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虹翼の天輝鳥  作者: 緒野泰十
第二章 海乱の軟体獣
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六十六話 特攻

 トリアイナは高速で海水を切りながら真っ直ぐと目標へと飛翔する。しかしその軌道は素直すぎるためか直ぐに読まれ対策が早かった。軟体獣は触手を二本投擲されたトリアイナに向かわせた。無論このまま向かわせるだけでは直ぐに海水へ解かされてしまうため穂先から遠い場所を掴ませた。柄尻を二本の触手で捕らえたトリアイナは勢いを完全に殺されて、強制停止させられた。

『チィ! バレてやがんの!』

 この対応を見て、リヴァトーンは直ぐに軟体獣は未だに考える能力があること事を察して、苦悶の顔つきをする。もしただ痛みに悶えて、思考を停止させている場合だったら今のような対応をせずに素直によける事しかしないはずなのだ。しかしそれをせずに穂先に触らずに遠い柄尻を捕らえたのだろう。

軟体獣は見ていたのだ。リヴァトーンが触れている柄は触っていても解けることは無い所を。しかし確証は無く、ただ単純に海人種は触っても効果が無いのかも知れないという恐怖も存在した。だからそれを確かめる意味で穂先から遠い柄尻をとらえたのだ。結果としては観察通りであった為安堵しようと知るが、傷の痛みが走り今はそのような状況で無い事を思い出す。目を持っているトリアイナに向け、その次にリヴァトーンに向ける。居場所を見付けると、先程のお返しというようにそれを投擲させた。スピードは先程リヴァトーンが投げた際と同じ程出ている。その光景を見ていたリヴァトーンは何回目かの舌打ちを鳴らして投げられたトリアイナに何か念じるように手を掲げる。するとリヴァトーンに到達する前に速度は緩まり、一瞬に体を反らして直撃を回避。その際に柄を掴み体を回転させる。回転で勢いをつけた後、リヴァトーンはトリアイナもろとも軟体獣へ突撃を仕掛けた。先程のように水を切って進むが、今回はそれだけでは無くリヴァトーンという最高水準の推進力と制御装置が付いている。そのため軟体獣が向ける触手の襲撃を当る事無くする抜け続け、遂に胴体に直接攻撃できる距離まで間合いを詰める。リヴァトーンはそんな近距離まで来ても速度を緩めない。穂先に当るのが怖い軟体獣はその予測軌道から体を反らして回避行動をする。このまま行けばリヴァトーンとトリアイナは素通りしていく。しかし軟体獣の意識は今トリアイ何しか行って無く付随しているリヴァトーンの攻撃は思考が追いつかず対応出来ない状況だった。軟体獣との距離が腕を伸ばせば当る様な状況はスピードを緩めていないこの状況では一秒も満たない。そこで仕掛けた。片手を離して二つある鋭利な鰭に海水を収束させて、それらを肥大化させた。もちろん本当に肥大化したわけでは無い。そう見えるだけであって鰭本体は肥大化していない。それで軟体獣の頬を切らんと腕を横に薙ぐ。リヴァトーンは軟体獣の横を通り抜けた。スピードはそのまま直進し、触手の攻撃圏内から離脱する。傷を負ったような痛みは無い。実際に見てみても傷とみられるものは存在しなかった。触手の猛攻を受けていたとき、当然ながら全てを回避出来たわけでは無い。幾つか語ってはいた。しかし今は痛みも傷もないと言うことはそれによっては大してダメージを負うことは無かったということなのだろう。

『さて、俺の攻撃はどうだ?』

 それは当ったのか否か。彼自身の感触としては先程の攻撃は当ってなかったと見ている。感触が無く、あまりにも早くあの場を離脱したため傷が出来たのか確認出来なかったためだ。それを確認しようと目をこらして軟体獣を凝視する。アダルほど目が良いわけでは無い彼だが、少し離れた程度だったら彼でも見える。鰭が襲ったであろう胴体にはそれらしい傷は見受けられない。やはり自分の攻撃は当っていなかったのだと思い、ふと軟体獣の顔に目が行った。すると頬にうっすらとした線が描かれて折り、そこから血が流れ出ていた。

『掠りはしたのか』

 それを見ても喜ぶことは無かった。何せ与えたダメージなどゼロなのだから。

『まあ、これが通用するって事が分かっただけ良いか』

 自分にしか聞えない位の小声で呟き、次の行動に移った。

 今度は軟体獣の周りを高速で周回し始める。それによってリヴァトーンの姿は残像でしか捕らえられなくなる。最初の内は軟体獣もなんとか彼を目で追おうとするが、その前に目が回ってしまうことに気付き断念。代わりに周回している軌道上に触手を差し向ける。

『対応が早すぎ理だろ!』

 軌道上に触手を置かれたことでリヴァトーンは急停止して、それから距離を取った。彼の目論みでは巨大無い渦を作って軟体獣をその中に閉じ込めるつもりでいたが、それはあまりにも分かりやすい作戦だったようで尤も簡単で労力の少ない手段で止められてしまった。

『なんか俺ばっかり攻めている気がするんだが、あいつはどこ行ったんだ?』

 悪態をつきながら、リヴァトーンは彼を探すことは無かった。彼に限って逃げると言うことはしない。何か考えがあって、あえて行動をしないのだろう。きっと今頃は次に仕掛ける攻撃の下準備でもしているか、或いは自分の攻撃を観察しているの二つ。そのうち行動を起こすだろうと結論をつける。

『問題は俺の方だな』

 アダルの事など気にしている暇など無い。何せ今問題に直面してしまっているのだから。

『どう攻めるかな』

 そうリヴァトーンには攻めのバリエーションが足りない。何せ彼には遠距離攻撃がトリアイナの投擲くらいしか無く、その他の技量は近距離に特化している。遠距離攻撃が使えない今、頼みの綱は近距離での物ばかり。しかしそれを容易に仕掛けさせるほど軟体獣も容易に近づけさせてはくれない。まあ、今の状態なら、近付く最中に攻撃を受けてもダメージには成らない。

『なら、その特性を生かさないとだよな』

 先程やった一撃離脱。自身の特性を尤も生かせる戦法だと直感する。そしてそれによって駄目-自我与えられ、タイミングをトリアイナと合わせられれば急接近時に無傷で相手にダメージが与えられることだろうと言うことが安易に予想できた。先程の使用時。接近時に頭に浮かんだ思いつきだったが、それを咄嗟に使用し成功したことも含めて。タイミングさえ合えば軟体獣にダメージを負わせることが可能であるという事を示してくれた。

『まあ、俺は突撃しか出来ないしな!!』

 宣言通り突撃しようとしたその瞬間。突如として海面近く。つまりは上の方が明るくなったのを目が捕らえた。本能で自身の身に危険を与える物だと察知し、突撃する方向を前方から後方に変更。急ぎその場から後退する。その際に彼は上に目を向ける。そこには確かな光源があった。リヴァトーンは疎か軟体獣おも包めるほど巨大な光球。アダルが作ったであろう光球によって海中は昼間の浅瀬を思わせるほど透き通る明るさになった。

『ギュガムンゥ?』

 周りが明るくなったことに気付いた軟体獣もそれに目を向け、怪訝そうに唸る。巨大な光球はあまりの眩しさからリヴァトーンも軟体獣も目を細めて見ている。

『あれはヤバいな。さすがに』

 直感であったはずの危険信号が幻聴で聞こえる程高くなり、いよいよリヴァトーンは脇目も振らずその場から退避した。情けない話しではあるがここに留まればあの光球から仕掛けられるであろう無差別攻撃に巻き込まれる。アダルからしたらそのような意思はないだろうが攻撃がいざ始まるという瞬間を目にしてしまえば留まる意志という物は消え去るだろう。彼が最後に見た光球は高速で回転し、所々光の矢のような物が光球より出ていた。回転したそれによって放たれる矢は四方八方に飛び散る事は容易に想像できたため、退避したのだ。

『いっつぅ!』

 脇目も振らずに退避していたリヴァトーンは不意に右太腿を何かが掠られた痛みが襲う。見るとそこからは切られた様な傷が出来ておりそこから血が噴き出していた。まさかこの形態になって初めての出血が味方からの物だった事に軽く気持ちが萎えた。

『やり過ぎだ! 少しは周りを見て攻撃しろ馬鹿!』

 海中にリヴァトーンの罵倒が響きわたる。その際に振り返り、その光景に思わず絶句する。

『・・・・・・!』

 放たれた光の矢はスコールのような勢いで光球より無差別に放たれている。それに様って海底には光の矢が隙間がない位に刺さっていた。そして肝心の軟体獣には何十本にも及ぶ光矢が刺さっており、その全てが軟体獣の体を貫いていた。

『何つう威力』

 その光景を目撃してリヴァトーンは改めて実感させられた。同じサイズになったとしても自身とアダルとの格の違いを。


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