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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第三章 金剛の翼巨人
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序幕 大樹城・祭祀の間


 大陸の真ん中に存在する世界樹。其れはまさに天に届くほど巨大であり、幹は大陸中心部を占める。一説には星が出来た時よりこの場所に鎮座していると言われる正しく伝説の大樹だ。とても厚い皮は物理的な物はおろか異能寄せ付けなく、どのような攻撃もはじき返す防御力が存在する。そのため大竜種はその皮をどうにか加工して武具や防具とする。

そんな無敵に近い皮に覆われている世界樹だが、その中は意外かも知れないが空洞が存在する。勿論全てではないがある程度の高さまでは空洞なのだ。大竜種の始祖である〈次元竜 ウルガス〉ここに大竜種のための国を創った。その中心にはかの存在が作り上げたという巨大な城が存在する。それは人が住む城とは明らかにサイズが違う。竜のための城であるためだ。そこの最上階には祭祀の間と呼ばれる場所が存在する。ここは竜達がある儀式を行なう場所であり、大母竜と呼ばれる大竜種の指導者が住まう区画でもある。

「ヴィリス様がコチラに向かっているとのこと。要請に応じてくれたご様子です」

 声を発したのは大母竜からの要請書をヴィリスに渡したザードという大母竜の直属の竜人だ。彼は片膝をつき、顔を上げずに淡々と其れを述べた。彼が報告を挙げる人物はそれを聞き、祭祀の間の天井を見上げる。彼女こそが大母竜と呼ばれる現在の大竜種の指導者。そんな彼女の視線の先には藤色の玉が浮かんでいる。

「そうですか。あの子は帰ってきてくれるのですね」

 帰ってきた言葉だけで見ると心配為ているように聞えるが、声からはなにも感情が見えない。その人物は一度俯き、ザードに向く。純白の修道服を着た人間の姿をする彼女は足を進め、ザードに近付いてきた。

「報告はそれだけ?」

 問われた言葉にザードは無意識に息を飲む。額からは冷や汗が滲んで着ている。心なしか、胸の鼓動が早くなるのも感じ取った。別に彼は怒られているわけではない。ただ問われただけだ。彼女の前ではいつでもこの様な反応をしてしまうのだ。其れは緊張をしているのか。それとも彼女が放つオーラに飲まれているのか。本人には判断がつかない。

「いえそれだけではございません大母竜様。どうやらヴィリス様が数人の者達と共にコチラに向かっているとのことです」

 己が抱いているそれらを表には出さないよう心がけ、返答する。頭は下げているため額の冷や汗も見せていない。

「友達を連れてきてくれるのね。その者達への歓迎の対応は出来ているの?」

「問題はありません。」

「そうですか」と言うと彼女はまた踵を返した。

「ヴィリスと共に来る者達はどのような方々?」

「クリト王国の第二王子。その護衛のための騎士が五人ほど。それと光の鳥人と伺っております」

 祭祀の間に存在する質素な椅子に腰掛ける彼女は光の鳥人という言葉に反応を示した。

「その者が気になりますか」

「ええ。昔知恵を授けた者と特徴が同じでしたから」

 衝撃的な言葉を聞き、ザードは思わず顔を上げ、大母竜の顔を伺う。残念ながら灰色のヴェールに隠れているため其れは見えない。そこで己が失態を犯した事に気付き、急ぎ顔を伏せた。

「申し訳ございません」

「構いませんよ。あなたは少し真面目が過ぎる。主が許すまで顔を上げないという古い仕来りを守る者など他にいませんよ。それにわたくしはフランクな関係を望んでいます」

「・・・・・・申し訳ございません」

 返答に困ったザードは言葉を返せず、ただもう一度謝罪の言葉を言うだけだった。

「まあ、いいでしょう。それよりあなたが聞きたい事は先程の発言のことですね」

 顔を伏せたまま頷く。彼の真面目さに呆れながらも彼女は言葉をつづける。

「言葉通りの意味です。臆測ですが、わたくしの言った者でしょう。彼以外に鳥人は存在しないのだから」

「・・・・・・・そうなのでございますか」

 大母竜の断言にザードは呆然としてしまった。本来ならそんな事はあり得ない。彼が大母竜直属となったのは約百年ほど前。丁度彼女がヴィリスを産む当たりだ。それからずっと彼女の元で働いている。その間に大母竜に直接会った外部の者は両手の数ほどしか存在しない。その中には鳥人などという存在はいなかったと記憶している。そもそも大母竜が直接知恵を与える程の人物など稀なのだ。彼女の知恵を求めてやってくる者も存在する。しかし其れは叶う物では無い。彼が知る中でここ百年で大母竜より知恵を授けられた者は三人。クリト王国の先々代国王フラウド。長生種の新たな賢者となった者。そしてここ百年の中で唯一子供の中から其れを受け取ることが出来たのがヴィリスだった。彼が大母竜の部下になる前にも知恵を授けた者が存在するとは聞いた事があるザードだったが、その詳細は伏せられている。暗黙の了解として彼女直属の者達は伏せているのだ。その者達の情報を晒して仕舞った場合、よからぬ事を始める者を出さないために。勿論授けた者には口封じが行なわれる。それは死ぬまで解けないと言われる。それを大母竜本人が自ら語った。これは衝撃的なことなのだ。術を掛けるのは大母竜であり、その効力は彼女には効かない。それでも彼女はルールは守る。しかしいま大母竜が行った事は自らルールを破ったのに等しい行為だ。其れを行なった事にザードは驚きのあまり呆然としていた。

「なにを呆然としているのですか」

 伏せたままでも呆然としているのは分かってしまったらしく、彼女の声で正気に戻ったザードは己を恥じる様に強く噛みしめる。

「申し訳ございません。お見苦しい所をお見せしてしまい」

「別に構いませんよ。あなたの様子を見るにわたくしの言葉が失言に思えたようですね」

 顔を見せてはいないのにそこまで分かるのかと益々彼女への畏敬を深めながらただ頷く。

「たしかに些か口を軽くしてしまいました。これは言うべきではありませんでしたね」

 反省の態度を示すが、ザードからは其れが見れない。ただ言葉からみて其れを察することは出来るため、急ぎ話しを逸らそうと違う話題を探す。

「我が子等にはヴィリスが帰ってくることは伝えましたか?」

 彼が話題そらしを考えている最中、言われたくない話題が上司より飛んでくる。そのことに彼の鼓動はさらに早くなった。

「・・・・・・子息の方々全員に伝えました。しかし・・・・」

 内心穏やかではないがどうにか言葉を選んだ。これだけ言えば理解してくれるだろうという想いもあり、ここまでしか口にしなかった。

「その様子だとほとんどの者が歓迎的ではないですか。まったく、妹の久々の帰省だというのに嘆かわしい」

 自身の産んだ子供達に対して呆れと失望の混ざった言葉でなじる。しかし彼女の行なった事を考えれば一概に彼らを責めることは出来ない。何せ彼女は兄姉を殺した。自発的ではないにしろ其れを行なってしまったのだ。避ける事は当然かも知れない。誰も彼らの二の前には成りたくないのだから。

「ご報告を続けさせていただきます。そんなご子息の中でミルヴァ様とヴァール様は歓迎しているご様子でした。ミリヴァ様に到っては自らの屋敷に招くとまで仰っております」

「そうですか。其れは良いことを聞きました。あの子がそこまで言うのならヴィリスは任せます。他の客人は同じ態度を示しているヴァールに対応して貰いましょう。あの子なら昔旅に出て、外を知っています。彼らを無下にすることはないでしょう」

「は! そのように伝えさせていただきます」

 大母竜の言葉は決定事項。いくら反論したとて其れは覆せない。だとしても勝手に客人対応を任せられるヴァールはどう思うのであろうかと考えてしまう。

「不服ですか?」

「いえ。大母竜様が決めたことを否定することなど自分には出来ません。ただ疑問に思ってしまいまして。・・・・・ヴァール様にその役目を務めることが出来るのかと」

 ヴァールと言う竜は言ってしまえば変わり者だ。普段は自身の屋敷に引きこもり、本を読みあさったり、変な遊戯を興じている。其れを兄姉に馬鹿にされようと決して怒ることが無い語尾がおかしい竜。周りからは大竜種の誇りを持っていないとすら呼ばれる奇竜だ。そんな彼に客人をもてなすようなことが出来るのかと思ってしまう。自身の主張を淀みなくそのまま言葉に載せるザード。すると珍しく大母竜が笑った。

「其れはあの子のことをよく知らないから言えるのです。ヴァール程竜らしく自由に生きている者はいません。其れに実力で言ったらあの子に並ぶ者など居りませんよ」

「・・・・そうなの・・・ですか?」

 ご機嫌な様子で語る大母竜だが、ザードは彼女の主張をあまりピンとこなかった。

「信じていませんね? 良いでしょう。そこまで心配なら、あなたにはヴァールの補佐を命じます」

 突拍子も無い提案に思わず顔を上げて、口も開けてしまう。そんな様子が可笑しかったのか。それともザードのその間抜けな姿をより間抜けにした姿を見たかったのか。大母竜は揶揄うような笑みを浮べて言葉を紡ぐ。

「いつものような返事はどうしたのですか?」

 彼は悔しそうに口を歪めながら顔を伏せる。

「御心のままに」


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