六話 姉妹トーク
ヴィリスの元に合流したミリヴァはその後彼女に引っ付いて離れようとはしなかった。従者の元達がどうにか彼女から離そうと試みたが無理だった。穏便な方法と強引な方法のどちらとも。結局折れたのは従者のほうで、彼は疲労から来る体の怠さとミリヴァへの呆れから来る微妙な表情で二人とも馬車に乗せた。そこでもミリヴァはわがままを言ったが、これ以上彼女の好き勝手はさせたくなかったその者は徐ろに耳元である事を呟くと大人しくしたがった。
馬車の中でヴィリスは終始ミリヴァの玩具のような扱いを受けていた。別に酷いことはされてはいないが、いろいろな髪型を試されたり、体を触られたりなど。まるで人形の様な扱いだ。一応ヴィリスも抗議はした。主に体を触られたりした時はそれは強く。何せ触ってくるのは旨やら尻やら。時には来ている服の中に手を偲ばせようとした時も存在した。だから抗議をした。為ると彼女は何故か顔を紅潮させて、息を荒げ始める。その反応を見てヴィリスは察したこれは言っても駄目な奴だと。だが、彼女は知っている。こういう輩にはどのように接するのが良いのかという方法を。だから彼女は言ったのだ。正直久しぶりに会ってこの様な傷つけるような事は言いたくないという気持ちは勿論存在した。だが、ミリヴァにはこれを言わないとより激しいスキンシップをとられかねないと判断した彼女は意を決して放った。
『これ以上こんな事するなら私。姉様の事嫌いになるから』
言われた瞬間のミリヴァの表情はそれはそれは滑稽な物だった。その瞬間の彼女だけを見れば普段が美しい顔立ちだというのが信じられなくなるほどに。もし従者の者達がそれを見たのなら誰もが
声を上げて笑っただろう。彼らはミリヴァに確かな忠義をもっている。だが普段からその
我が儘ぶりに振り回されているため多少言いたいことを秘めている状態でもある。そんな彼らは普段から彼女に対して遠慮はしない。ミリヴァもそんな彼らを罰したりはしない。偶に言い過ぎのせいで酷い目に遭う者も存在するが、それを見ても従者達は態度を改めない。そんな彼らがその表情をみたら確実に笑いものにされるのは目に見えている。その場合はミリヴァも遠慮はしないだろうなとヴィリスは昔を思い出しながらにそう思った。
話は逸れたが、その後ミリヴァはヴィリスから離れて大人しくなった。よほど先程の言葉が効いたのだろうと考えるとヴィリスは少しの罪悪感を抱きながらも言って良かったと安堵した。
そんな事もありながらヴィリスはミリヴァの住んでいる屋敷に着いた。見るだけで懐かしくなるが、ここで感傷に浸らないように心がけて中に入っていく。そこから彼女はミリヴァの後を唯々付いていった。その間ミリヴァから一切声が掛からなくなったのは心配為たが、先程の事が未だに効いていると思って居るからの行動だと思って少し悪い事したなと反省する。彼女に着いていく事十分ほど。屋敷の最深部にある部屋の扉前に到着する。
「ここも懐かしいでしょ」
扉を開き中に招かれて入る。そこは主にヴィリスが寛ぐために創った部屋。そこには高級なソファやテーブル。本棚にびっしりと収まっている本に、どこかの風景が画かれている絵画。確かに昔と変わらないなと思いつつ彼女の言葉に唯々頷いた。中に入りなり当然の如く一度部屋を見渡した後に、ソファに向かって足を進める。
「外ではなにをしていたの?」」
そんな部屋に通され、最初に聞かれたのは勿論外での彼女の行動。つまりなにをしていたのかと言うこと。少々ヴィリスに対して過保護気味なミリヴァは彼女がどのように生活していたのか心配でしょうが無かった。だからこそ今聞ける内にという思いが先攻して仕舞った結果一番最初にそれを切り出してしまったのである。
「まあ、いろいろとやったよ。出来ることなら」
ソファに腰掛けて、対面する彼女の目を見て返答する。だがそれだけ言っても納得してくれる様子ではなかったため、彼女は言葉をつづけた。
「孤児の保護とか教育とか。ある国の役人もやった事あるよ。あとは・・・・」
他になにをやったかなと記憶を思い返していると不意にミリヴァの笑い声が聞え、それを中断した。
「どうして笑うの?」
笑っている彼女が不思議らしいヴィリスは首を傾げて訊ねる。
「いや、ねぇ。まさか外に出てやった事がそんな内務的な事だったからさ。つい笑っちゃった。ご免ね」
謝罪の言葉は吐いてはいるが、全くそれからは誠意が伝わってこない。しかし全くミリヴァからの謝罪の言葉が欲しいわけではなかったヴィリスは彼女が何故謝っているのか理解していない。ヴィリスからしたら今の言葉はまったくもって謝られることではないからだ。だから彼女へ向けられている視線は未だに何故謝ったんだろうと不思議そうな目を向けていた。
「だけどヴィリスも変わっているね。大抵竜の血を引いている我々が外に出てやることなど決まっているけど。それをやらないなんて」
「・・・・・・そうだね。だけどそれじゃあこの力を頼っちゃう事になっちゃうし。扱いきれる自信も無かったし。・・・・そもそも私は戦いが得意じゃないから」
彼女の発言を耳にして、ミリヴァはその言葉を全面的に肯定するように何回も頷く。
「危ない目には遭わなかった?」
「数回あったかな? 私って見た目が目立っちゃうみたいだからある集団に狙われていた時期もあったし」
彼女自身何故自分のような者が狙われているのだろうとその当時思って居たし、正直今も何故狙われていたのか理解していない。彼女は自身の容姿に全く自信を持てないでいることがこの様な考え方をさせている。しかしその容姿は美少女その物。一部のゲスの考えを思えば狙われて当然の容姿をしている。
「それは大変ね。で、その集団はどうなった?」
ミリヴァは張り付けた様な笑みを浮かべているが、その雰囲気は隠せないほど怒気が滲んでいた。不思議と言葉からも気迫が感じられ、ヴィリスは思わず気圧されてしまう。
「ず、随分昔の。外に出たての頃の話しだからその集団は多分も存在しないんじゃ無いかな? 人間で構成されていた組織だったから」
「・・・・・・・・そう。存在しないのね。もしその者達が未だに存在していたのならわたくしの手で滅ぼすところだったけれど。それなら仕方がないか」
愉快げに笑い出しているが、今発言した言葉には全く嘘は交じっていない。何せミリヴァは竜でヴィリスを狙った集団は人。どのように足掻いたところで彼らには勝ち目など存在しない。しかもそれが妹を狙った者だったのならミリヴァは怒りにまかせて一方的に殲滅する事は目に見えている。
「・・・・・・・・・。あと、医師の真似事もやっていたこともあってね。そのせいで何故か私の事を崇めてくる人もいたことがあったんだ」
早く話題を逸らしたかった彼女は少し恥ずかしいことだが、自分に信仰の対象になった事を報告する。
「ミリヴァを崇めるなんてその者達は見る目があるわね」
笑い話になると思って居たら何故か彼女は崇めた者達の事をヴィリスの魅力が分かるとし認めたのだ。これにはさすがにヴィリスは困惑為ることしか出来ずに、諸に表情にも出た。
ミリヴァはその表情を目に収めて何故かだらしない表情となり、
「だけどヴィリスのこんな表情を見せてくれるのはわたくしだけね」
と何故か勝ち誇ったような態度を取った。その間も彼女はただあわわとすることしか出来なかった。ミリヴァはそんな彼女をずっと眺めていたいと考えていたが、悪ふざけするのはここまでだなと思い至り、これ以上は余計な茶々は入れない事に決めた。彼女は言われたくなかったのだ。先程馬車の中で放たれた言葉を。




