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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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六十九話 緊急脱出

 軟体獣の完全なる死角。それは複数存在する。アダルが潜り込んだ脚部の触手群の中。瞳が一つしか無いため一方向を凝視し続けると其れが左右と上部も当てはまる。そして尤も無防備で注意が一番向けなければ行けない所。目が横にある生物以外だったら絶対成る死角となる箇所。背後にリヴァトーンは来ていた。唯一動く頭部は光線を動かすために振り回されているが、軟体獣からは完全にリヴァトーンの姿が見えない。アダルが自身に注意を向けている事と、軟体獣アダルに対する執念からその頭にはリヴァトーンという存在のことは完全に忘れられていた。今回の戦いで軟体獣は多数の敵と同時に戦闘を繰り広げるという行為を苦手としていることを理解出来た。証拠に軟体獣は自分に攻撃を仕掛けて来る。または攻撃した相手にしか攻撃を仕掛けていない。その前に攻撃された相手の事を完全に頭から消し去らないと出来ない。その行動を見るだけでそこへ思考が到るのは簡単な事だ。

 それが今の状態の軟体獣。リヴァトーンの事を完全に忘れており、注意がアダルにしか向いていない。そのために背後にいるリヴァトーンから見た軟体獣がただの狙いやすい的にしか見えていない。ゆっくりとした動作で逆手に持ったトリアイナを顔の横に構える。その際に音は一切鳴らない。精錬された流れるような動きは一切音を発しない。

『隙は作ったぞ』

『言われずとも分かっているっての』

 軟体獣が反応を示す前に腕を振り抜く。其れは何の妨害も無く、目標を突く。サレだけではリヴァトーンは止まらない。さらに力を込め、トリアイナを押し込む。肉の抵抗を感じるがそれを無視しながら力を込める。其れを続けると一切の抵抗の無さをトリアイナから感じ取った。

『ギュウアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』

 直後に軟体獣の悲鳴が間近から出された。思わず顔を顰めて、耳を押えたい衝動に駆られるが、それを我慢してトリアイナをねじりながら引き抜く。

『ギュアアアンムッ!?』

 肉を抜き取らりながらトリアイナを引き抜くと軟体獣は悲鳴を上げ終るとぐったりと前屈みに俯いた。

『・・・・・・終ったのか?』

 その様子を背後から見ていたリヴァトーンは思わず皹を傾げる。先程貫いた箇所を覗いてみると向こう側まで見えた。

『だから感じなくなったのか』

 抵抗が無くなった理由が分かり、彼は納得する。確かにもう貫く物が無ければ一切抵抗は感じないなと。

貫いた後を観察し続けると、抉った残骸から徐々に存在が消え始めた。正常にトリアイナの能力が発動された。体の正面にある傷からも相当海水に溶け出し、最早内蔵が見えるまでになっていた。

『これで終った・・・・・・のか?』

 この様な呆気の無い結末にリヴァトーンは疑問に思うしか無い。アダルの方に向き、目で其れを訴える。

『まったく。なんて惨い殺し方をしたんだよお前は』

 呆れた様な笑い声交じりの軽口。その反応からしてアダルは軟体獣が完全に事切れたとみるのだろう。

『表から見て、どうなんだ?』

『眼球が抉られている』

 たった一言だったが、其れを想像する事が嫌になり手で制止させた。軽く思う浮べて仕舞ったが為に気分が悪くなり、手で口をおさえた。

『だが、こいつも生物だから本当に死ぬんだな』

『生命力の強い相手と闘うのはこれだから苦労する。今回はこいつのせいで痛い目を見たからな』

 リヴァトーンはアダルの苦い声を耳に入れながら軟体獣の体を観察する。死に体と成っているはずなのに、違和感を感じ取る。しかし其れが何なのかリヴァトーン理解出来がたい。

『気になることがあるのか?』

 海面近くより降りてきたアダルの問いかけに素直に頷く。

『違和感を感じるんだが。其れをどう表現したら良いか・・・』

 上手く表現できず唸りながら、軟体獣を見ながら考える。

『違和感ね・・・』

 リヴァトーンに倣ってアダルも死体に目をやる。

『・・・・・。お前の気のせい。って訳ではなさそうだ』

 軟体獣の死体を見てアダルは彼の言葉に同意した。確かに違和感を感じさせる。

『ああ、そうか』

 観察していく内にアダルは気付いてしまった違和感の正体を。

『くそ。また面倒な事をしてくれるよ』

『違和感の正体に気付いたのか』

 溜息を吐きつつ。頭を面倒だと言いたげに掻きながら頷いてみせるとアダルはリヴァトーンの首根っこを捕まえると賺さず翼を展開して上昇する。

『おばぁっ!』

 突然の事で思考が追いつかないリヴァトーンはその急激に襲ってきたスピードに耐えきれずに肺の中の息を全て漏らした。そんな事をお構い無しにアダルはそのスピードのまま海中から脱出しようとする。しかしそこで彼はリヴァトーンの連れが近くにいることを思い出し、海中からの離脱を断念。方向を上から陸側に変更して、海中を進む。彼の思い出した存在は海中で暇そうに欠伸をしながら眠そうにしていた。しかし接近するアダルの存在をその目で確認すると目を見開く。

「な、なにがいったあぶぅ」

 言葉を遮るように彼女を掴むと今度こそ上昇し、海中から脱出する。脱出して尚、彼は上昇を止めずに、上空二千メートルに到ったところで漸く停止する。

『済まないな。割と緊急事態だったんだ。見てみろ』

アダルに促されるままに二人は目下の海に目をやる。

『おいおいおいおい!』

「・・・・なんでこんなことになってるの」

 彼らふたりが目にした光景に衝撃を受けている。そしてふたりとも同じように悲哀に満ちた表情になってしまった。

『おい、あいつは死んだんじゃないのか』

『ああ、確かに事切れていた。其れは俺も間近で確認したからな』

『じゃあ、あれは何だ! なんでだ!倒したはずだろ。目を抉ったはずだろ! なんで海が石化していくんだよ!』

 叫びによる訴えにアダルは真顔で徐々に石化していく海を見ている。その速度は恐ろしいほど速く、石化は最早陸にまで到達していた。そこで勢いは明らかに衰えたが、それでも港を。街を構い無しに石へと変えていく。

『悪魔種の幹部が注いだ力が原因だろうな』

『!? 何だよ。何か知っているのか?』

 問いただしてくるリヴァトーンに先程出会った悪魔種の幹部。インディコについて説明するべきかアダルは悩む。しかし時間が其れを許さない。だからこそアダルは説明は今の段階では詳しくはしないことを選択する。

『お前が一人で闘っていたとき、空から軟体獣に向けて放たれていた物があったろ。おそらくあれのせいでこうなっているんだろうな。今は時間が無いから詳しくは後だ』

 リヴァトーンとてそれで納得はしていない。しかし状況が状況のため彼の言葉に同意するしかないのだ。

『今は其れで納得してやる。だが一つだけ答えろ。軟体獣がああなることが分かって俺たちを連れてここまで来たのか』

『そんなわけがあるか。ここまで逃げてきたのは直感だ。俺だって違和感の正体が分かったところでここまでの事になるとは思わなかった。だが、俺の危険信号が脳内でけたたましく鳴っていたからな。それなりの危険が迫っていると思っての行動だ。だけど直感にしたがって正解だったな』

 冷や汗を拭うアダルの姿は余裕が無かった事をうかがわせる。

『海から脱出する寸前でお前を思い出してな。危なかった』

「そこまで私は眼中に無いか!」

 その発言にユリーノは甲高い声で怒りを表現する。

『なあ、そろそろ話しを戻そうぜ。これはどうやったら止まるんだ!』

「そうよ! このままじゃ私達のふるさとが無くなるかも知れないんだよ!」

 真面目に訴える両名。多分国を心配為ての発言だと聞いていて分かった。アダルだって海人種の国が海底のどこにあるのかは知らない。だがユリーノの発言からしてここからそう遠くはないと言う事が分かった。そうでなくても彼らが慣れ親しんだ海だ。元の美しい姿に戻してやりたいのだろうか思える。だからこそこそアダルも考える。彼らの期待に添えるような答えを。


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