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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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六十七話 成長痛

 リヴァトーンが口上をした後、突撃したのを見送るとアダルは直ぐさま海面に顔を向ける。

『もうすぐか』

 何か自分にとって都合が良かった物を見付けたのかその声は明るかった。直ぐに彼は海面に向け飛び立つ。再生不十分な鍔であった為速度は前ほど出ないが、推進力にさえ成れば、自然に海面に着くことからそこまで気にしている様子は無かった。ゆっくりと海面に向かっている最中、その目を軟体獣とリヴァトーンに向ける。その様子を観察してみて、アダルのか思った感想は二つ。無謀とリヴァトーンらしいというものだった。一時期自分に引っ張られ、戦闘時に考えて動くようになっていたリヴァトーン。しかしそれでは彼の良さを消してしまうことにアダルは直ぐに気付いた。あれは自分のような希有な存在だけが出来る事である事は以前から分かっていた。そしてそのような戦い方を見て、真似する物がいると言う事も。彼の父、スサイドンもアダルの戦い方をまねようとした者の一人だった。彼は自身が短絡的である事を気にしていたきらいがあった。そんな自分を変えたくて地上に武者修行として出て来た。そんな中で出会ったのが、常に思考しながら其れを実行に起こすことが出来たアダルという存在だった。彼と行動を共にするようになるとスサイドンはアダルを真似るかのように考えて闘い始めた。しかし其れは最初から上手くいかなかった。思考しながらの戦闘。それは戦いのプロなら誰でも無意識に出来ていること。アダルはただ其れが他の物達よりも情報処理力があった為意識して出来ただけのことだった。しかし他の物達は違う。元々無意識での思考しながらの戦闘を意識してすると、頭はその情報量が追いつかずにパンクしてしまう。結果として、攻めることが出来ず、唯々防御一辺倒になるという場面が地上での修行中に幾つかあった。それらがあった後、アダルが自分を真似するような事は止めろと言うまでそれらは続けられた。其れまでの結果を見れば誰もが思うことだ。そのことにスサイドンも納得して其れを止めるようになった。代わりと行っては何だが、他の方法をアダルは授けると其れは彼に合ったらしくその手法によってスサイドンは実力を伸ばしていった。

 そんな事があったなと思い出して、アダルはリヴァトーンはやはりスサイドンより素質があったなと結論付ける。何故なら彼は思考を意識してでの戦闘でそれなりの順応を見せていた。だが其れが自分には向いていないと分かるや直ぐにそれを捨てた。完全にではないが、いざという所では直感に身を任せている。

『最終的に体が判断するんだよな。お前等は』

 突撃を仕掛けているリヴァトーンは次々と襲いかかる触手を器用に避けつつ、確実に近付いて行っている。所々鉤爪が接触した場面も見受けられたが、あの程度では痛みも傷も残らないだろうと傍目で分かる。

リヴァトーンが自身の攻撃範囲内まで軟体獣に近付いたその頃、アダルも又海面近くまで漸く浮上した。かなりゆっくり目の浮上だったなと自嘲気味にから笑いする。

 アダルが海面近くまで浮上してきたのには当然の事ながら理由が存在する。彼はそこで浮上を停止し、周りを見渡す。海面近くはうっすらと明るくなっていた。つまりはもうすぐ夜明けが近いことを指している。

『というかもうそんなに時間が経ったのかよ』

 考えてみれば当然かも知れない。何せリヴァトーンが休憩する時間を作るため自分は何時間か一人で闘っていたのだから。

『っと、余計な事考えている暇は無いな』

 眼下のリヴァトーンの様子を伺うとどうも攻めあぐれている様子。時間に余裕がないと言うわけでは無いが、用事は早急に済ませた方が良さそうな雰囲気。だが、未だにあダルが求めている物は現れない。焦る気持ちは今現時点では持ち合わせていなく、彼はじっと冷静にそのときが来るのを待っている。

『・・・・・・来たな』

 そこの柄は明らかに笑っていた。言葉を言い終えると彼はおもむろに海面にへと顔を上げる。彼が見た光景は空が青くなっていき、そして、水平線から昇る太陽からの光が海面より差し込む物だった。

『待っていたぞ、これを』

 アダルは海中に差し込む光を遮る様な体勢をとった。彼が其れをしたことによって不思議と朝日の光はアダルへと収束するように集まっていく。

『やっぱり朝になったらまずは日光を浴びないとな』

 眼下で拡がる殺伐とした雰囲気の中、空気を読まずに明るい声で言い放つ。彼に光が収束していく内に、彼の体に変化が見られた。再生不十分で小さくなっていた翼が徐々に元の大きさへと戻ろうと少しずつだが再生が始まったのだ。完全に修復するのにはさすがに時間を要したが、確実に再生されて行っていた。翼が再生されていくと同時に幾つかの再生出来きれなかった小さな傷も回復していく。

『治っていくのは良いが、これもこれで結構な苦痛だよな』

 翼が元の大きさになっていくのをアダルは痛みによって感じ取る。アダルが自身の回復能力は欠陥だらけと思う理由の一つがこれだ。彼が味わっている痛みは誰もが経験がある成長痛の痛みだ。彼の再生能力は正直言って万能と言える物だ。しかし其れは他人からの評価であって本人はそうは思って居ない。たしかにアダルからして割かし大事にならない程度の怪我。例えば戦闘の際に軽い負傷の場合だったら何もリスク無く再生出来る。しかしその規模が大きくなり体の一部が欠損した場合では話しが違ってくる。彼も生物だから当然ながら痛みを感じる。だから欠損した瞬間は当然の如く強烈な痛みを感じる。しかしその痛みはアダルは直ぐに収まる。彼は光がある場所では無条件にいくら体が欠損しようと元に戻るというとんでも再生能力を持っているから欠損による痛みがなくなるのだ。いや、この表現は正しくは無い。確かに欠損の痛みは和らぐ。しかし他の痛みが彼に襲いかかって、欠損による物を打ち消すのだ。彼はこれまでに無表情でこの行為を行なってきたが、本人からしたらただ他人に悟らせないようにするためのやせ我慢をしていたに過ぎない。成長に伴う痛みは人それぞれだ。痛みを感じていない人もいれば、過剰に痛みを感じる人も存在する。大体の人が多少の痛みを日に日に朝起きて感じることだろう。其れに比べて彼の痛みは物の数秒から数十秒程度しかない。しかしそれがとても痛いのだ。何せ本来徐々に行なう成長を強制的に数十秒に押し込めるのだ。当然の如く成長痛も一気に来る。そしてアダルの体は極端に成長痛による痛みを感じやすい体質だった。彼の人生の中で一番の苦痛の時期は間違い無く成長期の時期であった。その時の事を思い出すだけで、余計に痛みが増してしまう。何せまさか体がここまで巨大化するなんて思ってもいなかった時期に強烈な痛みが彼を襲ったのだ。

『まあ、あの時に比べたらこの程度堂って事無いか』

 口ではそう言っているが、彼の表情に余裕は無かった。一回自身の翼がどの程度再生されたか確認の為に振り返ると、其れはほぼ終りかけていた。痛みも先程より無い事からアダルは気の抜けたのか思わず息を溢した。

『良し終ったな』

 痛みが引いたことにより再生が終了したことを感じ取ったアダルは翼の再生に不備が無いか目視で確かめる。問題が無いと確認を終えるや否や自分がこの様な苦痛を味わう切っ掛けとなった軟体獣をキツく睨む。

『リヴァトーンの報復はまだ終っていない様だな。そんなにのろのろやってると先に俺が済ますぞ』

 リヴァトーンの不甲斐なさに文句を吐きながらアダルはその身を再生したばかりの翼で覆い、その場で回転を始めた。



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