三話 大樹城よりの迎え
翌朝。アダルが目を覚めると外が少しだけ騒がしく感じた。今回の旅路において騒がしくなるような者達はいないと思って居たアダルは不思議に思い、護衛の騎士達が組み立てたテントから緊張感をもって抜け出る。
「・・・・・・・・・・・どうなってんだ?」
外に出た彼が目にした光景は騎士の甲冑を纏った集団が護衛の者達に変わって、野宿の撤収作業を行なっているという者だった。甲冑はフルアーマー出会った為、騎士達がどの種族なのか外的に判別がつかない。その光景を目にしたアダルは思わず疑問をそのまま口にして呆然とした。しかし過ぎに勝機に戻って、どこの国所属の者達か判別しようと試みる。しかしその鎧は汎用であり、どこの国でも使われているため所属を見極めるには無理があるのも察した。
「とりあえず、知っている奴に聞くのが良いか」
何故このような状況に陥った事を知るものに。彼は当たりを見回して、その者を見つけるとそこに足を運んだ。近付いていると彼女はフードを被った者と話し合っている様子だった。
「おい。これはどういう状況なんだ?」
アダルの声に二人とも反応を示す。その内の一人。レティアはアダルと目が合うとまず軽く頭を下げてきた。
「おはようございます。よく寝られましたでしょうか、アダル様」
この様な状況でありながらまず朝の挨拶から始めるレティア。そして丁寧に紡がれる言葉からは一切の動揺という物が感じられない。こういう緊急の事に何故かこなれている様子すら窺える。挨拶されたので返す余裕はあるアダルはおはようと返答し、言葉を続けた。
「さっきも言ったが。これは一体どういうことだ? 何故こんなに騎士達が増えている」
アダルの問いかけに、彼女は直ぐに返答した。
「この方々は大母竜様が迎えに差し向けた使者だそうです。そうですよね?」
確認するのはフードを被った者。その者はアダルに向き直って胸に軽く手を添え、軽く前屈みになった。
「まずは混乱を招いてしまったこと。大変申し訳ありません。先程レティア殿が仰ったとおり。我らは大母竜様よりあなた方を迎え入れる為にコチラに赴きました」
フードを被っていて素性を見せず、発せられた声からも性別を判断することは出来なかった。そして他の物達と違い、自分の素性を知らないはずなのにその者は丁寧に対応してくれる。そのこととこの者達が本物の使者であるのかという疑問を抱いたアダルはワザと試すような事を口にした。
「良いのかよ、俺に対してそんな歓迎するような事を言ってしまって。他の奴等と違って俺は歓迎されて無いと思うんだが?」
無礼になるような言い回しに、レティアは一瞬目を見開いた後、疲労の表情を滲ませた。
「そんな事はありません。我らの主。大母竜様は貴方の事も歓迎しておりますよ。アダル様。いえ、鳥人様と呼んだ方がよろしかったでしょうか?」
使者の者が放った呼び名に苦笑いをするしか無いアダル。
「アダルの方で良い。今は名前をもらえたんだ。そっちで呼んでくれ」
彼の要求に従う旨を口にしながらその者は頭を下げる。其れをアダルは失礼であるが、いやみたらしい目を向けていた。使者が放った鳥人という彼の呼び名だ。竜に連なる物が名前が無い彼を呼び時に勝手に言ったのが、他の物達も同じように呼ぶようになった。アダルからしたら嫌な思い出を思い出す呼び名である。
「それで? 我々は本物でしたか?」
聞かなくても反応で分かるだろうにとアダルは苦笑いを続ける。使者の言葉にレティアは咎めるような鋭い目を向けてきている。
「鳥人という呼び名で俺を呼んでくるのは大竜種の血を引く者しかいない。その恰好は怪しいが、この集団はどうやら本物のようだな。疑って悪かったな」
アダルは明らかに表情を変えて、素直に謝罪する。しかし彼の発言にもの申したいことがあったのかその後徐ろに耳元まで近付いた。
「だが、他の奴等がいる前で鳥人という名称は出すな。彼奴らはその呼び名を知らないんだ。混乱を招くだけだぞ」
「・・・・・・。ご忠告。感謝いたします」
小さな声で行なわれたそのやり取りは近くにいたレティア出すら聞えないほど地位無い声で行なわれた。言い終えたアダルはそっと後ずさり、再び周りを見渡す。どうやら撤収作業はほぼ終了しようとしていた。全てのテントは片づけられ、たき火後も残っていない。そして明らかな違和感に気がついた。撤収作業が終わりに近付いているのに、他の護衛対象の姿が見られない。今回騎士達の護衛対象になっているのは大母竜の娘であるヴィリス。そして客賓として招かれたクリト王国の第二王子であるユギル。そして最近大陸にその名をはせ始めたアダルの三人。しかしその内の二人の姿が見えないのだ。
「もう馬車に乗っているのか?」
状況から判断して二人とも彼より早く起き、既に搭乗しているのかと考えたアダルはレティアに問うた。すると彼女は何故か微妙に言いずらそうな表情を見せ、軽く顔を背けた。
「ヴィリス様は先に大樹城へ向かわれました」
彼女が言いずらかったことをフードの者はさらりと口にした。
「そうか。これも大母竜の指示でか?」
それを聞いたアダルは感情を乱すこと無く問うと、彼は頷く。
「それだったら従うしか無いな。というか拒否するなんて選択肢なんかないもんな」
「・・・・・・。そうですね」
アダルの意見にフードの者は意外そうな声で返す。彼にこの事を伝えたら怒りを露にすると思って居たからだ。しかしその態度は先程より軟化した。其れを不思議に思いながらも彼の言っていることはその通りなので同意したのだ。
「馬車だったらあとどのくらいで着くんだ?」
「正式なルートを通りますので一週間ほどで着くかと」
レティアに聞いたつもりだった質問を答えたのはフードの者。彼はさらに言葉を紡ぎ出した。
「これより先は我らも護衛として参加させていただきます」
その発言にアダルはレティアに目配せをする。すると彼女は仕方ないことと諦めた様に頷いた。その様子から見てユギルも了承済みで後は自分がするのみと言うことだろう。
「そうか。少し長い期間になるが、これからの護衛を頼む」
ここで拗らせるように拒否しても仕方が無いことは分かっているため、アダルは抗わず了承した。
「ヴィリスは先にいったんだろ? あいつはどのくらいで着くんだ?」
正式なルートで一週間かかる。しかし今回彼女を迎えに来たと言う事はそれ程緊急な案件という事を表しているのだろう。だったらそんなのんびりとしたルートは通らず、緊急のルートで向かったと考えるのが打倒。アダルが気になったのは緊急のルートで向かった場合の時間だった。気になったら収まりがつかないのを自分の欠点として理解しているが、どうしても抑えが効かず、問うてしまった。アダルのその問いかけにフードの使者は珍しく答えるのを躊躇った。その反応を見てまあ仕方ないことだと理解を示す。だからアダルは次の一言を待った。
「・・・・・・・・。大凡ですが、一日あれば着きます」
ためらい、考えた末に彼は答えてくれた。我らと言ったと言う事は大竜種の力を使って一日。其れはスピードなのか。それとも術式的なにかなのかは答えてくれないだろう。そして今から自分だけ追いつこうとしたって、既に追いつけないほど遠くに行ってしまっているのだろう。まあ、そこそこ本気を出せば追いつけないことはないのだろうが、アダルとしてはこれ以上竜の血を引く者達に厄介な事をしでかしたくないと誓っているため、子オは実をひいた。
「俺の興味に答えてくれたこと感謝するぞ。答えたくは無かっただろうによく返答してくれたな」
「感謝のお言葉。ありがたく頂戴いたします。ですが出来ればこれからはあまりわたくしらを困るような発言を出来るだけ控えていただけるとありがたいです」
「其れは保証しかねるが、出来るだけ努力しよう。お前等を敵に回すのは二度とご免だからな」




