったのかは判断しかねるが、ここは従った方がいいと次々と非戦闘員を入れた。

「お前たちは入るか?」

 アダルは一応拒否するだろうと思いながらもこれまで護衛してくれた騎士団にも聞いた。彼らは難しい表情をしてお互いの目を交差させる。

「部下たちは実力が不足していますから入れさせていただきます」

 声を上げたのは護衛の指揮官であるレティアだった。彼女の言葉に騎士たちは驚愕と批判の声を上げた。

「隊長、自分たちは戦えます。ここであそこに入れば自分たちは何のためにここまで護衛の任を続けてきたのですか。戦うのなら自分たちも戦います」

「そうだぜぇ。俺たちはこれでも自分の仕事に誇りを持っているんだ。それなのにあそこに入れってことはその誇りを捨てろって言ってんのと同じだぜ」

 騎士の中で自己主張が強そうな二人が反論する。そのほかの騎士たちも目で逃げるつもりはないと意思表示をしていた。騎士としてはいい心構えともいえよう。しかしレティアはそんな彼らの考えを聞いたうえで、尚自分の考えを変えるつもりはない様子だった。

「いいですか? 私たち人の騎士たちは他の種族の戦士たちに比べて明らかに打たれ弱い。何せわれらは風が吹いただけで運悪く命を落とすほどひ弱な種族なのです。それゆえに能力の限界値もほかの種族より低い。言ってしまえば我々はこの大陸で一番弱い知的種族といってもいい。われら人種がほかの種族より優れているのは繁殖力だけ。それで我々は数が多いことを有用に使ってこの大陸にいくつかの国を作ってこれたのです。しかし今はその長所を発揮できるほどの数はいない。数がいたところで今襲い掛かってくる敵に勝てるかどうかもわかりません。なら命は無駄にしない方がいいに決まっている。そうは思わないですか?」

 彼女が述べた言葉はすべてが正論だ。それは上げ足を取ることができないほど。騎士たちは皆がその言葉を前にして何も言えない状態になった。

「それだったら貴女もあそこに入るべきじゃないのか?」

 声を上げたのは先ほどの二人のうちの騎士の割にノリの軽そうな男であった。彼は飄々とした態度を崩さず、その場に恐ろしいほどなじまない程軽い拍子でそれを言ってのけた。その発言に意表を突かれたレティアは一瞬目を見開き、驚愕している。

「そうです! これに入れというのならば隊長も共に入ってください! 体調もわれらと同じ人なのです。言葉が悪いようですが、外にいたところで何の役にも立たない可能性が高いのですから」

 その隙を見逃さなかった騎士がレティアを問い詰める。彼らの主張は尤もである。何せ先ほど彼女自身が振りかざした主張なのだから。

「・・・・・・・・それは出来ません。私はこの隊の責任者にして、王族の守護者であり剣。つまりは殿下の戦力として、殿下に降りかかる火の粉を払わなければなりません。それに私の心配なら無用です」

 少し考えたが、彼女の考えは全く変わった様子がない。それどころか豚たちが自身の事を心配しているのだということに考えが至ったことで少し穏やかな表情になった。

「私にはこれがあります。御爺様がアダル殿より頂いた奇跡の剣が」



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